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三浦半島について

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

渡辺(ライティング・ゼミ1月コース)

 

三浦半島、奇妙な場所である。

奇妙というのは、あくまで東京の風景に慣れてしまった私の視点によるものだが。

それで、なにが奇妙かといえば、その静けさである。
今まで三浦半島には何度も足を運んできたが、最近になってようやくそれに気付いた。

適当な駅で降りて、そしてその街を歩くだけでわかるかもしれない。
ここには何かが足りない。だがかくいう街も、足りない状態が、あくまでも正しいといった感じでそこにある。それがどうも面白い。

 

確実に余白を楽しむ文化がそこにある、と思った。
ちょっと前の、一工夫で社会の目を出し抜けそうな雰囲気が、そこかしこに見られた。

意図的そうしたのかどうかは、よくわからないが。
ともかく、文化としては空白であり、隙であり、余白である。

 

街の余白について、色々話しつくされたカンはある。
まあ、足りないものは補ってしまえば、一応は安心だ。公衆電話、コンビニ、ファミレス、百円ショップ…… だが、それがまた無限の欲求を湧きたてるのであり、そうやって街は開発され、人はそこに住みたがる。あらゆる一時的な充足は、住民の一時的な心の安寧である。

 

当然だが、心の安寧、あらゆる充足はエゴだ。
足りないものは足らしめ、隙を突き、余白を埋め尽くす。
それが高じて、完全なコントロールを目指す。
非常に息苦しくみえるが、なんだかどうも、こういうコミュニティのほうが平穏に過ごせる、という価値観も存在するらしい。それも広範に。私はあまり好きではないが、かといって馬鹿にもしていられないくらい、身近になってきていることを実感している。

 

最近ようやく私は気づき始めたのだが、若者はこういうものを出し抜くことに最大限の時間を割くべきなのだ。こういうエゴの、もはや美しいまであるほどの結晶に、徹底的に対抗してみる必要がある。そして、そういうものを叩きのめそうとして、なんだか自分の中にも、似たようなものがあることに、初めて気づくことができる。そういう学びをわかっているからこそ、いままで余白は、大人たちによって見て見ぬふりをされてきたのかもしれないが。

 

 

それで、三浦半島に人を出し抜く文化が根付いている、なんて話をしたいわけではない。ただ、そこかしこに余白があって、それがそのままにされている。そしてそれが、独特の静けさを作り出している。
世界の余白に分け入ったときの、自由を扱うことへの緊張感がある。

街だけでなく、背後の海もまた、空虚な自由を作り出している。
海は本当に何もない。そこで生きるも死ぬも自由だが、足をつけて立つことはできない。
一方、この海は東京湾であり、船はひっきりなしに現れる。
偉大なる人間の営為を感じざるを得ない。
だからといって自分が、この自由を無尽に扱うことができるわけではない。
ただ目の前に圧倒的な可能性を提示されるだけだ。

 

半島には鉄道が敷いてある。それも電鉄である。

10分に1回、長大な編成が東京都心に向けて走り出す。
私たちはいつでも三浦半島に行くことができるし、いつでも出ていくことができる。
人間によって敷設された自由だ。
ただし、他の関東圏の観光地と比べ、レジャー化はあまり進んでいない。
だから、行ったところで、必ずしも充実した体験が保障されているわけではない。
何かに誘導されるわけでもない。無限の可能性だけがある。

 

保障されていない、と聞くとやはり不安になる。
金銭的に損をするかもしれないし、二人以上で行くなら、人間関係にも気を遣わないといけないかもしれない。(両者は大して変わらないかもしれないが)
空白、余白、自由を目の前に、何をするのか。
あまりそういうことを考えさせない世の中になっている気がする。

 

ある社会システムを人間が主体的に操作している、つまり手動であることを自覚した時ほど、身近さと不安を感じることはない。案外そういうことは多い。飲食店は何らか既に与えられたシステムに乗っかっている以上に、誰かが決定することによって運営されていることが多い。すべての料理、ホスピタリティは勝手に現れるものではなくて、誰かの石によって生み出されている。だが、自分がそういう立場に回ってみないと案外わからない。

レジャー化されたあらゆる観光地を見ても、やはり実は人間が手動で動かしている。一方で、そういった場所における、あらゆる体験のパッケージが透明になればなるほど、自分が素晴らしい体験をしている、と感じられる。他人が知恵を絞って、手を動かして作り出した体験を、自分が自分の意志で、しかも安全に手に入れたと考えている。

都会的な安全で充足した、非余白文化に慣れてしまったとき、三浦半島にほっぽり出されると、ちょっとしたショックがある。
自分が如何に余白を楽しむことを忘れているか、実感せざるを得ない。
あるいは最初から、楽しむ能力がないことに気づくかもしれない。
あらゆる体験、そしてあらゆる世界は手動で回っている、という当たり前のことを、突きつけられる思いがする。

都心から電車でたったの一時間、忘れられようとしている余白の文化に、一度落っこちてみるのはいかがだろうか。

 

 

 

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