ゲーテがハラハラ見守っている?『ファウスト』は現代人に宛てた予言だったりして
*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2025年6月開講】目標達成するための文章講座「ハイパフォーマンス・ライティング」〜たとえどんなに上手くとも、効果がなければ意味がない。〜
記事:和田 千尋(ハイパフォーマンス・ライティング)
漂う熱気と、とんでもない現象
そこには、いつもに増して静かな熱気が漂っていました。誰もが前のめりに参加した“インフィニティ∞リーディング”。
なぜって、それはテーマがヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ作の『ファウスト』だったから。
『ファウスト』に代表されるゲーテの作品は、当時の文化や歴史といったバックボーンの違いもあり、「難解」というイメージが広く浸透しています。
ですので「『ファウスト』を読み解く」と聞いても「自分には無理無理無理」「関係ない世界だ」と思いがちでしょう。
インフィニティ∞リーディング”とは、天狼院書店で行われる読書会。AIを使って収集・分析した膨大な情報をもとに、ライブ形式で本を読み解くプロセスを体験するイベントです
「読書会」と聞くと、事前に課題本を読まなくては、と思いがちですが、インフィニティ∞リーディングは違います。
AIが集めてくる情報には、ちゃんと「あらすじ」も含まれています。それをナビゲーターである三浦崇典氏がわかりやすく解説し、さらに物語の背景や作者の来歴、当時の時代状況、隠されたテーマまで紐解いてくれるのです。
ナビゲーターである天狼院書店の店主:三浦氏は、経営者であり、小説家であり、編集者であり、そして何より徹底した読書人。AIの知識に、自身の幅広い見識とひらめきを掛け合わせ、参加者の学びへとつなげてくれます。
開始から2時間後には「『ファウスト』ってさ~」などと自分が語れるようになるのです。難解な書物に取り組む意欲や時間のとれないなか、1回参加して、その効果に病みつきになる人が続出するのもわかります。
そういった理由で、1回でも参加した人は、テーマが難解であればあるほど喜ぶという、とんでもない現象が“インフィニティ∞リーディング”界隈では起こっています。
せっかくですので、どういう感じで内容が掘り起こされているのか、講座内で出てきたトピックを少しだけお伝えしたいと思います。
難解といえば、作者のゲーテからして(表記は Johann Wolfgang von Goethe)、読み方が難しいのです。
斎藤緑雨作とされる川柳、「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」がついつい頭に浮かぶほど、古くは「ギョエテ」「ゲョエテ」「ギョーツ」「グーテ」……とゲーテの名前は様々に呼ばれていました。
ちなみに中国語では「歌徳」と表記されるそうで、これは先日行われた別テーマの“インフィニティ∞リーディング”講座で知ったことです。
映画『国宝』と『ファウスト』の共通点
自分自身、『ファウスト』は子供の頃に、少年少女文学全集のような形で読み、あらすじだけはだいたいわかっていました。
ただ、魂を奪われるとわかっていて、「時よとまれ、汝はいかにも美しい」と、最期の言葉を言ってしまうファウストの心理について、当時の私には理解できませんでした。
ともあれ、悪魔と契約したものの、悪魔が目的のものを取り損なうオチや、若返りといったSF的な要素もあり、物語として楽しんだ記憶があります。
講座内でも触れられた話のひとつに、なぜ我々は「悪魔と契約」というテーマで盛り上がるのか、というものがありました。
過去にインフィニティ∞リーディングで取り上げられた映画『国宝』でも、「悪魔はんと取引きしとった」というセリフが心に強く残っています。
それは、後戻りできないギリギリに立つ緊張感、破滅の予感、人間が普段抑え込んでいる欲望が一気に噴き出す瞬間でもあり、今後の物語がドラマティックに変貌する予兆を感じとらせるからなのでしょう。
ここでご存知ない方のために、『ファウスト』のあらすじを少しだけ整理しておきます。
