メディアグランプリ

水墨画と蕎麦と酒と男と女


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:歩楽三(2026年1月開講・渋谷/通信・4ヶ月コース)

 

 

ある日、SNSで水墨画のワークショップイベントを見つけた。

おや、なんと場所は行きつけのお蕎麦屋さんじゃないか!

「水墨画x蕎麦x酒 ワークショップ」と銘打たれていて、なんとも魅力的だ。

何より「酒」という響きが良い——。

 

と、冗談はさておき、講師は某水墨画会の正会員の方である。

よく知らないが、しっかりと教わるには良さそうだ。

しかも最後に蕎麦と酒というご褒美があるのも嬉しい。

 

そして、なんとアシスタントを務める蕎麦屋の女将さんもそちらの正会員とのこと。

そういえば女将さん、水墨画の勉強をしてるみたいなこと、前に言ってたな……。

すでに「正会員」とは驚いた。

 

いつもiPadに筆ペンツールで漫画を描いているものの、実のところ真面目に水墨画を描いたことが無い。

こう言ったら怒られそうだが、ある意味Apple Pencilまかせに「こんなかな〜?」と描いているだけなのだ。

この機会に、ちゃんと描き方を教わろうではないか。

 

 

お蕎麦屋さんの定休日の夜、僕たちはお店に集まった。

他の生徒さんにはどんな人がいるんだろうと、おずおずと周りを見回してみると、少し若めの大人な女性が4人。 おや、僕だけ白一点だ。

こういう場には、男と女で微妙に違う空気が流れている。

若干気恥ずかしいが、こういう時は無理にでも平然としているしかない——。

打ち解けるには、やっぱりお酒の力を借りるしかないのかもしれない。

 

気がつくと、すでに瓶ビールの栓が抜かれ、皆さんちょっとずつ飲み始めている。

女将さんからもビールをすすめられたが、最初から飲んでしまっては、水墨画ならぬ「酔」墨画になってしまう。 その上、僕は日本酒党だ。 やっぱり楽しみは最後に残しておきたい。

 

 

さて、水墨画を描く段になる。

テーブルの上には、すでに準備が整っている。

目の前にはしっかり使いこなされた筆が2本。

プラスチックカップには墨汁と水が用意されている。

 

今回のお題は「竹」である。

水墨画の基本的な描き方を学べるので、初心者にはちょうど良い題材らしい。

 

竹の描き方だが、水を含ませた筆の穂先3分の1ほどに墨汁をつけると、自然にグラデーションができる。 それを半紙にグッと押しつけ、すっと引いて、最後にグッと押さえてスッと離す——あら不思議、竹の節と稈(かん)が出来上がった。 そして、墨を足さずに描き続けることで、後から書いた部分が自然に薄くなり、遠近感が生まれる。

細い筆で節の両側に横長の「い」の字を入れれば陰影が出来、そこから枝を伸ばし、枝先に筆をすっと走らせて、3枚並べて描けばそれなりに笹の葉になる。

 

——と、以上が先生のお手本。

 

 

「さあ、描いてみましょう」

 

生徒みんなで半紙の上で竹を描く練習を開始する……が、結構難しい。

みんなお酒のことなど忘れて、線を引く作業に没頭する。

筆の水分が多過ぎると変に滲んだり、墨が多過ぎると真っ黒になってグラデーションが出なくなったり、一定の力で筆を引かないと線がガタついたり、一本線を引くだけなのに七転八倒——。

ようやくなんとか竹らしいものが描けたが、一部かすれてしまった部分に追加で筆を重ねようとすると、先生に止められた。 大阪串カツの「二度づけ禁止」ルールさながら、日本の水墨画では「二度描き禁止」であるらしい。

 

先生は外国人にも水墨画を教えているとのこと。 ただ、インバウンドの外国人の中にはそんなことは気にしない人も多く、器用にチョイチョイッと二度描きして、上手く修正する人もいるようだ。

先生の方も「楽しんでくれたらそれが一番」ということで、必要以上に厳しくは言わないようにされているらしい。

 

でも、基本は「一筆入魂」なのだ。

デジタルだったらいくらでもやり直しが効くんだけどね。

 

今度は竹の節から伸びる枝と葉を描く。

これは笹の葉を描く場所も難しい。

大きめの笹の葉を描こうとするのだが、稈との関係上、「ありえそう」な場所ってどこなのか——。 悩みつつ「えいっ」と筆を入れる……。 うーん。 笹というより、妖怪の舌が3枚出来た。 今度は小さい筆で枝を追加するが、さっきの笹の葉と上手く噛み合わない——。

 

そうこうしているうちに、「それでは清書に行きましょう」という時間になってしまった。

 

これまでの試行錯誤を踏まえて、清書用のカレンダー(挿絵を自由に描けるようになっている)に向き合う。 練習してきた半紙とはまた違う、ざらついた紙の感覚である。

稈は——上手く描けた。 練習の半紙では出なかった偶然のざらつきのお陰でなんとなくイイ感じのかすれが出た。 (おおっ意外と出来るじゃん俺。ニヤリ)

まあ、こういうのは、狙っても出ないのかもしれない。

問題は、笹の葉……。 「えいっ」——(ガーン)妖怪の三本指が出来た(しくしく)。

あーもう、枝はまとめにかかろう。 まあ、それなりかな……。

このままだと悔しすぎる。 ちょっと後ろの方に薄く竹林を描いて遠近感を出すか——。

 

 

練習含め2時間ほど掛けて描いた水墨画を肴に、みんなで乾杯しつつワイワイと健闘を称え合った。 自分としては残念な部分も多かったが、参加者同士良いところを見つけ合いながら、「味がある」などと褒め合う。 結構楽しい。

話を聞くと、大方の女性はお仕事をされている若奥様方のようだ。

 

先生も談笑に加わり、件の外国人水墨画教室事情を教えてくれた。

今度イタリアにも教えに行くそうだ。

 

しばらく経つと女将さんが新しい日本酒を開けてくれた。

奥様方も日本酒に移行する。

1升瓶をみんなで空けそうな勢いだ——いや、空けた。

 

そして、シメの蕎麦をみんなですする。

出汁が体に沁み渡りホッとする。

 

 

全てがアナログな体験で、「ああ、人間だなあ」としみじみ思った。

 

生成AIなら、ものの数秒で僕なんかよりも遥かに上手な水墨画を生成してくれる。

 

でも、人間には余白というか無駄がある。

上手くもない線に「味がある」などと言い合って、なんとなく満足している。

人間なんて無駄の塊のようなものだ。

でも、それが良い。

無駄なことで美味い酒が飲めるんだから。

 

きっと描いて出来た成果物よりも、描く過程に大事なものがあるんだろうな。

 

 

さて、次回のお題は鮎とか金魚などの「魚」になるそうだ。 

今度こそ満足のいくものが描けるだろうか。

 

でも、まあ、人間らしい「不完全さ」を「味」と言い換えつつ、ちょっとだけ成長したお互いを褒め合いながら飲む酒は、きっとまた美味しいのだろう。

 

《終わり》

 

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