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「ボウリングをする」と決めたことが内定を引き寄せた《週刊READING LIFE Vol.359「あのとき、別の選択をしていたら」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「今年のゴールデンウィークはボウリングに行こう」

夫も私も人混みが苦手なため、ゴールデンウィークに遠出はしない予定だった。でもせっかくの連休だ。何かはしたいねと話していて、思いついたのがボウリングだった。

提案したのは私だったが、では得意かと言うと、そうではない。むしろド下手だ。学生の頃や社会人になって会社の同期と何度か行ったが、皆が100前後のスコアを出す中、ガーターを出しまくって、スコア100など夢のまた夢で到底及ばなかった。元々運動神経が良くないことに加え、投げ方が悪いせいか、終わる頃には親指の爪が割れてガタガタになっていた。

夫はというと、若い頃から定期的に同僚とボウリングをしていて、今でも年に数回集まっている。「今回は調子良くなかった……」なんて言いながら帰ってくることもあるが、スコアを聞く限り今まで私が出せたことのない数字だ。楽しそうな夫を見て、私も久しぶりにボウリングをしたくなった。

家の近くにボウリング場はあるものの、せっかくのお休みだからということで、夫がよく行く田町のボウリング場に行くことにした。午前中にボウリングして、ランチは近くのチキンライスで有名なお店に行くことした。

ゴールデンウィークの田町駅は人が少なく、のんびりとしていた。ボウリング場へ向かう道すがら、22年前の春、田町でボウリングをしたことを思い出した。

あの夜、ボウリングをしていなかったら、私の人生はどうなっていたのだろう。きっと今とは別の人生になっていたに違いない。あの時「ボウリングをする」と決めて投げた人生の一投は、それまでのガーター続きだった私の人生を忘れるくらいの、見事なストライクを生み出した。

 

大学4年生になったばかりの4月のことだ。当時アルバイトをしていた先で、職員間の懇親を深めるためのボウリング大会が企画された時、是非アルバイトの人達もと声を掛けてもらった。その頃の私は就職活動に行き詰まっていて、ボウリングどころではなかった。周囲の友人達が「就職先が決まった」とか「内定をもらっている会社はあるけど、行きたい会社は別だから保留にしている」と話す中、私は一社からも内定をもらえていなかった。

そんな状況で遊んでいるわけにはいかないと、「欠席します」と伝えたのだが、「参加しないの?」「息抜きになるよ」と何人かの人が声を掛けてくれた。それでも、「内定をもらえていない私に遊ぶ価値なし」「気を抜いているなんて神さまにバレたら、一社からも内定がもらえず、就職浪人まっしぐら」なんて思っていた私は、「参加しません」と答えていた。

だからと言って、内定がもらえるわけではない。悶々とした数日を過ごし、ムシャクシャしてきて、「こうなったらボウリングをして憂さ晴らしだ!」と半分ヤケになり、幹事に「やっぱり参加したいです」と伝えた。「参加だね。分かった!」と言った幹事は、どこかホッとした顔をした。もしかしたら鬱々とする私のことを心配してくれていたのかもしれない。そう言えばと、昨年まで同じ職場でアルバイトをしていて、その年の4月から新社会人として働き始めた友人がボウリング大会に参加することを教えてくれた。

ボウリング大会が開催されるまでの間も就職活動をしていたところ、ある会社の最終面談まで漕ぎつけることができた。面談日はボウリング大会の翌日だ。「面接対策するためにも、ボウリングは欠席した方がよいかな」という思いがよぎったが、久しぶりに友人に会いたいという気持ちもあり、参加することにした。

数ヶ月ぶりに会った友人は、「社会に出て働くって本当に大変。アルバイトとは全然違うよ」と言いつつも、第一志望の会社で社会人生活を始められた嬉しさからか、キラキラした表情で輝いて見えた。「私も一年後にはこんな表情をしながら働けるのかな」という焦りのような、不安な気持ちが芽生えた。

中学生の時に1度やったきりで、人生2度目のボウリングの結果は散々だった。なんとかビリは免れたものの、ブービー賞だった。「明日は面接だというのに、なんとも幸先悪い……」と思いつつも、気分転換して肩の力を抜くことができて心が軽くなった。「飲み会も行こうよ」と誘ってもらったものの、面接を控える身なので、「明日も仕事なので帰ります」と言う友人と2人で帰ることにした。

駅までの道すがら「就活の状況はどう?」と友人に聞かれた。一瞬言うか迷ったものの、全く内定をもらえないこと、何がよくないのか自分では分からないこと、明日は最終面接だけれどまた不採用かもしれないと思うと不安で仕方がないことを話した。

