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本屋店主が全力でおススメする1冊の漫画本。読書会での涙の理由は…


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2025年6月開講】目標達成するための文章講座「ハイパフォーマンス・ライティング」〜たとえどんなに上手くとも、効果がなければ意味がない。〜

記事:和田 千尋(ハイパフォーマンス・ライティング)

 
 

「○ぬほど面白い!」――本屋店主のひとことから

「○ぬほど面白い!」
天狼院書店の三浦崇典店主がそう強調した―――。

とある昼下がり。仕事の合間に、二人の女性が休憩しながら話している。

「書店の店主が“○ぬほど面白い”って言うんだから、絶対にハズレないって思って」
「書店って、どこよ?」
「天狼院書店」
「……あ、聞いたことある!渋谷だけじゃなくて、名古屋・京都・福岡・湘南にもあるってとこでしょ?」
「そう!しかも本屋なのに“人生を変える講座”をたくさん開いてるユニークなお店なんだ」
「へぇ〜」
「で、その講座のひとつ“インフィニティ∞リーディング”っていう読書会で取り上げられたのが、藤本タツキ作『ルックバック』!」
「あっ!知ってる、藤本タツキって『チェンソーマン』の作者だよね!」
「そうそう、週刊少年ジャンプで連載中の」
「でも、読書会で漫画って、ちょっと意外だなー。」
「インフィニティ∞リーディングは、ジャンルにこだわらず、今読んでおきたい本をテーマにするからね」
「『ルックバック』は単行本が薄くて、すぐ読めるのに、長編のような満足感があるよね」

『ルックバック』を楽しむ新しい読書体験
「ところで“インフィニティ∞リーディング”って?」
「AIを使った未来型の読書会なんだよ。AIに情報を集めさせ、ナビゲーターがその場で一緒に驚いたり感心したり、ときには疑問を深掘りしたりするライブ。複数の最新AIを使うから、ものすごい情報量が集まってビックリだよ。自分ひとりで読む以上に学びが得られるんだ」
「へぇ〜」
「しかも事前に本を読んでなくてもOK!その場で解説してくれるからスッと内容が入ってくる。普段なら絶対手に取らない難しい本でも“やった、読んだことになる!”って得した気分になるんだよね」
「なるほど。普通の読書会みたいに知識がないと置いてけぼりって感じじゃないんだ」
「そうそう。例えば前はストア哲学をテーマに直前まで深堀りしてたんだけど、最終結論が“この本が家にあるとカッコいい”になったんだよ」
「えっ、それ面白すぎ!」
「でしょ?身の丈に落とし込んでくれるから、私でも安心して参加できるの」
「なるほどね。最近やたら難しい単語が会話に出てくるなって思ってたら……まさかこの会の影響?」
「バレたか」

「でもさ、本屋の店主が“面白い”って言っても、ちょっと信用ならない気がしない?八百屋さんが“どれも美味しいよ”って言うのと同じで」
「わかる〜。それって洋服屋さんの“その服すごい似合ってます!”と一緒だよね」
「あはは」
「その疑り深いヒネた感じ、主人公の藤野っぽくない?」
「藤野って漫画の冒頭で4コマ描いてる小4女子でしょ?褒められてもクールに受け流す」
「そうそう、ちょっとツンデレ感がカブってるよ」
「え〜それほめてないよね」
「ちなみに三浦店主はただの本屋の店主じゃないの。本を経営しつつ、自分でも読みまくって、講座を企画して、本を書いて、編集もしてる。知識豊富な本のプロ中のプロ。しかも“本は疑って読め”って、ハルシネーションの概念まで持ち込むくらいユニークな人なんだよ」
「へぇ〜」
「今回読書会でも『ルックバック』でオマージュされているほとんどの映画名を言い当ててたよ。
でもAIが書きだした文章
『何かに打ち込む全ての人に向けた“それでも描け(創れ)」というエール”であり、喪失を経験した人々への静かな励ましでもある』
という『ルックバック』の説明に、自身の過去を重ね合わせたのか、ジワっと涙ぐむという一幕もあったんだよ」
「そうか~」
漫画家には映画監督の素養がある?
「『ルックバック』ってさ、小4女児の藤野と、不登校の同級生の女児・京本の出会いから始まり、2人が漫画を通じて成長し、絆を深めていく青春ストーリーだよね」
「そう。中盤で突然訪れる事件により藤野は絶望の淵に追いやられる。でも、その後に描かれる、もう1つの世界(パラレルワールド)でも、結局2人は出会う。それがきっかけで「創作を続ける理由」に展開がフォーカスし、読者には強い思いが残るよね。
「コマの進みで時間経過が表現されている描き方を三浦店主が絶賛してたよ。そのため“インフィニティ∞リーディング”も最初の方は“漫画家には映画監督の素養がある”というテーマで進んでいた」
「意外なテーマだね」
「作中の会話や登場人物は最小限で、それらに頼ることないコマ割りの表現からの余韻が胸に刺さり、みるみる世界観に引き込まれたよ。様々なアングルも駆使されているので俯瞰的な視点が必要なんだと納得した」
「なるほど~ところで、普段あんまり漫画読まないのに、どうして『ルックバック』の漫画と映画と両方体験しようと思ったの?三浦店主の“○ぬほど面白い”に惹かれて?」
「それもあるけど……え♡それ聞いちゃう?」
「……まぁ」
「こ・く・ほ・う効果だよ」
「吉田修一の小説『国宝』?映画も観て、この前まで“国宝国宝”ってうるさかったやつ?」
「ひどいな〜。でもそう『国宝』にハマったのは事実。実は小説と映画を両方体験することで、原作と映画を行ったり来たりする楽しさに目覚めちゃったんだよね。原作である小説で、登場人物の心の動きを読み込んでから、映画で役者たちの表情やとりまく空気を浴びると、“あ、こういう解釈もできるのか”と驚きが何倍にも膨らむのよ。小説と映画って同じ物語を語っているようでいて、まったく違うものを提示してくることもある。その行き来に夢中になっちゃって」
「自分の中で完結していた小説の世界に、映画の解釈とビジュアルが加わるのって新鮮だよね。」
「映画『国宝』は映像美が想像の何倍も素晴らしくて、何ならほんとうに歌舞伎見に行こうかな、と思えるほどの衝撃だったのよ」
「なるほど」
https://tenro-in.com/event/367645/ 

