第14回 《週間READING LIFE「けっこん、します」》
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
前回までは、第3章‘向き合うこと’として、‘関係のその先へ’現在から未来へ。二次元、三次元から四次元へ。というお話をお伝えしました。
今回からは、第4章‘現実的な生活設計’に入っていきます。
けっこん、します。というテーマだけでなく、生活を共にすると言う観点から‘ふたりのお金と暮らし’は、最も重要な事です。
今回は現実的な問題、結婚前に知っておくと良いお金事情にフォーカスします。
結婚する! と決めた瞬間から、少し気になり始めることがある。
「この人のお財布事情、私はどこまで知っているんだろう」
年収や貯金、借金、住宅ローン、奨学金、保険、お金の使い方。
「聞きたい。でも、どこまで聞いていいのか分からない。一方で、自分のことも、どこまで話しておくべきなのだろう」
「愛しているから、大丈夫」本当に、それだけで結婚生活は成り立つのだろうか。
それぞれが育った環境の違いや考え方や価値観などで、必ずぶつかる壁。
私は26年間、2,200組以上の結婚式に携わってきた。
その中で確信したことがある。
結婚生活を壊すのは「お金」そのものではない。
お金について話せない関係こそが、夫婦を少しずつ追い詰めていくのだ。
その結果、どんな事が起きるのか?
皆さん、少し想像してみてください。
「あのおちょっと、相談があるんです」
その声で、担当のウェディングプランナーは、いつもの明るいご新郎様とは違う異様な空気を感じ取った。
結婚式を10日後に控えた、ある日のこと。
「結婚式の振込みって、明後日の水曜日までですよね? 実は、お金が全然足りないんです」
スピーカーから漏れ聞こえる低い声に、オフィスの空気は一瞬で凍りついた。
詳しく聞けば、最終の請求金額が463万円であるのに対し、手元には183万円しかなく、不足分が280万円もあるという。銀行のブライダルローンも審査が通らず、親に頼ることもできない。
ご新郎様は、完全に途方に暮れていた。
しかも、この深刻な事態を、ご新婦様はまだ何も知らないというのだ。
「お金を払えないのに結婚式なんてダメ。ご両親か親戚とか上司とか、誰かに頼めないのかしら!」
チーフは電話の向こうに聞こえるように、大きな声を出した。私はいったん電話を切るように指示を出し、担当プランナーは「どうしたらいいんでしょう?」と涙をポロポロ流し立ち尽くした。
かつての私なら、この大きな問題からすぐに逃げ出していただろう。私は幼い頃から太っていてどんくさく、いつも人の後ろに隠れて生きてきた。
大人になってからも、相手に合わせることを「優しさ」だと勘違いし、決断と責任から逃げ続けていた。
しかし、数年前に先輩経営者から言われた「後ろにいる人に誰もついていかないよ」という厳しい言葉が、私の脳裏に突き刺さっていた。
目の前には、人生の瀬戸際に立たされたご新郎・ご新婦様と、約1年間寄り添ってきたプランナーの涙がある。
ここで、誰かのせいにしている場合ではない。
「当日、受付でいただいたご祝儀をすべてそのまま、一度私に預けてください。それで結婚式をやりましょう」
私は覚悟を決め、そう言い切った。
ご祝儀を合わせても足りないリスクは十分にあった。
しかし、会社としての損失を恐れて中止や延期にすれば、ふたりの人生に消えない傷を負わせることになる。
そのリスクを背負うのが、経営者としての私の責任だと腹をくくったのだ。スタッフ全員を集めて頭を下げると、チーフもスタッフたちも「じゃあ、やりましょう」と納得してくれた。
そして、迎えた挙式当日。
何も知らないご新婦様やゲストの笑顔の裏で、この状況を知っている私たち4人だけが、これまでに味わったことのない緊張感に朝から包まれていた。
結婚式は、ふたりの人柄が溢れる温かいものだった。
ご披露宴の終盤、ご新郎様から担当プランナーへ、サプライズで大きな花束が贈られた。プランナーは号泣し、会場は大きな拍手に包まれた。ふたりの門出を諦めなくて本当に良かったと、心から思える瞬間だった。
ご披露宴おひらき後、ガムテープで厳重に密閉された、重みのあるご祝儀の紙袋を私は預かった。
翌日、私たちはお2人のご自宅を訪ねた。
すでに事情をすべて打ち明けられたご新婦様は、
「何も知らなくて、本当にごめんなさい。ありがとうございました」
と申し訳なさそうに、涙を目にいっぱい浮かべていた。
静まり返ったリビングで、1つずつ祝儀袋の封を開けていく。パチ、パチ、パチと、ご新婦様が叩く電卓の音だけが部屋に響く。
喉がカラカラに乾くような緊張感の中、最後の一袋を開け終えた。
「全部でここにあるお金は、182万円です」
その言葉にがっかりと、うなだれるご新郎様。
ご新婦様が、すぐに玄関から飛び出して近くのコンビニへ走って行った。
手元に握りしめた10万円を足したが、合計で192万円。
不足していた280万円には、あと88万円届かなかった。
なぜ……?