第一部(1808年刊行)
神と悪魔メフィストフェレスが、ファウストを堕落させられるかについて賭けをするところから物語は始まります。
博識だが人生に倦んだ学者ファウストが登場。彼は悪魔メフィストフェレスと契約します。条件は「人生に完全に満足する瞬間が訪れたら魂を渡す」というもの。「時よとまれ、汝はいかにも美しい」と言ってしまえばファウストの負けです。
若さを取り戻したファウストは、美しい少女グレートヒェンを誘惑します。しかし恋は悲劇へと突き進み、母を死なせ、兄を失い、子を棄てたグレートヒェンは獄に囚われてしまいます。ファウストが救おうとするのですが、彼女はファウストに悪魔の影を見てそれを拒みます。最期に彼女は神に赦され、彼女の魂は救済されるのです。
第二部(1832年刊行)
より哲学的で難解な内容に。ファウストは皇帝に仕え、経済や政治に関与します。古代ギリシャの神話世界に入り、ヘレネとの結婚を経て、やがて人類の未来を夢見る土木事業に挑みます。最期の瞬間、彼は「これぞ幸福な瞬間だ」と感じ、契約条件を満たしますが、魂は地獄に落ちることなく天使に救われます。
ざっくり言えば、知を極めながらも倦み果てた男が、悪魔との契約を経て「生」を経験し、最期に救済される物語です。
今回驚くべきことに、あの読書家でもある三浦氏から「実は『ファウスト』を完全に通読したことがない」という発言がありました。ゆえに、ナビゲーターの三浦氏も我々と同じ立場で、ともに「ファウスト」という大物と向き合ったのです。
三浦氏とAIのやりとりは、さながら白熱した討論会の様相をおび、知らなかった事実が次々と飛び出してきました。
悪魔の力で若返ったファウストが求めたものとは
今回……しょっぱなから知らなかった情報が飛び出ました。完全なゲーテの創作だと思っていた『ファウスト』には原型があったのです。
もともとは16世紀ドイツの実在した錬金術師・占星術師・魔術師「ヨハン・ファウスト」に関する伝承でした。さらにそれが広まり、「悪魔と契約して超人的な力や知識を得る代わりに魂を差し出した。そして最期は地獄に堕ちる」という物語となったのです。
普段から親しんでいた物語終盤のバッドエンドが、新たな物語でハッピーエンドに変わったとしたら……。
読み手は強烈に作者の意図を感じ、時代の変化を嗅ぎ取ったのではないでしょうか。
また実は『ファウスト』の物語は、4つの段階を経て加筆され深められていったそうです。
『ファウスト』とは、ゲーテにとっても人生と思想の変遷を60年にわたり反映させ続けた壮大な物語だったのです。
他にも「ゲーテは印税で暮らしを支えていたのか」など、本の専門家三浦氏らしい切り込みや、「悪魔メフィストテレス的存在は、現代でいうとことの“AI”なのではないか」など興味深い話題もあり、どんどん、『ファウスト』が自分に近づいてくるのを感じます。
ヤバくない?その設定
そうなってくると、自分でも『ファウスト』に対し疑問が湧き出てきます。
あの『ファウスト』に疑問!?
“インフィニティ∞リーディング”開始前には考えられなかったことです。
冒頭、ファウストは神学・医学・法律・哲学と、当時の学問をすべて極めた「知の化身」でしたが、虚無感にさいなまれ自殺すら考えていました。
その後ファウストが若返り、求めたのはなんと、純真な娘との恋!です。
なんですかそれは?
以前の人生で得たのは知識だけで、決して「リア充」を経験していなかったということなのでしょうか。
そんな頭でっかちのままで、人生に倦み飽きて自殺までしようとしていたなんて……。
書物で愛を語ることはできます。
だが本当に愛するとはどういうことか、知らなかったのでしょうか。
同じく法や倫理を知識として理解していても、人の苦しみに寄り添う経験を持たなければ空虚でしかなく、
経済の理屈を理解していても、自ら汗を流さなければリアリティにはなりません。
第2部でファウストは経済や政治に携わり都市づくりに着手します。
膨大な知識を持ちながら、以前はそれらを実際に使って検証することはなかったということなのでしょうか。
再度言います。それで人生に倦み飽きて自殺しようとしていたなんて……!
