ティーカップに映る時間 ― アフタヌーンティーをめぐる心の旅
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:嘉藤恵(ライティング・ゼミ7月コース)]
私たちの生活には「ひと息つく時間」がどれくらいあるでしょうか。忙しい日々の中で、つい食事もお茶も「効率よく」すませてしまいがちです。でも、先日参加した「講話と料理:イギリスの生活、アフタヌーンティーを楽しもう」で学んだのは、お茶の時間が単なる飲食ではなく、人と人とを結びつける大切な文化であるということでした。
講師の方は、かつて英国の一流銀行にお勤めで、現地の暮らしに精通していらっしゃる方でした。お話の中で「昔はどの企業にも15分ほどのティーブレイクがあったけれど、今ではだんだん姿を消している」と聞いたとき、少し寂しさを覚えました。けれど同時に、それほどまでにお茶の時間が「働く人々の心を支える役割」を担っていたのだと気づかされました。
この日ふるまわれたのは、4種類のサンドイッチ……とんかつ、きゅうり、卵、スモークサーモン。それぞれ食パンの耳を切り落とし、小さなサイズに整えられています。とくにきゅうりのサンドイッチは、薄くスライスされたきゅうりの美しさが際立ちました。昔は使用人がひとつひとつ丁寧に切っていたそうで、その繊細な手仕事が「家の格」を映すものでもあったといいます。小さなサンドイッチには「女性が口を大きく開けなくても食べやすいように」という配慮も込められていると知り、そこに英国らしいエレガンスを感じました。
料理は見た目こそ軽やかでしたが、冷たいスープやサラダも添えられ、実際には十分なボリューム。紅茶を3杯いただく頃には、心もおなかも満たされていました。普段の食事とは違い「味わう時間」「語り合う時間」が主役となるのが、アフタヌーンティーなのだと体感できました。
アフタヌーンティーは、もともと上流階級の社交の場として広まりました。部屋に余裕のない庶民にはなかなか難しく、代わりにワーカークラスでは濃い紅茶をマグカップで楽しむのが一般的だったそうです。一方で、上流階級では一度にたくさん紅茶を飲むため、あえて薄めにいれて長く味わったとか。紅茶ひとつをとっても、生活の背景や価値観が見えてくるのが面白いところです。
講話の中で心に残ったのは、女の子が生まれるとミニチュアのティーセットを贈る習慣がある、というお話です。それは「あなたが成長して、いつか社交の場に立つとき、どうか優雅にお茶を楽しめますように」という祈りのようなもの。小さなティーカップには、親から子への願いが込められているのだと想像すると、文化の奥にある温かな心のつながりを感じました。
スコーンも印象的でした。日本でよく見かけるサイズよりもずっと大きく、ひとつでおなかいっぱいになるほど。ジャムやクロテッドクリームを添えていただくそのスタイルは、やはり英国の豊かさを象徴しているように思います。アフタヌーンティーにはお酒が出ないので、女性同士の語らいの場として親しまれてきたというのも納得です。
お茶を囲みながら語られるのは、芸術や文化、日々の暮らしの話題。そこには、ただの情報交換ではなく「互いに学び合い、感性を磨き合う」時間が流れていたのでしょう。常に新しい話題を提供できるようにするには勉強が欠かせない……そんな意識が、英国の知的な社交文化を支えてきたのだと思います。
ふと、自分自身の暮らしに引き寄せて考えてみました。私たちは忙しさのあまり「ただ食べる」「ただ飲む」で済ませてしまうことが多いけれど、本当はその間にこそ心を通わせる時間が隠れているのではないでしょうか。紅茶を注ぎ、カップを手に取り、向かい合う人の表情に目を向ける……それだけで、日常が少し豊かに変わるように感じます。
講話の終盤で「英国は税金が高いけれど、その分年金が手厚く、老後を安心して過ごせる」という話が出ました。確かにそれは現実として上流階級に偏りがちな面もあるかもしれません。でも、豊かさとは経済だけではなく「時間の使い方」にもあるのだと思います。どんな暮らしの中でも、お茶の時間を大切にする心は持てるはずです。
アフタヌーンティーに触れて感じたのは、「特別な文化を遠い国の話として聞くだけではなく、日々の暮らしに小さく取り入れることもできる」ということです。たとえば、週末の午後に好きな紅茶を淹れて、お菓子を少し用意する。スマホを脇に置き、目の前の人とただ 語り合う。そのひとときに宿る温もりは、私たちの心を静かに整えてくれるでしょう。
お茶を囲むという営みは、国や時代を越えて「人が人とつながる方法」として存在し続けています。イギリスのアフタヌーンティーに学んだことは、決して格式張った儀式ではなく「丁寧に人と向き合う時間」の大切さでした。
私もこれからは、慌ただしい毎日の中でこそ、小さなティーカップを手に取る習慣を持ちたいと思います。たとえ一人であっても、その時間は自分の心と語り合うひとときになるでしょう。そして、誰かと共に過ごすなら、その沈黙も笑い声も含めて「人生の味わい」として楽しみたい。
ティーカップに映るのは、紅茶の色だけではありません。その奥に、文化や歴史、人の想いが重なり、やさしい光のように心を包んでくれます。ほんの数十分でも「お茶の時間」を持つこと。それは、私たちが自分らしく生きるための小さな魔法なのだと感じています。
≪終わり≫
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