誇り高き戦士の「鎧」を解く〜大人婚活コーチが見た、男というプライドの生き物〜《週刊READING LIFE Vol.358「誇り高き戦士」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:マーガレット佐々木(2026年5月開講 新・ライターズ倶楽部 )
「武士は食わねど高楊枝」という言葉がある。腹が減っていても、楊枝をくわえて満腹のふりをする。貧しくても気位だけは失わない。そんな武士の矜持を表したことわざだ。これは「誇り高き戦士」として生きている現代の男性にもそのままあてはまる。
男性も50代になればスマートに女性をエスコートできて普通である。どんな女性にも話を合わせられ、レディファーストも心得ている。これが50歳で自身の婚活を始めたばかりの頃、私が50代男性に抱いていたイメージだった。しかし好印象を抱いた女性の前では、うまく話せない。気の利いた言葉が出てこない。それでも「俺は余裕がある」という顔だけはしている。それが男性たちの実情らしかった。
「誇り高き戦士」私は彼らをそう呼んでいる。年齢は行っていても、お腹の中は不安でいっぱい。
私は、女性専門の大人婚活コーチとして活動しているが、自身も50歳で離婚後7年の婚活期間を経て57歳で再婚に至るまで様々な男性に会ってきた。このコラムでは、そんな経験から見えてきた男性たちの心の内側と、その攻略法をお伝えしていこうと思う。
第一章 なぜ男性は、こうなるのか
私の元夫の話をしよう。
私が26歳のとき、30歳の彼と結婚した。当時の彼はいわゆる「三高」、高学歴・高収入・高身長を揃えた、世間が言うところの優良物件だった。顔の造作は多少不細工ではあったが、結婚適齢期である。モテないはずがない。実際、英会話教室やサークルの同窓会等で、何度となく女性から告白されていたらしい。
ところが彼は、30歳にして私が初めての女性だった。結婚してしばらく経ち、そのことを知った私は正直驚いたが、さもありなんとは思った。そう感じた理由は、アナタが今、想像した通りで合っているだろう。
でも、もっと驚いたのはその理由だった。
告白してくる女性たちを、彼ははぐらかし、時には気づかぬふりさえして逃げてきたというのだ。20代の男性に女性への好奇心がないはずもない。ただ、プライドが邪魔をした。女性の前で格好悪いところを見せたくない。そういう気持ちが、幾多の据え膳をも退けてきたのだ。
しかしそれだけではなかった。彼には、エリートとしての悲しいまでの自負があった。
この女性とは、結婚を前提に付き合えるだろうか。結婚の意思なく付き合うことは、男として無責任だという信念があったので、目の前の女性は常に「地雷」だった。うかつに近づけば、いつ足元をすくわれるかわからない。交際すれば責任が生じるが、結婚できるかどうかはわからない。結婚するなら、あわよくば逆玉。自分の人生にプラスになる女性がいい。だから尚更、動けなかった。
良いと思われたままでいたい、というプライド。責任を取れる男でありたい、というプライド。ふたつのプライドが、女性と付き合うチャンスそのものを遠ざけてしまう皮肉。
これは、何も私の元夫だけの話ではない。
男の子は小さいころから言われ続ける。「泣くな」「弱音を吐くな」「男らしくしろ」。好きな子に素直に「好き」と言えば笑われる。そういう環境の中で育った男性が、感情を外に出すことを苦手とするのはごく自然なことだ。「男は背中で語る」という文化も存在する。言葉より行動、感情より結果。だから婚活の場で「どんな女性がタイプですか?」と聞かれても、うまく答えられない。自分の気持ちを言語化する訓練を、ほとんどしてこなかったのだ。
さらにやっかいなのが、承認欲求と自尊心の複雑な絡み合いである。男性は「認められたい」という気持ちが強いが「認めてほしい」と口に出すことは、プライドが許さない。この矛盾の中で多くの男性がもがいている。男というものは、年齢に関係なくすべからく自信がない。好かれたいより先に「嫌われたくない」が優先する。そして「褒めてほしい」のだ。
これが「誇り高き戦士」の正体である。
第二章 婚活における「症状」あるある
誇り高き戦士の症状は、突き詰めると二つの感情から生まれている。①嫌われたくない、と②認めてほしい、だ。この二つが複雑に絡み合いながら、婚活の場でさまざまな形をとって現れる。
その①「嫌われたくない」が生む症状
