メディアグランプリ

ググる前にまず歩け、話せ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:塩田 健詞(ライティング・ゼミ5月コース)

 

「Googleのレビューでここのとんかつ屋、評価高かったんだよね。それでここにしたんだ」

久しぶりに集まった中学校時代の友人との昼食で、そう言われた。

 

私を含めた同級生たちは、大学進学や就職で多少の移動はあったものの、結局

は実家の近く、せいぜい電車で一駅か二駅の場所に暮らしている。「今日昼ご飯一緒に食べよ」――たったこれだけで集合できる。社会人になっても続く関係は案外珍しいのかもしれない。私自身は実家を出たが、就職先が地元に近かったこともあり、地元を出ずとも通勤できるメンバーも多い。中にはリモートワークをしている友人もいる。だから休日にこうして集まるのは造作もないことなのだ。

そんな私たちが昼食でよく行っていたのは、横浜家系ラーメンの店だった。 こってりとしたスープをすすりながら語り合うのは、いつもの定番の遊びルートだった。だがある日、「たまには別の店に行ってみよう」という提案が出た。みんな一斉にスマホを取り出し、検索を始める。

 

「この店は星3.8か……」

「こっちは4.2だな」

「レビュー件数が多い方が安心だろ」

 

その様子を眺めながら、私はどこかモヤモヤした気持ちを抱いていた。

 

なぜ、地元で生まれ育ったのに、すぐにお店の名前が出てこないのだろう。

私の頭には、家族と通った洋食屋や、友人と入った喫茶店の名前が浮かんでいた。だが口には出さなかった。結局選ばれたのは、Googleレビューで最も評価が高い店だった。星の数が、私たちの記憶や経験より優先されてしまった。合理的ではあるが、どこか寂しい選択だった。

その違和感を抱いたまま過ごしていたある日、鳥取に旅行へ出かけた。私はあ

えて検索を封印し、「地元の人におすすめを聞く」という方法をとってみることにした。普段の私なら、迷わずGoogleマップを開いてレビューを比較していただろう。しかし今回は、自分の足で情報を集めることに挑戦したのだ。

 

最初に立ち寄った喫茶店。カウンターの中に立つマスターは、少し驚いたよう

な顔でこちらを見たあと、にこっと笑って「それならモサエビを食べてごらん」と教えてくれた。

 

「東京には流通してないからね。身が甘くて締まっていて、クリームみたいなんだよ」

 

次に入った雑貨屋の女性は、大山鶏の話をしてくれた。

 

「唐揚げもステーキも焼き鳥もスープも、本当にいろんな食べ方ができるんだよ。鶏ってこんなに表現の幅があるんだって気づかされるはず」

 

さらにお土産屋の店主は、誇らしげにこう言った。

 

「牛骨ラーメンをぜひ食べてほしい。豚骨じゃなくて牛の骨で取ったスープなんだ。テールスープのようなコクがあって、どこか牛乳のような甘さもある。不思議な味わいだよ」

 

彼らの表情はどれも生き生きとしていた。言葉だけでなく、身振り手振りや声

の抑揚から「本当に好きなんだな」と伝わってきた。私は慌てて手帳を取り出し、必死にメモを取った。「この情報を逃してはいけない」と思ったからだ。

 

そして実際に店を訪ね、料理を口にした。

 

モサエビの濃厚な甘さは本当にクリームのようで、舌の上でとろける感覚に

驚かされた。大山鶏は塩焼きで噛むほどに旨みが広がり、唐揚げのジューシーさは想像を超えていた。牛骨ラーメンのスープはコクがありながらも優しく、麺に絡むと不思議な調和を生み出していた。

 

食べながら、私はまた新しい言葉を思いついていた。

 

「モサエビの甘みに加わる、この海の匂いは何だろう」

 

「大山鶏は塩で食べると鶏本来の力強さが際立つ」

 

「牛骨スープの奥にある甘みは、まるで時間の味だ」

 

誰かに教えてもらった表現をなぞるだけではなく、自分の舌で感じたことを

自分の言葉にしていた。そのとき初めて「情報が自分の中で変化する」感覚を味わった。

 

振り返れば、Googleレビューは便利だ。短時間で「外れにくい選択」ができ

る。しかしそこに血の通った温度はない。地元の人の言葉には、その人が生きてきた時間と経験が染み込んでいる。だからこそ「彼らの情報は生きている」と感じたのだ。

星の数値だけでは見えない世界がある。誰かの体験が、言葉として伝わり、

それを受け取った自分がまた別の言葉に変える。その連鎖が、食の記憶をより豊かにしていくのだと思う。

だから私は提案したい。レビューの点数やランキングに頼るだけでなく、とき

には自分の足で情報を集めてみてほしい。街を歩き、地元の人に話しかけ、自分の舌で確かめる。そのプロセスそのものが、食を楽しむ旅になる。

次にあなたが新しいお店を探すとき、ぜひ星の数だけでなく、人の声に耳を傾

けてほしい。そして、その声を自分の体験に変えて語ってみてほしい。そこから生まれる言葉こそが、あなた自身の「生きている情報」になるのだから。

 

***

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2025-08-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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