「そんな体験を持ったまま迎えたのが、『ルックバック』。漫画と映画、両方を堪能できると知ったとき、心躍っちゃって。漫画を読んで、次に配信で映画を観て。すでに漫画で物語を知っているからこそ、“ここはどう描かれるんだろう?”と楽しむ気満々でスタートできる」
「映像は迫力が違うよね。『ルックバック』でも4コマ漫画の線、藤野の喜びの表現、夜の光と影。漫画で脳内に思い描いていたものが、“こういう形で映像化されるんだ”と具体的になっていく。その感覚はまさに答え合わせ。しかもその答えが、意外な方向に広がることもあって、“あ、こう解釈もできるんだ”とまた新たな発見にもなるし。
 ……ちょっと、話聞いてる?なんでキョロキョロしてるの?」
「あ〜、ここから『ルックバック』のネタバレ入りそうから、まだ読んでない人が近くにいたら悪いかなって思って」
「やだなぁ、周りに誰もいないよ」
「……そうか」

クライマックスを盛り上げる仕掛けとは

「で、映画での新たな発見って?」
「ん~とね、クライマックスの持って行き方が、よりわかりやすくなっていたのが印象的だったかな」

「それはつまり?」
「え~、まず藤野が京本の部屋の前で、京本が亡くなったことに対して自分を責めている場面を思い浮かべてみて」。
「……」
「そこに時空を超えて、京本が書いた4コマ漫画が手元に届く」。
「藤野がキックで殺人者を倒して、去っていった際に背中につるはしが刺さっていた作品だね」
「漫画ではタイトルと4コマ漫画が同時に登場するから読者は『タイトル→漫画』の順で目線が移動。だけど映画では、漫画が先にどーんと先に出て、一呼吸の後タイトルが出るのでより強調される」

「『背中をみて 京本』だ!」

「そう、“これがすべてを貫く主題だったのか”と映画を観て背筋がぞくぞくした」

「わぉ」

「そして、クライマックスにむけて、伏線が回収されていく。あの場面は一番ググっときたよ」

「え~どんなんだっけ」

「つまり……『ルックバック』では京本は明かされてないのに藤野だけは下の名前が出てくる」

「あれ?藤野の下の名前って……?」

「ま、それは後で-。
で、次の場面で『背中を見て 京本』の漫画を観た藤野が導かれるようにフラフラと京本の部屋のドアを開ける」

「うん」

「……で、藤野が描いたいた漫画『シャークキック』が何冊も購入されていること、京本がおそらくシャークキックに関しての読書ハガキを熱心に送ってくれていたことを知る。

「うんうん」
「そして目線は窓にいくつか貼ってあった4コマ漫画に行き、先ほど手にした漫画を思い出し……」
「……うんうんうんっ」
「『背中を見て』の言葉を体現するようにふりむくと……」
「振り向くと?……」
「そこには小学生時代、頼まれて背中にサインを描いた“丹前(熱く綿を入れた防寒用の日本式上着。小学生時代の京本愛用品)”が飾ってあった」