気になる相手からLINEが来た。読んだ。でも返せない。なんと返せばいいかわからない。気の利いたことを言いたいのに、言葉が出てこない。そうこうするうちに時間が経って、今さら返しにくくなってしまう。気のない相手にはすぐ返せる。気楽だからだ。でも気になる相手には、うまく見せたい。変なことを言って嫌われたくない。だから止まってしまう。既読無視の正体は、無関心ではなく、こうした過剰な緊張であることが少なくない。
誘えない、も同じ根っこだ。「また会いたい」と思っていても、断られるのが怖くて一歩が踏み出せない。「断られた自分」を直視できないから「また連絡するね」という言葉を残したまま、次の一手を打てず、何もせずに放置する結果となる。
そして、質問しない。婚活の場でよく聞く女性の不満に、「彼は私のことを何も質問しない」というものがある。女性はそう感じた途端「私に興味がないのね」という理由で、お断りモードに入ってしまう。でもこれ、男性にとってはむしろ逆なのだ。失礼な質問をして嫌われたくない。プライベートに踏み込みすぎたら引かれるかもしれない。だから質問できない。でも沈黙も怖い。結果として、自分の話で場を埋めてしまう。これが、次の症状につながっていく。
その②「認めてほしい」が生む症状
質問できない代わりに、男性は自分語りを始める。仕事の話、実績の話、自分がいかに有能であるかの話。雄弁に、時に止まらないほど語る。褒めてほしいのだ。すごいと言ってほしいのだ。弱みを見せられない、も同じ感情から来ている。仕事がうまくいっていなくても、将来に不安があっても、口にできない。だから強い自分、有能な自分だけを見せようとする。
そうした男性を、女性は「自分大好き星人ね」と感じるだけだ。認められたい、弱みを見せられない、それだけなのに「自慢しぃ」というレッテルを貼られ、葬られる。
「嫌われたくない」も「認めてほしい」のどちらも、突き詰めれば同じ場所から来ている。
自信のなさ、だ。プライドとは、自信のなさを隠すための鎧なのかもしれない。だから婚活の場では、その鎧がかえって邪魔をする。次の章では、その鎧をそっと脱がせるための具体的なコツをお伝えしよう。
第三章 誇り高き戦士を陥落させる、5つのコツ
鎧を力ずくで剥がそうとしても、戦士は応じない。「もっと素直になってよ」と正面から言っても逆効果だ。必要なのは攻略ではなく、誘導だ。彼自身が「鎧を脱いでもいい」と思える場所を、こちらが作ってあげること。そのための5つのコツをお伝えしよう。
コツその①「持ち上げて、動かす」
コツは「認めながら、動かす」ことだ。「貴方のこういうところがすごいと思う。だから○○だって、きっとできると思うわ」という順番で、まず認めていることを伝える。誇り高き戦士も、その能力を既に認めてくれている相手の前では、その有能さを再度証明する必要がない。だから認めた上で、動いてほしい方向にそっと誘導する。褒めることは、媚びることではない。相手の鎧をそっと緩める、技術である。
コツその➁「アナタの弱みを、先に見せる」
誇り高き戦士に「弱みを見せていいのよ」と伝えても、できない。それより、アナタから先に弱みを見せることだ。「私、実はものすごい方向音痴なの」等と、先に開示する。もちろん深刻な打ち明け話ではなく、クスっと笑える程度にとどめておくことが大切である。すると相手も、少しずつ心を開いていく。これは心理学でいう「自己開示の返報性」だ。アナタに自己開示された男性は、アナタを「守るべき存在」と認識し、そっと「俺も実は……」と返してくれるようになる。その瞬間が、戦士の鎧が初めて緩んだサインだ。
コツその③「アナタの取説を渡す」
誇り高き戦士は、間違えることができない。つまり大きな決断が苦手だ。「付き合いませんか」という直球に「はい」と即答できる男性が少ないのもこのためである。だから、スモールstepで彼がYesを出せるように「また会いたいな」とだけ言ってみる。「会いましょう」と誘ってはいけない。「あの映画、一緒に観たいのよね」「彼ができたら、こんなデートをしてみたかったの」とさりげなくアナタの取説を渡し、彼が「そうしよう」と簡単に決断できる程度の、小さな一歩を積み重ねる。どう喜ばせたらよいか「分かりやすい」女性と居ると、戦士は安心するのだ。「この人のことは、自分が幸せにできる」という感覚が積み重なって初めて自信が湧き、心が動く。大きな扉を一気に開けようとせず、階段を一歩ずつ上がるイメージだ。
コツその④「沈黙を、埋めない」