ご新郎・ご新婦様はこの日を迎えるまで、お金について話し合わなかったのだろうか。
色んな事が頭をよぎったが、
「残り88万円ですね。残りはどのようにお支払いいただけますか?」
私は冷静に問いかけた。
「月々いくらかと、ボーナスで多めに……。という形でもいいですか?」
この場にいる誰もが、他に対策はない事は分かっていた。
「こんなこともあろうかと」と思い私はすかさず、準備してきた今後の支払いに関する‘覚書’の書面をテーブルに出した。
あとは、お2人を信じるしかなかった。
あの日から、2年8ヶ月。
32回の分割払いで、毎月月末には必ずお金が振り込まれ、無事に完済された。
ご友人の結婚式のプロデュースを3組ご紹介いただき、何年か経った今でも、お子様を交えてお食事に行く大切な付き合いが続いている。
「これから一緒に住む部屋を探したり、結婚式の準備をしたりするのに、予算を立てたいんだ。お互いの今の収入とか、無理なく出せる金額を一度すり合わせしてみない?」
このひと言が言えていたら、何かが違っていたのかもしれない。
では、ここで。今回のまとめに入ります。
お金の話をする時に、まず大事な事は、相手を問い詰める面接ではなく、ふたりの未来の作戦会議というスタンスで臨むのがコツです。
- 相手に「これだけは聞いておく」3つのポイント
最初から「貯金額いくら?」とストレートに聞くのはハードルが高いので、今後の生活設計に直結する部分から確認していくのがおすすめ。
・毎月のおおよその収入と固定費
手取りでいくらくらいあって、家賃や光熱費、スマホ代などの固定費に今いくら使っているか。
これが見えないと、新居の家賃設定や生活費の分担が決められない。
・奨学金やローンなどのマイナス資産。ここ、すごく大事!
奨学金や車のローン、リボ払いなどの毎月引かれるお金があるかどうか? は、必ず確認する。
毎月いくら返済していて、あと何年で終わるか? を共有しておくことが、のちのちの信頼関係を守るポイントになる。
・結婚式や新生活に、今出せる予算
見積もりに対して、今ふたりでどれくらい現金を用意できるか(親御様からの援助があるかも含めて)は、かなり初期の段階で擦り合わせておく。
- 自分は「どこまで話しておく?」
基本的に、相手に質問したことと同じレベルの事は、自分もすべてオープンにするのが鉄則です。
・現在の貯金額や結婚資金に回せる額など、全財産を一円単位まで明かす必要は必ずしもないが、結婚資金や新生活の初期費用として、自分はこれだけ出せるよ。というリアルな数字は伝えておく。
・自分のお金の使い方・こだわり
「趣味には毎月これくらい使いたい」「食費はケチりたくない」などといった、自分の「お金の価値観」を伝えておくのも立派な情報開示です。
「ここは譲れない」を事前に知ってお互いに尊重し合える関係が理想的です。
いかがでしたか?
次回の第15回は、さらにその先の未来に向かって進みます。
‘現実的な生活設計・家計について’
現実を一緒に生きる覚悟を持って、お2人で新しい人生を歩んでいく。
最初に少し勇気を出してリアルなお金の話に向き合っておくと、この先どんな問題が起きても、ふたりで手を取り合って乗り越えていける強い絆ができるはずです。
❒ライタープロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年以上携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。思い立ったら世界中どこまでも行き、知らない事はどんどん知ってみたい。好奇心旺盛で、即行動をする。
何があっても、今を全力で生きる。切り替えが早く、とにかく前向き。
これまでのブライダル業務の経験を活かして、次の世代に、未来に何を繋げていけるのか?
といつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。
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