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幸せの青い鳥は裏庭にいた――『養生訓』に学ぶ、心と体の整え方≪インフィニティ∞リーディング体験記:養生訓≫


*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:マダム・ジュバン(ハイパフォーマンス・ライティング)

 

「とどの詰まりは、おばあちゃんが言っていたことが正しかったってことがわかる。
和食を食べて腹八分目がやっぱりいい。幸せの青い鳥は裏庭にいた的結論だね。」

 

インフィニティ∞リーディングの冒頭で、登壇者の三浦さんがそう語った。
その言葉を聞いた瞬間、私の心に柔らかな灯がともった。
これほど情報にあふれた現代社会でも「健康」や「幸福」の答えは、どこか遠くの特別な場所にあるのではなく、実は私たちの身近な暮らしの中にある――
まるで昔、おばあちゃんが台所で語っていたような「当たり前の知恵」が、時を超えて現代に蘇るような気がしたのだ。

 

天狼院書店のインフィニティ∞リーディングを受け始めてもう何回になるだろう。
手強い内容の本さえも、乾いた喉に水をゴクゴクと飲み干すように染み入ってゆくこの読書会。
今回、取り上げられたのは、貝原益軒の『超訳 養生訓 ― 病気にならない体をつくる』。
江戸時代の学者が八十歳を超えて書いた「健康の哲学」が、これほど今の私たちの心に響き現代にフィットする書だとは思わなかった。
たぶんこの読書会で取り上げられなかったら、私は一生読むことも無かっただろう一冊。
この出会いに感謝しつつここで紹介したい。

 

貝原益軒に学ぶ「生きる知恵」


まず何より驚かされたのは、貝原益軒という人の生き方そのものだった。
彼は平均寿命が四十歳にも満たない江戸時代に、八十四歳まで生き抜いた。
しかも八十三歳という高齢で『養生訓』を上梓したのである。
医学も衛生も十分に発達していない時代にあって、学びと節制によって自らの哲学を築き、それを実践で証明してみせたところが何ともカッコいい。
その生き方には、知と徳の融合とも言える説得力があった。

 

特に私の心を動かしたのは、益軒が七十一歳で藩の職を辞してから、むしろ執筆活動が最も盛んになったという事実だった。
私は今、六十七歳。
年齢を重ねていく事にどこか後ろ向きな感情を抱いていたが、益軒の姿に「人生の頂点は、まだこれからでもよいのだ」と勇気づけられた。
彼の知的好奇心と探求の姿勢は、私にとって“生きる励まし”そのものであった。

 

「病を治す」ではなく「病を防ぐ」哲学

 

「養生」。益軒の教えの根本には、「病を治すことよりも、病にならぬよう生を養う」という予防の思想がある。
江戸時代にこれほど彼が長生きできたのは養生することで「病気にならなかった」からに違いない。
彼はこれを難しい理屈ではなく、平易な言葉で説いている。
その核となるのが、「心・食・動」の三位一体の養生法だ。

 

飲食においては、「腹八分目」。
これは単なる食事制限ではなく、欲望を制する心の修養でもある。
益軒は、心は身体の「主人」であり、身体はその「僕(しもべ)」と説く。
心を養うことこそが、養生の絶対的な基礎となる。

 

また、心身を停滞させないために、日々の適度な運動をすすめる。
そして、しっかりと休息をとり、心を静めること。
それらの積み重ねが「病にならない体」をつくるという。
健康はお金をかけて得るものではなく、日々の暮らしの中で誰にでも育むことができる――この考え方に私は静かに励まされる思いがした。
そして現代にあふれる健康法や情報よりも、ずっと確かな真理がここにあるように思えた。

 

「内慾」と「外邪」――心の毒に気づく

 

本書では、身体の主人である「心」の健康を損なう二大敵は「内慾」と「外邪」と説く。

 

「内慾」とは、人の内に潜む過度な欲望――食欲、色欲、惰眠、多言などを指す。
なかでも怒りや憂いといった激しい感情は「気を消耗させ、乱す毒」とされる。
心を慎重にコントロールできなければ養生はうまくいかない。
――心を鎮めて落ち着かせ、怒りや欲求を抑え、いつも楽しんで心配しないようにする。
これが体を守り、心を守る方法である。つまり、体と心は同時に養生できるのだ――
心配性でストレスに弱い私には少し耳が痛い言葉だが、心に留めておきたい。