誇り高き戦士は、自分から「好きだ」「会いたい」と言い出せない。そこで女性が不安になって先に沈黙を埋めてしまうと、彼は永遠に言わなくて済む状態になる。あえて待つ。これが大切だ。沈黙は空白ではない。彼が自分から動くための余白だ。その余白を、こちらから埋めてしまわないこと。彼の決断を「待てる」女性は、強い。そして彼を急かさない、そうした強さが戦士の中の何かを揺さぶる。
コツその⑤「彼の〝守るべき〟女性になる」
誇り高き戦士は、守るべき相手がいると燃える。ただ従順なだけの女性ではなく「私はこういう人生を歩みたい」「これだけは譲れない」という芯を、ちゃんと見せること。「彼女のために戦いたい」「彼女が幸せだと感じられる環境を守りたい」と思わせることが、戦士を動かす最後の一押しになる。
50代からの大人世代の婚活では特に、このアナタの「芯」がカギになる。「私はこう生きたい」という言葉には、若い女性のわがままとはまるで異なる重みと魅力がある。それこそが、誇り高い戦士の心を動かす最大の武器になるのだ。
5つのコツに共通しているのは、こちらが「勝とうとしない」ことだ。力ずくや脅しで、戦士は動かない。認めて、開示して、待って、芯を見せる。その積み重ねが、やがて戦士の鎧を内側から溶かしていく。
第四章 なぜこのアプローチが効くのか
5つのコツを読んで、「何だか遠回りだな」と感じたかもしれない。なぜこんなに手間をかけなければならないのか。その答えは、誇り高き戦士の心の構造にある。
「承認→安心→開示」という回路
人が心を開くには、順番がある。まず、認められること。次に、安心すること。そして初めて、自分を開示できる。誇り高き戦士は、この回路が特に繊細にできている。最初の「承認」という燃料が入らなければ、エンジンはかからないのだ。だから「持ち上げて動かす」。次に「先に弱みを見せ」「取説を渡して」「待つ」。すべてのコツは、この回路を順番に動かすための手順である。
戦士は、折れ方を知らない
誇り高き戦士は、心を開く方法を誰にも教わってこなかった。「泣くな」「弱音を吐くな」と言われ続け、ある日突然「弱みを見せて」と言われても戸惑うばかり。鎧の脱ぎ方を知らないまま大人になってしまった戦士に脱ぎ方を教えることは、戦略というより道案内である。
50代だからこそ、効くアプローチ
20代・30代の恋愛では、このアプローチは難しい。若いころは自分自身もまだ他人を受け容れるより甘えたいだろう。相手の沈黙を待てるほどの余裕も、経験も、まだ持てないことが多い。
でも50代は違う。人生の荒波をくぐってきた年代だ。その経験が、ゆっくり待てる力に、先に弱みを見せられる度量になる。「私はこう生きたい」というぶれない芯になる。若さという武器の代わりに、懐の深さという武器が備わる。
誇り高き戦士が求めるのは、自分の「よき理解者」であり、一緒にいて安心できる人だ。その条件は、50代以上でなければ満たせないかも知れない。だから私は、クライアントの女性たちにいつもこう言う。「年齢は、武器になります」と。
おわりに 誇り高き戦士を陥落させる
プライドの高い男性は、一見面倒だ。褒めなければ動かない。自分から言い出せない。弱みを見せられない。そういう相手と向き合うのは骨が折れる。
私自身、元夫との結婚生活の中で、何度そう思ったかわからない。褒めていれば何でもしてくれると周りに言われていた夫。でも私だって褒められたかった。その不満が燻り続けて、やがて修復できないところまでいってしまった。だから正直に言う。誇り高き戦士と添い遂げるのは、簡単ではない。
あのころの私に足りなかったのは、このコラムに書いたような「知識」だったのかもしれない。元夫がなぜ褒めを必要としたのか。なぜ弱みを見せられなかったのか。当時の私はそのメカニズムを知らなかった。夫を理解しようとする以前に、「なぜ私をわかってくれないの」と消耗していくだけだった。
このコラムを読んでいる方の多くは、おそらく一度は誰かと真剣に向き合い、傷ついた経験をお持ちだろう。だからこそ、かつての私のように消耗してほしくない。仕組みを知ることで、力ではなく智恵で戦士を動かせる。そして、誇り高き戦士は、一度心を開いた相手に、深く誠実だ。負け戦ができない性分から用意周到であり、信念には忠実。だから一旦信じた相手への思いは本物だ。そんな戦士の、良き理解者になれる懐の深さ。それが50代からの女性たちの持つ、本当の強みだと私は思っている。
武士は食わねど高楊枝。そのプライドを、そっと受け止めてあげられる女性が、誇り高き戦士の隣に立てる人だ。さあ、アナタの隣の戦士に、少しだけ優しく声をかけてみてほしい。
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