「うわっ……その先言わないで涙腺が」
「決意を表すかのように背中に大きく書かれたサインの文字は『藤野 歩』。藤野のフルネーム。」
「!!」
「『歩』んでいくという自らの思いと、そうしてほしいという京本の願いが一致する名前が、ここで効果的に読者に公開される。」
「!!!」
「『藤野 歩』という文字を見て、我々読者は無意識に藤野たちが歩んできた過去に意識が飛ばされる。そして藤野自身も、過去の『歩』んできた記憶を『ルックバック』することで、京本という最高の読者と相棒を得て、前へと『歩』もうと思っていた自分を再確認する。」

「『歩』~~!!!やばい……るっ涙腺が崩壊……するかも」

「そして藤野は漫画家という世界に戻っていく。京本の思いものせて。」
「あぁ」

「そうなってくるとパラレルワールドの救急車の場面は胸アツだよね。」
「初めて藤野と京本が会話するのが、あの救急車での場面だったね。そんな胸アツだった?」
「そこで元の世界ほどの熱量ではないけど、京本の口から、自分は藤野の4コマ漫画のファンだったと明かされたからね。その後、元の世界と同じ問い『なんで漫画描くのやめちゃったんですか』が発せられる。

藤野は1コマ分考えた後、『最近また描き始めたよ!連載できたらアシスタントになってね!』とVサイン。」
「そこは、元の世界での藤野と京本の関係を知っているから、思わずニヤリとしたよね」
「それを聞いた京本は、元の世界の藤野をなぞるように田舎道をスキップして帰り、藤野の4コマ漫画を読みかえす……。」
「そうだったね。」

「上記の『漫画また描き始めたよ』発言だけれど、実は藤野のウソではないかと思うんだよね。元の世界でも咄嗟に『賞に出す話を考えていて、ステップアップのために漫画をやめた』という発言があったし。
でもこの時は思い切り目をそらせていたけど、救急車の場面では直視しているので、絶対でないけどね。」
「……」

「パラレルワールドでは元の世界よりだいぶ時間が経っちゃったけど、この救急車の場面から2人の漫画家としての物語が始まるんだな、って胸アツだったのよ。
元の世界よりも色々な要素の熱量が少ないので、残念ながら、この先2人は漫画家としては大成しないかもな。また京本の画力が上がっているから、今度は京本中心で『京本フジ』というペンネームになったりして……などと束の間未来への想像を楽しみながらページをめくると、急に、絶望の淵に立たされた藤野がいる、元の世界の場面に戻される」
「そして一気にクライマックスへ進む……となるんだね。明暗のコントラストが激しいね。感情揺さぶられまくりの仕掛けがここにもあったのか」

「パラレルワールドからの展開も踏まえると、『ルックバック(直訳すると過去を振り返れ)』という題名はそのまま受け取るのではなく、むしろ反語的な意味に近いんじゃないかと思っちゃった」
「?」
「過去を振り返ると、どうしても囚われてしまうからね。そうではなく
『過去は変えられるものでも、変えるものでもない。過去は背負うものであり、そのうえで最善の道へと進め』
って言われている気がしたよ。これ言われるとかなりズキンとくる」

「背負うのか……背負った(back)モノをちゃんと見ろ(look)ってことね。大した人生送ってこなかったから……背負うの辛いわ」
「喜んで背負えるような過去を、今後はつくっていかないとね」
「『ルックバック』って面白い漫画だ、で感想が終わっていたけど、そんな深い学びにつながるんだ。私も“インフィニティ∞リーディング”に参加してみようかな」
「オンライン参加もできるしアーカイブもあるから、気軽だよ。まずはインフィニティ∞リーディングの参加費が無料となる『天狼院書店 読書クラブ』で検索してみて」
https://tenro-in.cloud/pages/club

「9月24日(火)19時~は『鬼滅の刃』の回もあるんだ!原作と映画の“行ったり来たり”をまた楽しんでおこうかな」

「じゃ、次の休みは一緒に映画行こうよ!」
「こうやって読書会から世界が広がるの、いいね
……やば、休憩終わる!急がなきゃ、戻るよ!」
「ほんとだ!私たち、背中じゃなくて“時計を見て!”だね〜!」

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この記事は、天狼院書店の目標達成するための文章講座「ハイパフォーマンス・ライティング」を受講した方が書いたものです。「ハイパフォーマンス・ライティング」では、執筆いただいた記事をフィードバックしてもらえます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店/天狼院書店の公式noteのマガジン「READING LIFE/天狼院読書クラブマガジン」にアップされます。

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2025-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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