一日一捨てはXデーを目指して加速する
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川戸恵子(ライティング・ゼミ7月コース)
今年に入ってから「一日一捨て」を始めた。
もう使わなくなった物やこれから先は不要と思われる物を,一日に一つずつ捨てるのである。スローペースで「断捨離」する,と言ったらいいだろうか。気の長いことだと思われるかもしれない。
私とて,過去には一日や半日をかけて集中的に片づけをしたこともあった。が,あまり捗らなかったという苦い経験がある。
捨てようか残そうか,迷うことが多いからである。その物にまつわるいろいろな思い出がよみがえってきたり,単に「高かったのにあまり着ていない,使っていない」となるともったいないと思ってしまったり,捨てるのに躊躇してしまう。
悩むことには,けっこうエネルギーがいる。捨てる? 残しておく? そんな判断を一つひとつの物にしていくと,けっこう脳も疲れてくる。「ちょっと甘い物でも」とお茶にしてしまって,遅々として進まない。まるで試験勉強のときのようだ。
結局,時間の割に片付かず,日が暮れて徒労感だけが残った。自分は整理整頓には向いていないのではないかと,自己評価が低空飛行を始める。
しかし,一日に一つだけ捨てる物を見つけるという方法を知って,それなら続けられそうと飛びついた。
まず,短時間で済む。今日はこの場所からと,引き出しや押し入れを開けて「これ」と決めるのなら,それほど大変ではなさそうだ。
また,捨てる物を決める時間帯は,朝食の後と決めた。日課にすればいいと思ったのだ。
さらに,捨てるものをスマホで写真に撮っておくことにした。目に見える形にしておくことで,これだけ捨てたのだという励みになりそうだと考えたのである。
こうして私の「捨てる物探し」が始まった。
もう使っていない化粧道具や香水などはもちろん,素材が気になってあまり着ていない服,重さが気になって持たなくなったバッグ,長時間履くと痛くなるパンプス。
十分使える物もある。もったいないなあと思う。それでこれまで捨てられなかった。使っていないのに,と思うと捨てる気になれないのだ。
昭和一桁生まれの両親に育てられ,「もったいない」「まだ使える」と,物を大事にするよう教え諭された世代としては,まだ使えるものを捨てることには忸怩たる思いがある。
しかし,「使える」からといってそれを「使う」とは限らないのだと,以前読んだ「断捨離」系の本を思い出す。使わなければそれはゴミ同然。そう自分に言い聞かせた。
年齢的にも終活を視野に入れる身である。それでなくても,いつ何が起こるかわからない。もし今の状態で私がいなくなったら,残された多くの物を前にして,遺族は悲しみよりも恨めしさが勝るに違いない。
ここはすっぱり割り切らないといけない。
そして思い浮かべるのは,旅行先のホテルの部屋。当然だが余分な物がない。これがけっこう居心地がいい。
そう言えば,ごちゃごちゃと物が多い部屋にいると脳が疲れる,という記事を何かで読んだことがある。
ホテルの部屋が過ごしやすいのは,本当に必要な物だけが身の周りにあるからなのだろう。数着の服がかけられ,引き出しに物が少し入れられて,机にはペンと紙だけが置かれているだけ。
余分な物は置いておけない,この狭さがいいのかも。
そう,広い家だとつい物が増える。いや,物が自然発生的に増えるわけではない。私自身が増やしてきたのである。
収納場所も多いから,ついため込んでしまう。押し入れやクローゼットにしまい込むと,そのこと自体を忘れる。まるで木の実を土の中に埋めて,その場所を忘れてしまう森のリスだ。
忘れてしまうということは,それが必要になった時に探しても,すぐに見つからないということだ。だから,また買う。そして自己嫌悪に陥る悪循環。
お財布にも精神的にも,やさしくない。
そんなことを繰り返して,今やっと「一日一捨て」にたどりついた。何とか続いている。
きっちり一日に一つというわけでもなく,ついでに二つ捨てることもある。旅行などで家を空けた時は,帰宅してその日数分を捨てる。そのくらいの緩さである。
捨てると決めた物は,空いている部屋の隅に,ゴミ袋や紙袋などに入れて一時保管している。たまってきたら,本当にゴミとなるものは自治体で決められた日にゴミとして出す。新品同様でしまい込んでいたものはリサイクルショップに持っていく。
これを何回か繰り返した。
しかし,なんということだろう。
あれだけの物を処分したのに,まだ家の中は雑然としている。片付いたという気は全くしない。捨てた分をまた買い足したというわけでもないのに。
これは,よほど物が多いのだろう。もっと捨てなければ。でも,どうやって?
そこで,妄想した。
「もしこの家を出て一人暮しをするとしたら,何を持っていくか」
と考えることにしたのだ。
きっかけは,田舎暮らしの番組を見ている時に,
「ええなあ,田舎暮らし。元気なうちに,してみたいわ」
とつぶやいた私の一言に,夫が
「やってみたら?」
と反応したことだ。
え? いいの?
少し驚きながらも喜んで,どこかの田舎で一人暮らすことを考え始めた。
田舎暮らし自体は,現実的には難しいこともあるだろう。しかし,私の妄想は止まらない。
一人で暮らすなら? 小さな平屋がいい。この場合,防犯上どうなのかとか,詐欺師に騙されるのでは,とかいう慎重な常識論は除外。何しろ妄想なのだ。
いつか家を出る日を「Xデー」とし,思いは巡る。
一人で暮らすには,何を持っていくだろう。
「自分の気に入った物」だけをスーツケースに詰めることにしよう。
では,持っていくのは何? 私の捨て活は,一気にフルスロットル。家のあちらこちらに置いてある物を思い浮かべてみる。
そうして選んだのは,繰り返し読んできた数冊の本,娘や孫から贈られたプレゼント,厳選した数冊のアルバム。一度手放したら二度と手にすることのない物たちだ。
うん,それだけでよさそう。
できれば気に入っている着物や食器,ピアノも持っていきたい。しかし必要ならば,その時にきっとなんとかなるだろう。
服や靴や鞄などももちろん必要だが,いる分を買えばいい。今ある中からこれを絶対に持っていきたいという物はなかった。これには我ながら驚いた。あんなにせっせと買っていたのに,なんだっただろう。
物がないと困ると思っていたけれど,本当に必要な物はそう多くはないようだ。余分な物に場所をとられ,片付けの時間を取られ,ストレスをためている。残された時間の方が短いであろう年代になってくると,物に振り回される時間や労力の方がもったいない。
世の中に「ミニマリスト」や「持たない暮らし」をしている人は,それを既に悟ったのだろう。そうした人々には若い人の方が多いようだが,その賢明さに脱帽する。自分の若い時なんて「消費してナンボ」だったのに。
私も今からでも遅くはないだろうか。もっと自分自身の「暮らしやすさ」を大事にして,物とのつき合い方を見直していきたい。
妄想Xデーから急展開した捨て活は,「一日一捨て」どころではなくなり,今や一日五つ捨てくらいになってきた。長期計画で考えていたが,1年でなんとかなるかもしれない。
家の中がスッキリし,これでもういつでも大丈夫と思えるようになったら,もう一度,Ⅹデーを具体的に考えたいと思う。
≪終わり≫
***
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