それまでの私は、就活が上手くいかないことへの不安を誰かに話したことはなかった。不採用の連絡がくる度に、社会から「あなたは必要ない」と言われているようで不安に押しつぶされそうになりながら、それでも泣き言は言っちゃいけないと、自分自身で叱咤激励しながら就活をしていた。

友人は私の話を遮ることなく、「うん、うん」と聞いてくれた。私の吐露が終わった後、おもむろに話し始めた。

「一緒にアルバイトをしていて、あなたが努力家で真面目に仕事をする人だってことを、私は知っている。職員さんたちも褒めてる。面接は相性も関係するから、不採用だからといって、『この会社には合わない』というだけで、あなたのことを否定しているわけではないから、自信をなくすことはないよ」

「でもどんなに良いところを持っていても、それが面接官に伝わらなければ内定はもらえないのも事実。そして面接は印象が大事。『この人と働きたい』と思われる必要がある。だから、明日は顔が引きつるくらい、思いっきり笑顔で挑んでごらん。笑顔でいるだけで十分だから」

「笑顔」

この時になって、面接中、笑顔でいることを軽んじてきたことに気がついた。それまではなぜこの会社で働きたいのか、これまでどんなことを頑張ってきたかを伝えることが重要で、ニコニコするなんてまるで面接官に媚びを売っているようで無駄なことだと思っていた。集団面接では「とにかく何でも頑張ります!」と元気よく発言する学生を、「『何でも』なんて言って、まるで会社の言いなりになりますと宣言しているようで、格好悪い」と馬鹿にしていた。

腑に落ちず「笑顔だけで本当に十分なのかな」と正直な思いを口にした。すると友人に「同じくらいの能力の2人がいるとして、どちらかを選ばなければいけないとなったとき、いつも笑顔でいる人と、仏頂面でいる人とだったら、どちらの人と一緒に仕事をしたいと思う?」と聞かれた。もちろん笑顔の人だ。

いつもの方法で上手くいかないのであれば、別の方法に挑戦する必要がある。昨年一年間同じ職場でアルバイトをした友人が「笑顔でいるだけで十分」と言うということは、私には笑顔が不足しているという言葉の裏返しだ。

「分かった。明日は顔が引きつるくらい笑顔でいる!」「その調子! 応援しているよ」友人とは、田町駅で笑顔で別れた。

翌日の面接では「笑顔、笑顔……」と唱えながら挑んだ。そうすると不思議なことに、いつもであれば緊張で体が硬くなるのに、肩の力を抜いて落ち着くことができ、口角が上がることで自然と声のトーンが高くなり、ハキハキと話すことができた。面接が終わった後、「やりきった」という安堵感と高揚感で、足取り軽く帰宅することができた。

結果は「内定」で、翌年の4月から働き始め、そして今も同じ会社で仕事をしている。

あの時「ボウリング大会に参加する」と選択しなかったら、友人と会話することはなかった。そして、友人からのアドバイスがなければ、今までと変わらずガチガチに固まった体と仏頂面で面接に挑み、数え切れないくらいの不採用のスコアが、虚しくプラス1になっていたことだろう。

「ボウリング」と「内定」だなんて、およそ関連性の無い2つの言葉だが、私にとっては切っても切り離せない言葉だ。

 

ゴールデンウィークに久しぶりにボウリングをやった結果はというと、1回目のスコアは50台だった。当初夫からは「目標は80」と言われたものの、想像以上にひどいことに気がついたようで、「2回目は1回目以上のスコアを目指そう!」と激励された。結果は60台で、なんと最後はスペアを出すという、私としては飛躍的成長を遂げることができた。そして私が転機を迎えるきっかけとなったのは、ボウリングであったことを思い出した。全くもってボウリング様様である。

人生はたくさんの選択の積み重ねでできている。そう考えると、人生はなんてドラマチックなんだろう。

それと同時に、「あのとき、別の選択をしていたら……」と思うことが、私の場合ほぼないことに気がつく。全くないと言えば嘘になるので「ほぼ」という言葉を使ったが、今のところ思い当たる節がない。どんな選択をしたとしても、その選択が自分にとって最適と思うこと、もしかしたら時には思い込むことが必要な時もあるかもしれないが、それでも自分の選択を信じ行動していれば、どんな選択の先にも自分の望む未来が待っている。そう思いながら、前進する毎日だ。

 

ライタープロフィール

松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。東京都在住。

2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。

「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。

 

 

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