ある日突然、築30年以上の古い物件オーナーになる
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記事:愛野美奈(ライティング・ゼミ7月)
昨年の夏。父が急逝した。80代なので、覚悟はしていたけれど、急だった。母も兄弟も他界しているので、私が喪主も務めて、死後の手続き全般を確認しながらすすめていた。
役所的な事、財産のことを確認。中でも祖父の代からの築30年超の古い賃貸向けマンション。父が亡くなった日から、自動的に管理者は私になった。
こんな日がくるかもしれないと、少し前に父からはマンションの概要は聞いていて、管理会社の担当者さんとも挨拶は済ませていた。彼と父とは付き合いも長く、数日前に話したばかりで突然のことに驚いていた。お通夜も告別式も参列しつつ、合間はずっと待合室で実務を色々引き継ぎ、現状でエアコン故障やら水漏れやら、トラブル多発している報告を受けた。
喪主すら初めてなのに…… それすらテンパっている最中、次々と、修理の相談をされていた。葬儀手配も、母の時の経験から、少し小さめの会場にして無難にこぢんまりとやろうと決めたはずなのに、当日部屋から人があふれてしまった。というのも、父の学生時代の友人に連絡したら、みな高齢で体調が悪い人が多いから2人くらい来られたらいいと聞いていた。ところが、始まってみたら告別式には友人達が15人以上も集まり、椅子が足りず、お隣の部屋から運んでいたくらいだ。
精進落としの会食も、父の同窓会に来たかのようになり、こじんまりどころか賑やかで、なぜ父がいないのだろうか? と思うくらいだった。お別れの時や挨拶で男泣きする友人もいて、意外にもこんなに友人知人に愛されていたのだと気づく場面もあった。
母の時と同じ葬儀社で、顔を知るスタッフさんがいたのが幸いで、参列者が増えてもうまく対応してくれた。なんと担当者は葬儀打ち合わせが重なりその時間も別の家族の対応をしていたし、葬儀場も混み合っていた。
通夜が明けて帰宅。最後の喪主の挨拶を考えながら、マンションの修理費見積りも同時に見ていた。また父の銀行口座は使用不可なので、すぐに家賃の振り込み口座も私の名義に変更の手続きもしていた。しかし家賃は入ると同時にすぐに支払いに消えていく。あちこちの修理代、新しいエアコン代金、工事代金、手数料他。この支払いが古い物件オーナーの初仕事。
全てが想定外だ。父は、数年前の転倒から始まって、骨折して入院して自宅介助が必要になるという、後期高齢者の介護申請への王道⁈ をやり。その後幸いにもリハビリを経て、やっと平穏な生活が戻った。そんな矢先、旅行から帰ってすぐ、そのまま倒れて亡くなってしまった。直前まで元気だったので幸せな大往生だと、父の友人達に言われたけれど、娘の私は一気に押し寄せる手続きと責任で疲弊していた。
そして、ジワジワと気づいたのは、
父、面倒なことは、だいたい先送りしていた!
修理、メンテ、清掃業者との交渉、木の伐採手配…… 厄介なところ、みんな私がやらなきゃならない!
逃げるのがうますぎるじゃないか!
父とは怪我がきっかけでお世話が必要になり近くに住んだ。でも父娘で分からないことも多かったと思う。離れて暮らす親子なら尚更だろうか。悲しむ暇もない怒涛の手続きの日々の中、怒りも沸いてきた。
だいたい、元気なって家族友人を油断させておいて、いきなり旅立つし、葬儀も参列者が多すぎて慌てさせるし、マンションも知らない修理箇所が次々と出て支払いに追われ続けているし、先週も洗面台の配管水漏れで床も直さないといけないとか、敷地内に隣の家の竹が根を伸ばして勝手に生えてきたのを伐採してくれとか、ペットの毛が共用部分に落ちている何とかして欲しいだとか…… キリがない!
なんで私が全部対応しなきゃならないのか! 父がやっておいてくれたらよかったのに!
去年の夏だって、私は父のためにペットと一緒に入れる老人ホームを検索して、希望するエリアの環境を調べていた。マンションだって、父がホーム入居時に売却するならそれでいいし、引退したらゆっくり引き継ぎしつつ都度相談しながらやれば良いと思っていた。
私の想定していた世界線は突然変わって、突然お別れで、いきなり築古マンションオーナー。
聞けば、田舎の一軒家実家を相続したけど売れないとか、名義人多数の山を父が所有していて相続が困難そうだとか、先日も、築古の自宅の下が賃貸アパートになっている物件を相続した友人がネズミ対策について悩んでいるという。所有にまつわる負を感じている人も多い。もちろん感謝もあるけれど、なかなか大変だ。これが、オーナー業のリアルである。
マンションオーナー業に、不労所得だとか何かキラキラしたイメージや理想を持つ人がいたら、私はそれら全て打ち砕いてしまうだろう。もちろんキラキラオーナーもいるが。
増える参列者を数えながら、慌てて料理を追加オーダーしながら、マンションの水漏れ現場の写真を見せられながら、遠くから一人で杖付きながらお別れにきた高齢の伯母のために係の人にタクシーをお願いしながら、葬儀場に次々とやってくる別の家々の喪服の参列者達をなんとなく見ていた。
それぞれの事情、それぞれの人生を喪服の中にしまって、死と向き合う場所で。同じタイミングで同じように父を亡くし、私みたいになっている喪主もいるのかなと思いながら、みんな同じ黒い服を着ているだけのつながりだけど、少しだけ孤独がやわらいだ。
〈おわり〉
***
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