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類縁人脱却計画——インフィニティ∞リーディング「鬼滅の刃」体験記


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【2025年6月開講】目標達成するための文章講座「ハイパフォーマンス・ライティング」〜たとえどんなに上手くとも、効果がなければ意味がない。〜

 

 

記事:前田 さやか(ハイパフォーマンス・ライティング)

1. 書店で現代に戻る

私は、もはや“類縁人”だったのかもしれない。
時代に乗り遅れた猿だった。

 

スマホの画面に指を無駄に滑らせる日々。なのに、どこか取り残されていく不安が増していく。そんな私を、今週も渋谷の書店が現代へ連れ戻してくれた。

かれこれ5ヶ月、私の日課になっていることがある。

木曜の夕方に帰り道に聴く、天狼院書店の「インフィニティ∞リーディング」だ。とんでも発言をする店主が面白くて、中毒になっている。

 

やめられない理由に週替わりのテーマが4つある。

TYPE-P(プラクティス編/実践編)→ビジネス書・実用書を題材に、読んで終わりではなく「実践」にどう結びつけるかを考える。

TYPE-S(ストーリー編/物語編)→小説や漫画などのフィクション作品を扱い、物語の構造や登場人物の魅力を深掘り。ストーリーの持つ力を探る回。

TYPE-C(クラシック編/古典教養編)→古典文学や歴史的名著を読み解き、時代を超えた価値や教養を学ぶ。

TYPE-W(ウェルネス編/健康・健全編)→心身の健康やウェルビーイングをテーマとした本を取り上げ、日々の暮らしをよりよくするヒントを探る。

 

ただ本を読むのではない。複数のAIを駆使し、読んだ先で“どう生きるか”までを教えてくれる。受けると人生が変わる読書会が開かれているのだ。

 

先週は古代文学『ファウスト』だった。難解な内容に、私の脳へ鉛を入れられた感覚を覚えた。受け終わると脳はフリーズ状態。しかし古代文学を読んでみたいと思える、新しい出会いだった。

『ファウスト』で時間旅行。タイムマシンがある書店のおかげで、リケジョでもなんとか店主の背中を追いかけられた話

 

天狼院は緩急をつけるのがうまい。

難解な古典のあと、今週のテーマは一転して『鬼滅の刃』。

古典から漫画へ。私の頭にとっては絶妙な温度調整だ。先週は重いバーベルを上げて、今週はやさしくほぐすストレッチする感覚。読書の血流が、自然と脳へ戻ってきた。

 

2.「鬼=ゾンビ」と大正ロマンが刺さる理由

店主の三浦さんが、最初の問いを放つ。

「『鬼滅』は“鬼=ゾンビ”ってモチーフと“大正時代”って舞台の組み合わせが刺さるんじゃないかな」

“鬼=ゾンビ”。言われてみれば、確かにそうだ。人であって人でない、境界に立たされた存在。しかも恐れと儚さもある。目を背けられないのだ。

 

しかも舞台は大正。和の様式と西洋モダンが交錯し、和傘とガス灯の光が同じ画面に同居する時代。映像に落としたとき“独特の世界観が立ち上がる”。IP(知的財産)として拡張していく際の土台として、これ以上ないほど視覚的に映える。

 

店主は自分の子ども時代の話をしてくれた。
「キョンシーが流行っててさ、録画したの何度も見返したよ」
あのぴょんぴょん跳ねるお札つきの亡者たち。

私も胸がざわつく。大好きだった。ドラマを録画して、テープがすり減るまで見返した。怖くてドキドキしながら、テレビにかじり付いていた。

中毒になる恐怖感。すでに私たちの記憶に住みついているのだ。『鬼滅』は、その記憶の棚から埃を払って、もう一度まっさらな驚きとして差し出していた。

 

話題は自然とビジネスに及ぶ。
「吾峠(ごとうげ)先生の印税ってどれくらいなんだろう、AIに聞いてみよう」

AIは答えてくれた。

「累計発行部数は2億2千万部あり、印税だけで100億円はあると考えられますね」

「まーじーでー!? 書籍で5万部がヒットと言われる時代だよ。次元が違うよね。俺も漫画家やりたくなってきたわ」
会場は笑い声が起きる。
「でも、いま勝負を決めるのは“ネーム”、つまり物語設計。絵は映像化でいくらでも補正される。内容が強いかどうかだよ」

 

その瞬間。私は少し居心地が悪くなった。

正直に告白すると、漫画は読んだし、アニメも動画配信で少し観たが、映画は観ていない。原作を読み終えたら“終了”だと思っていた。昔の癖が、まだ身体のどこかに残っている。

 

けれど時代は変わった。

 

