メディアグランプリ

私は、紙の本への愛を語る


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:茶谷香音(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)

 

20歳になった。

お祝いに、振袖を着て、写真館で撮影してもらうことになった。

撮影の3日前に、打ち合わせがあった。

振袖は青色だから、メイクは大人っぽい雰囲気でお願いします。

髪型は……お団子できっちりまとめるのが良いかな。髪飾りは大きい白い花のやつにしよう。

30分ほど経って、「最後になりますが」とスタッフさんが言った。

振袖を着て、推しグッズや思い入れのあるものと一緒に写真を撮ることができます。なにか持ち込みたいものはありますか? 

大した趣味も取り柄もない20歳。人生の節目に一緒に写真を撮るなら、あれしかない。

「本です!!!!!!!!!!!!」

「あ、本、ですか……? ええ、もちろん、大丈夫ですよ」

スタッフさんは一瞬戸惑ったように見えた。今時、まさか本を選ぶなんて、と思われたのかもしれない。

では当日、一緒に撮影したい本をお持ちになってお越しください。

スタッフの人にそう言われて、打ち合わせは終わった。

思えば私の人生は、物語と共にあった。

2歳の頃、大好きだった絵本は全部暗記していた。

小学生の頃、『しげちゃん』と『ただいま!マラング村』の読書感想文で賞をもらった。

中学生の時に『桜のような僕の恋人』を読んで、紙がクタクタになるほど繰り返して読み込んだ。

高校生になってからは心理学の本を読みあさった。

今でも、誕生日祝いに図書カードを買ってもらうほど、私の生活は本に依存している。

出版不況。紙の本が売れない時代。

家の周りに4つほどあった本屋は、今では1つしかない。

大学で本を読んでいると、周りに「偉いね」とか、「私は本読む時間なんてないよ」とか言われる。

たしかに映画やドラマ、ゲーム、電子書籍など、娯楽がたくさんあるこの時代に、わざわざ紙の本を買って読むのは、面倒かもしれない。

それでも、私にとって本は欠かせない。本は私の実家のようなものである。

家の本棚の前に立つと、色々なことを思い出す。

『マスカレード・ホテル』。ああ、親知らずの歯を4本一度に抜いたとき。痛みを紛らわすために泣きながら読んだな。

『こころ』。ああ、高校の授業でたくさん書き込みをして、本が真っ黒になっているな。

『楽園のカンヴァス』。ああ、物語冒頭の舞台となった岡山の倉敷まで行ったな。

『死にがいを求めて生きているの』。ああ、将来が見えなくて不安な時に、書店でタイトルに魅かれて買ったな。

紙の本一冊一冊が、私自身の物語とともに、本棚に佇んでいる。

紙の本は出しゃばってこない。私が、その本を再び手に取るまで、本棚でじっとしている。そしていざ本を手に取れば、その物語や思い出が、優しく出迎えてくれる。

まるで、普段は温かく見守ってくれている家族が、実家に帰るとリンゴを剝いて出迎えてくれるような感覚だ。

本は家族だ。だから、私の20歳のお祝いの写真に、絶対になくてはならない存在だったのだ。

写真撮影に持っていく本は、すぐに決まった。

町田そのこさんの、『月とアマリリス』である。

他にも大好きな本はたくさんある。ナンバー1は決められない。それでもこの本を選んだのは、本のデザインが、私が着る振袖の雰囲気にピッタリだったからだ。

私が紙の本を推す理由は、思い出としてだけでなく、「デザイン」にある。

本は読むものである。しかし、読むときの紙の触り心地や、表紙のデザインなども、その本を作り上げる要素である。

単行本の『月とアマリリス』の表紙には、真っ黒の背景に、青白いアマリリスという花が一輪描かれている。そして『月とアマリリス』という文字に光が当たると、まるで月のように銀色に輝く。シンプルなのに、引き込まれる表紙だ。

そして表紙を捲ると、真っ赤な紙が目に飛び込んでくる。とても深みのある赤色だ。私がイメージするアマリリスの花は、青色よりはこの赤色に近い。

黒い背景に青白い花が描かれた表紙とのギャップに、思わずため息が漏れる。

そしてさらにページを捲ると、今度は凹凸のある銀色の紙が現れる。月の表面みたいだ、と思った。ここで一気に物語の世界観に引き込まれる。

目次を挟み、いよいよ物語が始まる。プロローグ。

「こめかみから頬へ伝った汗が肌を離れる音を聞いた、気がした」

他の本よりも少し赤みがかった紙の上に、物語が描かれていく。

本のデザインや紙の話なんて、少しマニアックだ、と思う人がほとんどだろう。しかし、物語を読み終えた後で再び表紙を目にすると、ダムの放流のように感情が溢れ出す。この瞬間が、私は好きなのだ。

本は読み物である。しかし、ただ読むだけではない。物語が全てじゃない。

本のデザインとか、紙の質感とか、読んだ後に思い出と一緒に本棚に佇む姿とか、全部ひっくるめた「本」に、私は惹かれている。

紙の本の文化を残したい。

紙の本は私にとってただの読み物ではなく、もう一つの家族である。これからも、私は紙の本と共に生きていく。

≪終わり≫

 

 

***

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2025-08-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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