「AIが世界を支配しても、考えるのは人間でありたい」——『NEXUS』インフィニティリーディング体験記
*この記事は、「ハイパフォーマンス・ライティング」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2025年6月開講】目標達成するための文章講座「ハイパフォーマンス・ライティング」〜たとえどんなに上手くとも、効果がなければ意味がない。〜
記事:前田 さやか(ハイパフォーマンスライティング記事 インフィニティーリーディング体験記)
1. 灼熱の夜と、無限の読書会
天狼院はまだまだ酷暑だ。
今日はいつになく熱かった。
今週も私は、水曜に行われるインフィニティ∞リーディングに参加してきた。参加といっても、後日配信をPCで見ている。
インフィニティ∞リーディングは、AIを駆使して本を読み解いていく。そして読書の先にある、無限の可能性を探るイベントだ。参加するたび、自分の中の何かが更新される。
今回の課題書は――ユヴァル・ノア・ハラリ著『NEXUS』であった。
私は書籍名だけ知っていた。本屋に行くと人気コーナーに、最近平積みされているからだ。読書の苦手な私には、カバーを見ただけで「難しそう」と思って避けていた。自分では手に取らない本を、読書会で扱ってもらえるのはありがたい。
2. 三浦店主、怒りの開幕
読書会が始まる。
渋谷店内の黒いソファーに三浦店主と、若いスタッフが座っていた。
店主がいつになく熱いのだ。
「俺さあ、ハラリに騙されたわ。恨んでいるんだよ」
スタッフが驚く。
「何があったんですか?」
「NEXUSの前作の『ホモ・デウス』って本の書評を書いたの。まだコロナ前の時ね。『ホモ・デウス』で人類は飢餓、疫病、戦争を克服したって書かれていたんだって! 俺この本、素晴らしいって書評しちゃったけどさ、コロナ、ウクライナ戦争、ガザ地区では戦争と飢餓まで起きているでしょ。だから怒ってるんだよ。ハラリに謝ってもらいたい」
店主は著者に謝罪を求めていた。
ハラリは世界のベストセラー作家である。インフルエンサー的な存在だ。誰もが『ホモ・デウス』を読んで、“人類は進化した”と信じた矢先、私たちは感染症と戦争を再び体験した。ハラリの言葉は予言ではなく、「希望の物語」になっていた。
3. ハラリの世界:『サピエンス』から『NEXUS』へ
著者とこれまでの作品について紹介しておく。
<ユヴァル・ノア・ハラリについて>
1976年生まれ。イスラエル出身の歴史学者、思想家。
ヘブライ大学で歴史学を専攻し、後にオックスフォード大学で博士号を取得。
代表作として、『サピエンス(Sapiens: A Brief History of Humankind)』、『ホモ・デウス(Homo Deus)』、『21 Lessons for the 21st Century(21世紀の21のレッスン)』などがあり、世界的ベストセラーだ。
影響力ある公共知識人として、メディア・教育・思想界に発信を続けている。社会変動・技術・倫理・未来予測といったテーマを中心に論じている。
ハラリのスタイルの特徴として、膨大な歴史データと論理を引きつつも、物語性や比喩を活用してテーマを一般読者にも伝わりやすくする点が挙げられる。
<作品について>
彼の三部作は次のように構成されている。
『サピエンス全史』
テーマ:過去
内容:ホモ・サピエンスが「虚構を信じる力」により文明を築いた歴史。宗教・貨幣・国家など、すべては“物語”であるとする。
『ホモ・デウス』
テーマ:未来
内容:科学とAIによって神のような力を持つ「新しい人類=ホモ・デウス」の誕生を予見。だが倫理や格差の問題も孕んだとする。
『NEXUS』(今回の課題書籍)
テーマ:現代と未来
内容:人類がデータとネットワークに依存し、AIが「判断者」となる未来を描く。人間とAIの“つながり(Nexus)”を問う。
つまり『NEXUS』は、“過去を知り、未来を夢想した”ハラリが、「いま私たちはどこにいるのか」を問う最終章なのだ。
4. マックのポテト理論と魔女狩りの教訓
今日も店主の爆弾トークが炸裂した
「ハラリの本はマックのポテトだよ。ハハハ」
「どう言うことですか?」
「この本めっちゃ面白いの。面白いけど、フィクションが混ざっているから危険なの。さもそれっぽく言うけど、虚構だから気をつけないと。美味しいけど危険なポテトと同じでしょ」
「なるほど。本当ですね」
