自立未満
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:かみね(2026年1月開講・福岡・2週間集中講座)
ぼくは自分を、とても自立した人間だとおもっていたのです。
雨ニモマケズ、風ニモマケズ、誰にもたよらズ迷惑かけズ、自立して生きてきた。
だけどぼくは、甘えた関係のなかで、社会規範によっかかりながら生きていたのだ。
ぼくはひとり親で、子どもが3人いる。
このはなしとひとり親であることは関係ないかもしれないが、子どもが3人いる。
そしてこの子どもたちは、ぼくに、たまにサプライズをする。
誕生日やバレンタイン、もしくは彼女らが思い立った記念日に。
サプライズをしてくれるのではない、するのだ。
そしてぼくはそれをよろこばない。
ぼくが欲しいものは、ぼくがよく知っている。
彼女らが手作りしてくれるプレゼントは、ぼくが欲しいものではもちろんない。
それなりに大きくなったけど、それでもまだ小さな手で、ぼくのことを想ってつくってくれた。そのこと自体はとても愛おしい。
きっとよろこんでくれるだろうと、わくわくしながら作ったのだろう。
だからよろこぶふりはする。がんばって。
だけど本当にうれしくないのだ。
だってそのプレゼントは、ぼくの日常生活に必要なものじゃない。
子どもたちの期待に沿おうとがんばるあいだ、ぼくは歯をくいしばっている。
よろこぶふりをすることで、ぼくの心は削れていくのだ。
そして心が削れたことそれ自体が、ぼくを殴るのだ。
ぼくは、なんてひどい親だろう。
だけど、モノも期待もありがた迷惑なのだ。
ぼくは、自分がありがた迷惑してしまうことを恐れている。
こんなにも歯をくいしばって、こんなにも心を削る行為を相手に強いるなんて。
自立して生活しているぼくは、ひとに「迷惑」をかけることはほとんどないと自負している。
「迷惑」になることはおおよそ予想がつくし、その予想は外さない。
でもありがた迷惑というものは、ぼくの想像のそとにあるから分からない。
そもそもこちらが「良い」と思っていることが相手にとっての「迷惑」なのだから、想像のそとにあるものなのだ。原理的に。
ぼくの「迷惑」と相手の「迷惑」に大きな差はない。
ぼくの「良い」が相手の「迷惑」になるとき、そこには大きな落差があって、それが明らかになったとき、ぼくはあまりのいたたまれなさに身もだえする。
文字通り、身もだえするのだ。辛い。恥ずかしい。消えてしまいたい。
このいたたまれなさは、ぼくが相手に甘えていたことが明るみに出てしまったときの痛みだ。
ぼくの「良い」が相手の「迷惑」になるとき、ぼくと相手のちがいが浮きぼりになる。
ごくまれに、不要なプレゼント(モノ)を贈り主に送り返せるひとがいる。
贈与の機能の本質は「関係性の継続」であるらしい。
つまり不要なプレゼント(モノ)を送り返すことは、「あなたとの関係性を継続する気はない」という意思表明になる。
そりゃ相手も怒るだろう。
だけど不要なプレゼント(モノ)、つまりありがた迷惑が、ぼくと相手のちがいを浮きぼりにするのなら、送り返したひとは、自分とあなたはちがう人間だと言っているに過ぎないのではないか。
あなたの「良い」はわたしの「良い」ではなかった。
だってあなたとわたしはちがう人間なのだから。
当然のことを言っているけれど、そこには甘えさせてくれないこわい人がいる。
ありがた迷惑をうけとるひとは、きっとやさしいひと。
相手と自分がちがう人間であることをつまびらかにすることなく、甘えさせてくれるのだ。
ぼくは子どもを甘やかしている。歯をくいしばってありがた迷惑をうけとっている。笑顔で。
だけどぼくはやさしくはない。
だってぼくが子どもからのありがた迷惑を笑顔でうけとっているのは、社会規範だからだ。
「そういうときは、黙って笑顔でうけとるものだよ」
社会規範はこの社会を円滑に回すルールだから、黒か白か、丁か半か、一刀両断にされるイメージがあるけれど、ほんとうはとてもやさしい。
ありがた迷惑を贈っても、社会規範に沿った相手は黙ってうけとってくれる。
ぼくとあなたがちがう人間であることを秘匿したまま。
社会規範は、ぼくがあなたに甘えている事実をかくしてくれる。
むしろ不要なプレゼント(モノ)を送り返したひとに対して、「常識のない人間だ」と、非を転嫁できる。
ほんとうは、ぼくとあなたがちがう人間だという事実を見ないふりしているぼくに非があるのに。
ぼくは誰にもたよらズ迷惑かけズ、自立して生きていたはずだけれど、社会規範に殴られながらありがた迷惑をうけとっている。心を削られながら。
ぼくはきっと、ぼくとあなたはちがう人間なのだということから、この関係を始めたいのだ。
そこから積み上げていきたいのだ。
不要なプレゼント(モノ)を送り返しても、ぼくとあなたの関係は積み上げられる。
きっと。
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