海と鳶とウィダーインゼリー
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:浅井ちひろ(ライティング・ゼミ7月コース)
私はおっちょこちょいだ。もちろんそのおっちょこちょいによる失態は多々あるのだが、性質に加えて外からもなぜか出来事がやってくる。
ある休日のこと。
疲れていたため海でぼーっとしたくて、近場の海へと出かけることした。朝早く、まだ外は暗い。浜辺で日の出と海を眺めながら朝食を取ろうと、サンドイッチを手作りした。温かい紅茶も用意し、準備は万端だ。ワクワクしながら朝食を入れた袋と共に車に乗り込み、1時間ほど運転して海へと向かった。
到着すると外は薄明かり。海横にあるコンクリート階段に座り、サンドイッチを頬張り始めた。地平線からは日が登り始め、グラデーションの空と光に照らされた海が美しい。「最高!」と思い、感動しながら食べ始めた。
と、その時だ。後頭部にガツン!と痛みと共に衝撃を感じた。手に持っていたサンドイッチは少し先の地面へと勢いよく吹き飛び落下。一瞬、何が起こったのかわからず、驚きと恐怖で思わず悲鳴を上げた。視線を前に走らせると、そこには羽ばたく鳶の後ろ姿が……!
状況をおわかりいただけただろうか。鳶が後ろからサンドイッチをかっさらおうとして私に突撃したのだ。サンドイッチは奪われることなく落下し、包んでいたサランラップだけがなくなっていた。まだ食べ始めたばかりだったのに……! 無惨なサンドイッチ。しばし鳶のアタックとサンドイッチの落下によるダブルショックで呆然。驚きと悔しさ、悲しみ。そして、笑い。少ししてから仕方ない、と思いながらサンドイッチを拾って袋にしまった。
気を取り直してしばらくコンクリートに座って景色を眺めてから、砂浜に降りようと立ち上がった。降りようとするところは苔か藻か、ぬるぬるしているように見える。ここは滑りそうと思いながらも「まぁゆっくり歩けば大丈夫」とその上を歩いて降りかけた。
次の瞬間、お尻に鋭い痛みを感じた。気づけば私は勢いよく滑り、尻もちをついていた。咄嗟に右手をついたため、右の手のひらはジンジンと痛み、血も滲んでいる。2回目の呆然。踏んだり蹴ったりだ。絵文字が使えるのならば、ここに泣き笑いの絵文字を挿入したい。手のひらはどんどん腫れていき、痛みも増していく。早く冷やした方がいいと判断、海を切り上げ、車に乗り込んだ。
痛む部分がハンドルに触れないようにして車を走らせながら、何で冷やすか必死に考えを巡らせる。コンビニに氷は売っているが、量が多すぎるし溶けるだけなので勿体無い気持ちになる。しかも手に当てながら帰ることは形状的に難しそう。アイスクリームは手に当てているうちに溶けて食べられなくなる。どうしよう。
そこで思いついたのはウィダーインゼリー(ゼリー飲料)。柔らかいため手に沿わせることができるし、ぬるくなっても再度冷やして食べることができる。「我ながら名案!」と思いながらコンビニに駆け込み、購入。さっそく手にウィダーインゼリーを当てて手持ちのタオルで縛りつける。冷やされて痛みが少し楽に感じた。
ハンドルを握ると非常に運転しづらい。見た目の滑稽さもすごい。しかしそんなことより何より、この右手の痛みと腫れを治めたい。そう思う理由は、単に怪我のことだけでなく、仕事、さらには一週間後に試験を控えていたからだ。筆記試験で右手を使う。ペンを握ることはできるのか。そこが気がかりだった。
どうにか家に辿り着き、帰ってすぐペンを握ってみた。大丈夫そうだと分かった時の安堵感は今も忘れていない。少し落ち着いた後、ことの顛末を家族に報告した。父が言った「それだけ派手に転べばもう滑らないんじゃないか」という言葉は、微かな慰めになった。私も思っていたのだ。鳶は別として、こんなに派手に滑って転んで、試験に落ちるのでは、と。結果、その思いは杞憂に終わり、幸い試験には合格することができた。何はともあれ終わりよければすべてよし。試験に受かれば無問題。
この出来事があってから、海で食べる時には必ず頭上や周辺を見まわし、鳶がいるかどうかを確認するようになった。40年と少し生きてきたけれど、鳶が手持ちのサンドイッチを奪おうとするなんて思ってもいなかった。思ってもいないことは対処のしようもない。人は経験して学ぶ。経験は活かせばそれでいい。滑って転んだことは完全に私の甘さだが、ぬるぬるしたところにも当然近づかないようにしている。
昔は自分が何かやらかす度にいちいち凹んでいたのだが、性分と受け止めてからはだいぶ心が楽になった。凹んでいたらキリがない。これからの人生でも様々なことが起こるだろうが、明るく楽しんで生きていきたい。
***
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