 

一方で「外邪」とは、外からの害、すなわち環境や人間関係、情報過多などの刺激によって乱れる心身の状態をいう。
情報にあふれた今の世の中では、心をざわめかせる映像やSNSの言葉をつい追ってしまう。
私も例外ではない。
しかしそれが体の健康にも害を及ぼすとは思わなかった。
益軒が理想としたのは、「心を平らかにし、気を和やかにする」状態。
私は心の平穏がそのまま養生に繋がることを学んだ。

 

そしてもう一つ忘れがたい言葉がある。
「自らをあざむくなかれ」。
自分に悪いと知りながら、それをしてしまう行為――過食、怠惰、怒りなど。
その小さな自己欺瞞こそが、最大の敵だと益軒は説く。
この一節を読みながら、私は思わず苦笑した。
早く寝なきゃと思いつつスマホの画面を延々スクロールしたり、「ダイエットは明日から!」とスイーツに手を出してしまったり……。私も日々小さく自分を騙している。
けれど、その気づきこそが心を立て直す第一歩なのかもしれない。
解決策は、自己に対する徹底的な誠実さであり、これが自己規律の礎となるという。
オノレを騙し続けていては「養生」の道に反するのである。

 

古典の中に現代のウェルネスがある
読めば読むほど、益軒の思想がどれほど現代的かに驚かされる。
腹八分目、適度な運動、十分な睡眠、そして穏やかな心――。
それらは、今のウェルネスやマインドフルネスの根底と同じだ。
だが益軒は、それを「健康のため」ではなく、「よく生きるための道」として語っている。

 

また本書ではこんな言葉もあった。
――高齢になったら時間を惜しみ、一日に10日分生きるつもりで人生を楽しみたい。世間の空気が気に食わなくても、ああいう連中は凡人だから仕方ないと思ってやり過ごし、家族か誰かが間違いや失敗をしでかしても温かく許し、怒ったり、叱ったり、恨んだりしてはならない。他人に理不尽なことをされても気に病むな。この世はこういうものだと考え、心穏やかに受け入れよ。
 かけがえのない月日のうち、たとえ一日でも虚しく、後ろ向きに、辛い気持ちで過ごすなど、もったいないにもほどがある。愚かというほかない。――

 

ああ、なんて今の私に響く言葉だろうか。
自分ばかりが馬鹿をみているような気持ちになる時、この言葉が私を救うだろう。

 

それ以来、私は日々の生活の中で少しずつ養生訓を思い出すようになった。
朝の呼吸、和食中心の食事、自然の風や陽の光を浴びながら歩くことの心地よさ、眠りの静けさ。
どれもお金のかからない小さな習慣だが、その積み重ねが心と体を整えていく。
「健康とは、努力ではなく調和の結果なのだ」と今は思う。

 

結び――生きることそのものを養う

 

『養生訓』は、単なる健康書ではない。
それは「どう生きるか」「どう老いるか」「どう心を保つか」を説いた、人生の指南書である。
貝原益軒はその言葉を、理屈ではなく生涯を通して体現した。
見事としかいうほかない。その姿に、私は深く励まされた。

 

また本書をインフィニティ∞リーディングで読むことにより、私は彼の思想を「知る」だけでなく「感じる」ことができた。
それは本を通して、自分自身を整える時間でもあった。

 

この本の帯には、超訳されたシンプルな益軒の言葉がある。
「この世に生まれたからには、良心に従って生き、
幸福になり、長生きして、
喜びと楽しみの多い一生を送りたい。
そのために最も大切なことは、健康でいることである」

 

この言葉が、これからの私の生き方の中心になるだろう。
若い時にはたいして気にも留めなかった「健康」であることの尊さを今まさに実感しているからだ。
そしてふと思う。
三浦さんの言葉はやはり正しかった。
健康も幸福も、遠い未来や特別な場所にあるのではなく、
私たちの裏庭――つまり、日々の暮らしの中にこそあるのだと。


≪終わり≫

 

 

 

***

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2025-10-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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