メディアグランプリ

80代でも世界を旅するアメリカ人夫婦と日光をまわって学んだこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:愛野美奈(ライティング・ゼミ7月)

 

私は今年で英語通訳ガイド歴10年となる。世界から来るお客様を、関東の観光地を中心にご案内するのが仕事だ。欧米を中心にご家族連れからカップル、小グループの個人ツアーを担当している。何年か前に担当したのは専用車での日帰り日光の旅のガイドで、お客様はアメリカ人の80代のご夫婦。最高齢のお客様でとても印象深い。

 

朝はまずホテルでのお迎えから始まる。ご挨拶したら、体調の確認。夜はよく眠れたか、時差ぼけはないかを確認する。それから、脚の状態。杖の有無など。車社会のアメリカの方は歩くことが少なく年配でなくとも膝の不具合で階段が辛い方も多い。歩く距離をはかり、導線確認は大事だ。

 

いつも車を長距離運転するというアメリカから来たスティーブさんご夫妻。スティーブさんだけは杖が必要だが、体調もよく「今日は運転しなくていい。ずっと後ろで楽をしていられる日だ!」

と上機嫌で出発。後部座席は背の高い外国人でも脚が伸ばせる広いタイプの車だ。

 

長いフライトの翌日だと時差ボケと疲れで朝眠そうな方も多い。時には風邪を引いた、お腹を壊したなど体調の悪い人も家族に一人はいて、途中で具合が急変することもある。カスタムツアーの場合は時間に自由があるので、団体旅行について行けない事情のある方々が選んでいただいている場合も多い。

 

途中立ち寄るサービスエリアでは、日本人なら知っているコーヒーの曲が流れるカップのコーヒー自動販売機をお見せする。多くのアメリカの方は自動販売機自体の高性能に驚き、自動で一杯一杯淹れるという発想にも驚く。軽快な音楽が流れて、抽出中の映像が見えるというのもアトラクションみたいに楽しんでくれる。日本人の当たり前が外国人には驚きであることも多い。コーヒータイムでなごんだ後は一気に日光へ。

 

観光名所である東照宮は階段が多く、石の階段はかなりの段差があるのだが、高齢のスティーブさんは杖が必要だ。石段の高さを見てみて中を見るか判断することにしたが、道すがら、杉の木立や建物の荘厳さに圧倒されていて、是非「鳴き龍」を見たいというので、奥様と両サイドから脇を支えてなんとか石段をクリア。また入り口も、靴の脱ぎ履きなど、高齢の観光客に難所であり、ガイドとしては怪我のないように常に気を使う場所だ。

 

 観光地では、行列で待つ場面や、歩きにくい忍耐の要る困難な場所も多い。でも、アメリカ人客の多くはフレンドリーで機嫌が悪くなって怒るような人がめったにいない。例に漏れずお二人も境内でもおもしろいことばかり言っている。「見ざる言わざる聞かざる」の説明も、「僕らはもう80年以上生きてきて、この人生の荒波はすべて越えてきた。そして、これが人生をうまく生き抜く知恵だと、実体験で学んできたよ」と微笑む。アジア各国もほとんど行ったという夫婦には、細かい解説は不要だった。私はこのツアーで二人から学んだことが多い。

 

 杖は必要で歩きはゆっくりではあるけれど、二人とも元気で、何より好奇心が旺盛だ。次の旅程は日光江戸村だ。やはりトム・クルーズの映画「ラストサムライ」を見て侍に興味を持ったそう。時代劇の雰囲気を体感できる場所は外国人にも人気で、なんといっても、忍者ショーや花魁道中、着物体験など豊富なメニューで楽しめる。本格的なショーを見てすっかり気分は江戸の侍で、刀を持って上機嫌なスティーブさんは子供のようにはしゃいでいた。

 

華厳の滝も見た後だったので、広い場内の移動に疲れが出たのではと心配して、車椅子は必要かときいたら、怒られてしまった。「武士は乗らないぞ!」と言ってみなを笑わせてくれた。80代で世界を旅できる元気な夫婦だったのを忘れていた。それでも甘味処ではしっかり休憩してもらいながら奥様に聞いてみた。

「80代とは思えないくらい元気だけれど、なにか気をつけていることはありますか?」 「私たちは世界の旅を続けたいから、地元でボランティアガイドをして、外を歩くようにして、健康を保っている」という。世界旅行という楽しみを続けるために、社会とつながり、自己管理をして健康でいるライフスタイル。とても素敵だと思った。

 

後半の旅は、他の観光客と一緒になると、私のことを「マイドウター(私の娘だよ)」と紹介してくれて、私の方が一緒に過ごすのが楽しくなっていた。ガイドとしては、安全と旅程管理、ドライバーさんとの道順決めなど常に確認、見所の案内をしながらも快適な接客を心がけているので、信頼してもらえているようで嬉しかった。もちろん、新人の頃は余裕がなくミスもしたが、そういう時こそお客様の言葉に助けられた。特に人生経験豊富な高齢のお客様は心に余裕があり学ぶことがとても多い。

 

予期できないトラブルがあっても、不機嫌になったり、怒ったりしないお客様はみなピンチでもユーモアを忘れない。そしてサービスするこちらにも思いやりを向けてくれる。それは、ちょっとした褒め言葉やねぎらいの言葉、国から持ってきたクッキー、笑顔、時にメッセージカードも。そう、ネガティブな事があっても「見ない、聞かない、言わない」お二人は、ツアー中多少疲れてもずっと冗談を言って笑っていた。静かな時は車で居眠りしていた時だけだ。いくつになっても好奇心旺盛で楽しんでいること、異文化への理解やリスペクト、社会貢献のボランティアマインドを持つこと、まわりへの配慮も忘れないこと、たくさん学ばせてもらった。私も長生きしてこんな80代になって上機嫌で世界を旅してみたいと、初めて思った。

 

〈おわり〉

 

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2025-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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