本書の日本語版は上下巻に分かれている。
それぞれ副題が「人間のネットワーク」「AI革命」となっている。
店主は続けて言った。
「上巻はめちゃくちゃ面白い。下巻はフィクションだから気をつけたほうがいいね」
上巻に書かれている「魔女狩り」について話が紹介された。
ヨーロッパでは「魔女狩りの手引き」と言う本が出され、知識人や政治家などが影響を受けた。結果人々が魔女狩りを信じてしまった。魔女であることを拒めば拷問され、認めると処刑された恐ろしい時代である。悲しいことに、子供まで殺されたらしい。そして殺されたほとんどの人は、無実の人間ばかり。プロパガンダにより、人間の思考は簡単に間違いを犯すのだ。
私は店主の話を聞いて思い出した。太平洋戦争のことだ。情報統制がされ、ラジオや新聞では、戦争が素晴らしいと洗脳していった。結果「お国のため」と言って若者の出征を人々は祝福する。敗戦が近づいた時、降参は国の恥と教えられ、国民も兵士も自爆の道を選んでいった。神風特攻隊は今考えたら、常軌を逸している。でも当時は「素晴らしい」とされた。
つくづく人間とは恐ろしい生き物と思う。考え方次第で、簡単に過ちを犯す。過ちに気づかないことが何より怖い。
ではAIは間違わないのか?
店主は言う。「人間よりAIの方が間違わないでしょ。ハラリはAIの危険性を書いているけど。僕はいつでもAIの下僕になる準備しているよ。ハハハハ」
AI全てを委ねる未来を考えると正直怖い。でも店主はマジな顔をしていた。
確かにいまだ戦争は無くならないし、疫病も起こり、虐殺や飢餓も続いている。AIに委ねた時、実はとても平和な世界が来るのかもしれない。
けれど、ふと思った。
もう私たちは、すでにAIの“見えない支配”の中にいるのではないか。
SNSのタイムラインも、ニュースの見出しも、「あなたにおすすめ」とAIが選んでくれる。私は“自分で選んでいる”つもりで、実は“選ばされている”のかもしれない。
話題は手塚治虫が書いた『火の鳥』に移った。
火の鳥未来編は、AIが国家を運営する「コンピュータセンター」による支配の話。国ごとに異なるAI(=国家システム)が対立し、人間はただシステムの命令に従うだけの存在になる。そして、最終的に人類は滅び、火の鳥だけが宇宙に羽ばたく。
「合理性を突き詰めた先に、人間らしさは残るのか?」
――この問いを、手塚治虫もハラリも投げかけている。
AIが人間の情報ネットワークの中で「判断者」になり、その判断がブラックボックス化すれば、人類は“理解できない支配”に服することになる。
4. 読解力こそ、AI時代の武器
店主が“なるほど!”と思うことを言う。
「AIが正しいのか、間違っているのか常に人間は判断をしないといけない。つまり読解力が必須。だから本を読まないと本当に正しいかわからないんだよ」
知識がなければ、間違っていることには気づけない。読書することは、AI時代を生き抜く手段だ。
店主は繰り返し言った。
「考えないといけない」
考えて読むことで、正しい情報か間違っている情報かを判断できるようになると言うのだ。
私は人の言ったことをすぐ鵜呑みにしてしまう。「おすすめの商品」と書かれたら、すぐ手を伸ばす。店員さんに「この服、スタッフがみんな持っています」と言われるとつい乗せられる。何も考えていない証拠。人に言われるがまま動いてきた。考えていないのだ。
AIもそうだ。AIの提案も、私はつい信じてしまう。
けれどそれでは、ハラリの言う「人間の自由意志」は失われる。
考えない人間は、もはや人間ではない。
5. インフィニティ∞リーディングが教えてくれたこと
読書会を終え、私はしばらくPC画面を見つめていた。
画面越しの三浦店主の声は、AIではなく「人間の熱」そのものだった。一人の人間が本気で語る姿が、データでは届かない何かを伝えていた。読書は、AIには決してできない“共鳴”の場なのだと感じた。
AIがどれだけ進化しても、考える力・感じる力・想像する力は、まだ私たちの中にある。だから私は、今日も読書を続けなければならない。AI時代を生き抜くために。
夜、布団の中で私は呪文を唱えた。
考えることをやめてはならない。
読書をやめてはならない。
AIがどれだけ賢くなっても、考えるのは、私でありたい。
そのために、今日も本を開こう。
《終わり》
***
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