おみくじの流儀 ―五円玉から大大吉へー
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:飯田久枝(ライティング・ゼミ 2026年1月開講4ヶ月コース 第13回課題)
五円玉を賽銭箱に投げ入れ、目を閉じる。
「仕事がうまくいきますように。お金に困りませんように。健康でいられますように。」
数年前まで、私の初詣はずっとこれだった。五円玉で、人生の全部をお願いする。欲張りなくせにケチ。しかも丸投げ。自分では何もしないで、神様にぜんぶやってもらおうとしていた。
そしておみくじを引き、大吉だとやったー、凶だとがっかりする。
考えてみてほしい。もしあなたが神様だったら、どう思うだろう。
毎日何万人もの参拝者が来る。一人ひとりが五円玉をチャリンと投げて、「彼氏ができますように」「宝くじが当たりますように」「上司が異動しますように」と好き勝手なことを言う。
あなたの願いは、五円の価値なのか。
あなたの人生は、その程度のものなのか。
そんなことを考えたこともなかった私に、メンターがあるとき言った。
「神社では、お願いするんじゃなくて、お礼を言うんだよ。」
最初は、意味がわからなかった。お礼? まだ何も叶ってないのに?
メンターが言うには、こういうことだった。
神社は「お願いする場所」ではなく「宣言する場所」だと。日頃の感謝を伝え、自分がこれから何をするかを報告する。神様は願いを叶えてくれる便利屋ではなく、自分の覚悟を見届けてくれる存在なのだと。
半信半疑だった。でも、試してみることにした。
次から神社に行くときは、お賽銭箱にお札を入れるようになった。
五円玉からお札に変えた理由は、見栄でも信心深さでもない。自分の本気度を自分に示すためだった。五円玉を投げていた頃の私は、神様にも自分にも、本気ではなかったのだと思う。
目を閉じて、まず言った。
「いつもありがとうございます。」
それだけで、なんだか気持ちが変わった。
続けて、「今、こういうことに取り組んでいます。精一杯やるので、見守っていてください」と心の中で伝えた。お願いではなく、決意表明。最後に、こう付け加える。「私の目標を達成するためのメッセージをください。」
そのメッセージを受け取るのが、おみくじだ。
だから私は、お参りのあと必ずおみくじを引く。大吉か凶かではなく、そこに書かれた言葉を、神様からの返事として読む。
メンターに教わってから、毎月一日にお参りに行くようになった。年に一度の初詣から、月に一度の定例報告。神様との関係が変わった。
不思議なもので、お参りの仕方を変えてから、行動が変わった。
五円玉で「お金に困りませんように」とお願いしていた頃は、漫然と会社に通い、給料をもらい、つまらないと文句を言いながらダラダラ過ごしていた。でも、「自分でやるから見ていてください」と宣言するようになったら、本当に自分で動かなければいけない気がしてきた。宣言した以上、サボったら神様に申し訳ない。
今月は、八方除けで有名な寒川神社に行った。全国から参拝者が集まる神社だ。
いつものようにお札を入れ、目を閉じた。
「いつもありがとうございます。今月は両親の環境が変わるので、その手続きや引越しがあります。セミナーの仕事も3件。忙しくなりますが、両親が安心して暮らせるよう、セミナーに来てくださった方に気づきがあるよう、一つひとつ丁寧にやります。見守っていてください。メッセージもください。」
そして、おみくじを引く。寒川神社のおみくじは、筒を振って出た番号の棚から自分で取るスタイルだ。
筒を振る。カラカラと音がして、細い棒が一本飛び出す。
八番。
おみくじの棚に向かう。番号順に並んだ棚の中に、おみくじが詰まっている。一番、二番、三番……七番。どの棚にもおみくじがぎっしり入っている。
八番の棚を見る。
何も入っていない。空っぽだ。
引き間違えたかと思い、もう一度番号を確認する。八番。合っている。でも、棚には何もない。周りの参拝者たちは、自分の番号の棚からおみくじを取り出して、楽しそうに読んでいる。私だけが、空の棚の前で立ち尽くしている。
これは……品切れ? 神社の人に伝えなきゃ。
お札を売っている巫女さんのところに行った。
「あの、八番が出たんですけど、棚に何も入っていないんです。」
巫女さんは、「ああ」とだけ言って奥に消えた。
戻ってきた巫女さんの手には、他のおみくじとは明らかに違う、大きな金色の紙があった。
「どうぞ。」
大大吉。
大吉のさらに上。大大吉なんて、あるんだ。人生で初めて見た。
特別なおみくじだという。普通の棚には置かれていない。奥にしまってあって、八番を引いた人だけが受け取れる。巫女さんの「ああ」は、「ああ、あれね」の「ああ」だったのだ。
金色の紙を両手で持ちながら、じわじわと込み上げてくるものがあった。
嬉しかった。でも、昔の私だったら「やった!これで何もかもうまくいく!」とはしゃいでいただろう。今は違う。大大吉を手にして思ったのは、こういうことだった。
ああ、応援されている。恥じないよう行動しよう。
五円玉を投げて「お願いします」と丸投げしていた頃の私に、大大吉は来なかっただろう。いや、来ていたかもしれないが、そのありがたみはわからなかっただろう。
お参りの仕方は、生き方の縮図だと思う。
誰かにお願いして何とかしてもらうのか、自分で決めて自分で動くのか。
五円玉でチャリンとやっていた頃の私は、人生もそうだった。良い会社に入れば安泰。良い人と結婚すれば幸せ。誰かや何かに寄りかかって、うまくいくことを祈っていた。
でも、うまくいかなかった。
大事なのは、神様の前で自分に嘘をつかないこと。そして、境内を出たあとに、ちゃんと自分の足で歩くこと。
五円玉の私に教えてあげたい。
神様は、お願いを叶えてくれる人じゃない。本気の人を応援してくれる存在だ。
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