いまは1つのIPを複数の器で味わい尽くすのが当たり前。

漫画、TVアニメ、劇場版、ゲーム、展示、コラボ、テーマパーク。

入り口も出口もひとつではない。作品は“読むもの”から“体験する世界”へと進化している。

 

3. ufotableのカメラワーク

店主は新しい話題を出した。
「『鬼滅』の映像化を手がける、ufotable(ユーフォーテーブル)がすごいよね。外崎監督が有名なんだけど、これもAIに聞いてみよう」

AIの知識が私を刺激し始めていった。

 

ufotable は2000年設立のスタジオだ。ufotableは演出・作画・背景・3DCG・撮影が同じ屋根の下にある。まず3Dレイアウトで空間を起こし、仮想カメラで動線を先に決めている。

 

無限城のような立体迷宮では背景を3Dで組み、180度を超える回り込みと速度変化を前提に、アクションとカメラを同時に振り付ける。その場で演出・アニメーター・撮影監督・3D監督が秒単位で詰め、 “実写的”な処理も線の表情を壊さない範囲で行なっているそうだ。

だから線が生き物のように脈打ち、観客は画面の内側へ“回り込む感覚”を得る。

 

そしてufotableは自社でカフェやギャラリーを運営していると言うのだ。ファンとの接点を生むのも、体験の連続性を切らさないための設計だろう。観客は“視聴者”から“滞在者”になり、やがて“伝える者”になる。そしてファンはどんどん増え、世界にも拡大する仕組みだ。

 

ふと、三浦さんがK-POPについて、冒頭語っていたのを思い出した。

今K-POPアイドルは多国籍グループになっている。

韓国のビジネス戦略が“市場は最初から世界”という設計。

『鬼滅』市場も世界へと広がり始めている。映画は北米でも絶賛されているとか。

全てビジネス戦略なのだ。

日本のアニメが大好きで、日本へやってくる外国人が多い理由に納得した。

 

4. 私は術中だった——IPビジネスを自覚する

会の終盤、無限城編の観客動員数について話が移った。

「映画は今すごい勢いだよね。」

公開から二カ月あまりで国内動員2000万人超。世界興収も桁違いだとAIが語った。私の胸に、別の鼓動が生まれた。この作品は、ただの一過性のヒットではない。国境や世代を超えて“体験したい世界”になっている。

 

IPビジネス戦略が、現実の動線と経済を動かしているのだ。ここで、私はようやく腑に落ちた。IPビジネスとは、キャラクターや物語を生きものに作り変える仕組みだ。核にあるのは物語の精度。精度が良ければ、生き続けるのだ。

生命を吹き込むコンテンツは色々ある。映画、展示、グッズ、ゲームなど。 “体験型コンテンツ“と生まれ変わり、人は無限大に楽しめる。

 

ここで店主がAIに、また尋ねた。

IPビジネスを上手くやっているのって何がある?
AIが挙げたのは、『ONE PIECE』『ドラゴンボール』『ちいかわ』『サンリオ』。それぞれどんな戦略が取られているのか気になって、私なりに調べてみた。

1)『ONE PIECE』——循環装置

劇場版『ONE PIECE FILM RED』(2022)は国内20.33億円超を叩き出し、東映アニメーション史上最高の大ヒット映画→配信→音楽→グッズの循環が綺麗に回る代表例。実写版(Netflix)も成功している。世界中にファンを持つ大人気漫画になっている。

 

2)『ドラゴンボール』——長期運用

私が小学生時代に流行った漫画だが、今だに人気である。長期愛されている理由に、家庭用ゲームのヒットやカード・グッズ販売がある。今後はイスラエルでテーマパークができる予定があるほど。IPビジネスの見本と言われている。

 

3)『ちいかわ』——生活導線

SNS発のキャラクターがテレビアニメ(フジテレビ系『めざましテレビ』内)で広がり、コラボやイベントで人気となっている。またマクドナルドや鉄道、百貨店イベントなど“日常の導線”に乗せ続ける戦い方は、制作費を抑えつつも接触頻度を最大化する現代的なIP運用だ。

 

4)サンリオ——体験の場

サンリオは400以上の自社キャラクターを抱えるライセンス企業ピューロランド/ハーモニーランドなど“体験の場”を持つ。

 

こうやって並べると、私は気づく。

全部ハマっている

全部“術中”だ。映画館へ行き、配信で見直し、ガチャガチャを回す。

恥ずかしいくらいだ。いや、むしろ“設計された幸福”を自覚して味わうほうが、現代人らしいのかもしれない。

 

今回も2時間の読書会があっという間に終わってしまった。

映画へ絶対行こう!

ufotableの映像技術が見たい。

マンガだけで終わるのは、もう“類縁人”のやり方だ。私は現代の側に立って、体験ごと物語を味わい直す。

 

 

 

 

 

***

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2025-10-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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