言葉はいつもひとりぼっちだ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田中優希菜(ライティング・ゼミ5月コース)
ふと気がついた。
ライティングゼミで毎週記事を書くようになって、数日後に講評が届く。
その講評が届くまでの間に、いつも思うことがある。
「記事を書いたときはこう思ったけど、今考えるとちょっと違うかもなぁ」
これまで書いた記事のほとんどはエッセイだ。
自分の心の中のつぶやきをテーマに「なぜそう思うの?」と納得がいくまで深堀りして、それから書き始めることが多い。
だから、書いたときは「自分はこう考えているのだ」とはっきり整理して文字にする。
自分に100%しっくりくる言葉を選んでいるはずなのに、なぜか数日後には違ったなと思うから不思議だ。
もっと深堀りしたほうが良かったのか、もっと調べてから書けば良かったのか……そんなもやもやを抱えながら、また数日を過ごす。
そんな日々の中で、ぼんやり自分のSNSを遡っていたら、気になる投稿を見つけた。
「言葉はいつもひとりぼっちだ」
そうか、と腑に落ちた。
私の悩みは、言葉の本質とも言える悩みだったのだ。
*
言葉というのは、不思議な機能を持っている。
それは、現実をぎゅっと閉じ込める力だ。
なぜか心惹かれる気持ちに「好きだ」と言葉がついた瞬間、どうしようもなく自覚する恋心があったり、逆に嫌な気持ちについて「上司は調子が悪い日に限って詰めてくるから苦手だ」と言葉で説明してみると、案外自分の調子の問題かもしれないと別の視点を持てたりもする。
私たちが見ている世界は、言葉で作られている。そういう考えもあるらしい。
それくらい、言葉は現実のあらゆるものに形と情景をつけることができる。
そうすることで、他の人にも伝わる形になる。自分でも客観視できる形になる。
現実をぎゅっと閉じ込めるというのは、その言葉を思い出すと、いつでも、どこにいても、時代を越えても、その言葉で描いた現実が再現されるような、そんなイメージだ。
私は、その最たる例が小説だと思っている。
白い紙に黒いインクが染みているただそれだけのもので、なぜこんなにも感情が突き動かされるのか。その理由は、ぎゅっと閉じ込めた世界を、言葉を通して頭の中に再現できるからじゃないか。本を読めば、今の自分には出会えないような人、知識、世界を覗き見ることができる。
だから私は小説に、物語にハマった。それは紛れもなく言葉の大きな力だと思う。
*
言葉は、たった1行でも、たった1単語でも非常に雄弁で、出会った人たちに大きな世界を見せてくれる。
一方で、一度外に出た言葉は、決して変わることはなく、その瞬間だけを映している。
未来のことを描いた言葉も、その時書き手が想像した世界をぎゅっと閉じ込めた過去の遺物に過ぎない。言葉は「これまで」しか表せない。それが言葉の1つの本質なのだろう。
身近な例を考えてみよう。
「好きだ」と言葉にすると、自覚する前とはちょっと違う感情になっているんじゃないだろうか。
もっと好きが溢れてくるかもしれないし、「これが好きってことかぁ」とちょっとすっきりするかもしれない。
そうやって、言葉にすると、改めて気づくことがあったりして、言葉にする前とは現実がちょっと変わっている。
ついこの間書いた日記も、読み返すと全然違う印象を受けるし、数日前に書いたエッセイも、エッセイを書いたことで関連するものに目がいくようになり、また違った考えを持つようになったりする。
そうやって、変わらない言葉に触れて、私たちはその度に何か新しい知見を得る。
言霊とか、夢は言葉にすると叶うとか、思考は現実化するとか。そういうのも、言葉にすることでぼんやりした思いに形がついて、読んだ人の現実がちょっと変わる一例だろう。
そうやって、言葉は新しい現実を私たちの中に作る。でも、その言葉自体は変わることなく、何かが変わる前の現実に置き去りにされたまま、その世界にぽつんと存在し続ける。
だから、言葉は過去しか表せないし、言葉はいつだってひとりぼっちになる運命なのだ。
*
言葉はいつもひとりぼっちだ。その分、その時の現実がぎゅっと閉じ込められていて、いつだってその時のことを思い起こすことができる。
ひとりぼっちになった言葉に、誰かが触れる。それは自分でも他人でも誰でもいい。
言葉に触れた人は、そこに閉じ込められた情景を浮かべる。
現実に起こったこと、考えたこと、空想したこと。そんな誰かの過去を頭に再現して、書かれたこと以上のものを想像する。
そうやって、自分の中に新しい何かが生まれていく。心の中が豊かになっていく。
そういう力が、言葉にはあるのだと思う。
だから私は、ひとりぼっちの言葉にたくさん触れて、たくさん会話を重ねたい。
そこにはいろんな人の軌跡と、無限の可能性が広がっているのだから。
***
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