メディアグランプリ

て!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:及川佳織(ライティング・ゼミ7月コース)

 

て?

 

私たちの目はいっせいに彼らの胸にひきつけられた。何? それ、「て」って書いてある?

 

それは、あるスポーツの国際大会でのできごとである。選手たちの交流会で同じテーブルに座ったのは、カザフスタンチームであった。おそろいのブルーのチームジャージの胸には間違いなく「て」と書いてある。

 

「それ、何?」誰かがその字を指さしておそるおそる聞いた。

 

「これ? これはメーカーのマークだよ!」とカザフスタンの少年が答える。

 

いや、それはわかる。たいてい、スポーツのチームジャージの胸にはメーカーのマークがあるよね。私たちが聞いているのは、なぜ「て」なのか、なんだよ。

 

「うーん、これはマークなんだよね」

「うーん、マークなのはわかるんだけど、なんでその字なの?」

「だって、これがマークだから」

「だから、なぜそれがマークなの?」

 

お互いにつたない英語で話し合っていて、らちがあかない。結局、なぜメーカーのマークが「て」なのかはわからなかった。

 

しかし気になる。ひらがなの「て」をマークにしてるって、いったいどんなメーカーなのか。そこで調べてみた。インターネットに感謝。

 

するとあっさりと判明した。そのメーカーは7saberというウズベキスタンのスポーツ用品メーカーで、「て」は数字の「7」をデザイン化したものだった。

 

そうか、そういうことなのね、と納得してから改めて見ても、やっぱり「て」にしか見えない。デザイン化するのはいいんだけど、なぜこんな風に「て」にデザインしちゃったの?

 

ネットでは「ウズベキスタンのおもしろスポーツメーカー」といった扱いでいくつかの記事が出ていた。現地のショップでは、店員が「このマーク、日本ではhandっていう意味なんだろう?」と言ってきたりするそうだ。ウズベキスタンでは、すでにこのマークが「7」ではなく、「て」であることを伝えている日本人がいるらしい。

 

そんな記事を拾い読みしていると、同時に「て」の写真がたくさん目に入り、だんだんと可愛くてしかたがなくなってきた。

 

調べてみると、このメーカーは、東京オリンピックでウズベキスタンチームの公式ユニフォームを提供していた。なぜその時には話題にならなかったのだろう。私が知らなかっただけなのか。さらには、来年のサッカーワールドカップで初めて出場権を獲得したウズベキスタンチームのユニフォームにもなるそうだ。もしかしたら、これは、来るぞ、「て」が!

 

実は職場には、ウズベキスタンと関係のある業務をしている同僚がいる。さっそくこの話をしてみると、なんと近々ウズベキスタンに出張すると言う。なんというタイミング。

 

「もし見つかったらTシャツか何か、買ってきましょうか?」

「買ってきて! お金は払うから! 見つかったら、でいいから!」

 

持つべきものは友だちである。すると7saberのサイトを見ていた隣の席の別の同僚も「できれば僕もお願いします」と言い出した。そこから出張までの数日は、ネットでウズベキスタンと7saberの情報を見ては、ウズベキスタンの価格を日本円に換算してみたり、ジャージの上下もいいとか、色とりどりの「て」がまぶしてあるポロシャツが可愛いとか言い合って、おおいに盛り上がった。

 

いよいよ同僚は出張に出かけた。どうしているかなと思っていると、ウズベキスタン到着の翌日、LINEグループ「て」に、写真つきメッセージが次々に届いた。鮮やかなブルーのポロシャツやら、渋いグリーンのジャケットやら。写真を見ると、どれもほしくなってしまう。あれこれやりとりをして、結局、私は胸に「て」があるTシャツを色違いで2枚、同僚は黒のジャージ上下をお願いすることにした。

 

出張が終わり、帰ってきた同僚から、大きく「て」と書かれた紙袋を受け取って、テンションMAXである。パソコンの前に座っているだけの職場で着るのはもったいないので、その週末に、着て街へ出かけてみた。

 

しかし、誰も反応してくれない。それは何ですかとか、なんで「て」なんですかとか、誰かが聞いてくるのではないか。「て」を見て、変なシャツ着てるなあという表情で目を背ける人がいるのではないか。そう思っていたが、案に相違して誰も何も言わない。何か、聞いちゃいけない感じがするのだろうか。

 

なんとなくがっかりして歩いていると、向こうからやってきた若い男性2人とすれ違った。その瞬間、1人が小さな声で「て」と言ったのが聞こえたのである!

 

やったー!

 

思わず心の中でガッツポーズ。何がやったなのかわからないけれど、なんだかめちゃくちゃにうれしい。

 

来年のワールドカップで、ウズベキスタンチームのユニフォームがもし話題になれば、あの男性は「あっ、あの時見たやつだ」と思い出してくれるかもしれない。そうなると、ものすごい話題先取りだが、もしかしたら、ウズベキスタンは早い段階で敗退し、「て」も話題にならないかもしれない。

 

でも、「て」がきっかけでウズベキスタンという国に興味を持って、みんなでわいわい騒いで、うきうきした気持ちで街を歩けた。こんなのも楽しいと思わない?

 

《終わり》




***

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2025-09-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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