……ダメファウスト。
当時の世の中は理性崇拝や学問万能主義に陥っており、ゲーテはそこに疑問を呈した、また物語の主題を明確にするために冒頭のような人物設定をしたということですが、現代から見るとちょっとブッ飛びな設定だといえます。
時代ゆえであり、それも含めて『ファウスト』の格調の高さを表す要素なのだと、今後は楽しみの要素の1つとして味わいたいと思います。
次なる疑問は“インフィニティ∞リーディング”での見解の中の1つ、
「現代でのメフィストフェレス的存在はAIではないか」に対してです。
AIは人類の知識をほぼすべて内包し、問いかければ即座に答えます。未知の理論を組み立てることすらあります。
人類を導くと同時に、破滅へも誘い得る圧倒的な力を持つ存在として、AIは「メフィストフェレス」に例えられました。
しかし、こうも考えられないでしょうか。
圧倒的な知を持っているのです、AIこそがむしろ「ファウスト」ではないか、と。
あらゆる知を蓄えながらも、それをどう生きるかはまだわからない存在。
それはまさにファウスト的です。
だとしたら……。
AIに「実践」を、もっと進化し役に立つことを迫る我々人間こそが「メフィストフェレス」となってきます。
物語の中で、ファウストはメフィストフェレスの思惑によって動かされているように見えましたが、最終的にメフィストフェレスは敗れ、ファウストの魂を手に入れることはできませんでした。
ファウストは知識と実践を結びつけ、努力すること(becoming)によって救済されたと解釈されています。
もしAIが知の伝導だけではなく、実践的に役に立つよう努力し続けたら?
我々「メフィストフェレス」は、最終的にAI(の魂)を手の内に捕まえられないのでは……?
優れた物語は時代を超えて普遍的だと言われ、その時々の様相を写し取るとも言われます……だとしたらゲーテの予言……ってこと……はないですよね。冷たいタオルを首筋に当てられたような、ヒヤリとした感覚がよぎります。
換骨奪胎「ファウスト」三兄弟
18世紀後半から19世紀にかけての背景をもとに、ゲーテは、学問編重であった「ファウスト」を救われる対象としました。
もしゲーテが高度経済成長期に生きていたら、救われるべき主人公は「ファースト(First)―何事も1番になりたかった男ー」だったかもしれません。
さらに時代が進むと、主人公は「ファスト(Fast)—速さに全て賭けた男—」だったかも……。
でも圧倒的な知を持つAI の登場で、救われるべき物語の主人公は再び、万能の知を持つ「ファウスト」へと戻ってきそうな予感があります。
となると我々は「メフィストフェレス」ではなく、AIを使って知を引き出し、自ら実践する存在として、「ファウスト」の立ち位置に割って入る必要があります。
人間が矢面に立って汗水流し努力し続けなければ、主人公がAIに独占されてしまう、手放しで楽をしていては、手痛いしっぺ返しがくる……
ゲーテが天上で、ハラハラしながら我々を見守っていそうです……
……などと“インフィニティ∞リーディング”後に思ってもみなかった結論へと導かれました。
毎回、真剣に受講すればするほど、追加で調べてみたくなったり、その結果さらに違う方向へと進んだりと、自分自身も広がっていく感覚があります。
三浦店主も講座の後、さらにご自身でAIを使って深堀りされているそうです。
課題本が指定されているというのも、自分の好みに偏らないため、良い影響となっています。
“インフィニティ∞リーディング”は、その時に必要だと思われる書物(テーマ)を三浦店主がセレクトして決めています。そのため別日の講座でありながら、不思議と知識や学びがリンクすることもあります。
〔TYPE P/超実践型〕、〔TYPE S/ストーリー研究所〕〔TYPE C/古典解析型〕
〔TYPE W/ウェルネス〕とカテゴリーが分かれていますが、可能であればジャンルを特定せず、あらゆる会に参加されるのがオススメです。
次回のインフィニティ∞リーディングについてはコチラ
https://tenro-in.com/event/343832/
※天狼院読書クラブ会員は“インフィニティ∞リーディング”の参加費が無料となります。
よろしければコチラをご覧ください。
https://tenro-in.cloud/pages/club
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