大阪のおばちゃん方式INインド
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: みちよ(ライティングゼミ名古屋会場)
1通のインビテーションがラインに届いた。
インド人である友人が、結婚式を行うから来てほしいという。
彼は、9年前に、我が家にホームステイした男性だ。
そこには、マハラジャの映画みたく、ギラギラした衣装の友人とその奥様となる女性の写真があった。
インドの結婚式は、何百人もの人が集まると聞く。
きっと、インドの結婚式に参加するのは、一生に一度だろう。
そこで私は考えた。
招待されたこの機会を、ただ「楽しませてもらう側」で終わりたくない。
裏で私も、こっそりと作り手の一人になりたい。
だから私は、攻めることにした。
私は、「なるべく多くのインド人と話す」という目標を立てた。
わたしも集まったインド人たちを、もてなすのだ。
思いついた作戦は、大阪のおばちゃん方式である。
飴を100個買った。
輪切りのパイナップルを模した「パイン飴」だ。
これなら一目見てパイン味の飴だとわかるだろう。
「Nice To Meet you From Japan」と書いたシールを、一つ一つ貼った。
そして、それらを、結婚式に持ち歩いていてもおかしくないよう、少しフォーマルな黒いきんちゃくに詰めた。
準備は万端だった。
用意したのは、飴だけではない。
新郎との関係をわかってもらうため、
手のひらサイズの写真集を作った。
娘がまだ1歳だった頃の写真。
一緒にたこ焼きを焼く写真。
神社の餅投げで笑っている写真。
陶芸に挑戦した写真。
その後も節目ごとに再会していたので、気付けば一冊の写真集には、彼との思い出だけでなく、娘の成長まで写っていた。
そして最後に、とっておきの一言が言える。
「この写真の子が、この子です。」
それから、
「彼は日本に留学していた時、私の家にホームステイをしました。」
「彼は私の子どもたちに、とても優しく接してくれました。」
「私は、この結婚式に招待してもらえて、とても嬉しいです。」
こんな言葉を英語でなんて言うかを、ずらりと並べたカンペを作った。
飛行機の中では、それを何度もぶつぶつ唱えた。
そして結婚式の2日前。身内だけの神社での行事に参加するため、インド入りした。
ここは、絶好の予行演習である。
さっそく、親族に飴を配る。
写真集を見せる。
反応は上々だった。
みんな笑顔で飴を受け取り、写真集も一ページずつ丁寧に見てくれた。
よしよし。
さらに、飛行機の中で何度も練習した英語も使ってみる。
「結婚式の準備は大変だったんじゃないですか?」
ここだ、というタイミングで新郎のご両親に話しかけると、返ってきた言葉の中に「エイトハンドレット」が聞こえた。
ん?
エイトハンドレット?
……800?
あさっての結婚式の招待客は、800人らしい。
え……。
飴、全然足らんやん。
そして迎えた結婚式当日。
衣装は浴衣にした。
From Japanをアピールせねば。
まずは紹介された従妹や友人に飴を渡した。
滑り出しは順調だった。
いける。
そう思った。
しかし、問題はここからだった。
全く紹介もされていない、たまたま居合わせたインド人に突撃して飴を渡す。
これは、思った以上に勇気がいる。
しかも、別の問題が発生した。
みんなが着ているサリーには、ポケットらしきものがない。
日本人のように、小さなバッグを持っている人もいない。
基本、手ぶらなのだ。
……待て。
飴を渡したとして、どこに入れるのだ?
受け取った相手を困らせるのではないか?
そう思うと、私は大いに逡巡した。
しかし、ここで日和ってはいけない。
せっかく日本から持ってきた飴を、全部抱えたまま帰国するなんて、あまりにも悲しい。
私は勇気を振り絞った。
ちなみに、現地の言葉はマラヤラム語である。
滞在中に新郎の親戚から教えてもらった、この二つの言葉を使うことにした。
「ナッラスワド(おいしい)」
「ナンニ(ありがとう)」
以上。
私の持ち札は、この二枚だけである。
これらを駆使して突進するのだ。
手のひらに飴を乗せて差し出し、
「ナッラスワド!」
と言う。
すると、相手の顔がぱっと輝いた。
何かを言いながら、周囲の人と何やら言葉を交わす。
指をさされる。
たぶん、
「この日本人、マラヤラム語しゃべった!」
と言っているのだと思う。
気付けば、私の周りにはインド人が集まっていた。
「あなたは一体誰なの?」
と言っている(たぶん)。
そこで私は、満を持して写真集を取り出す。
新郎との関係を説明する。「ホームステイ、ホームステイ」
そして、「この写真の赤ちゃんが、この子です!」
と10歳の娘を指差す。
そして最後に、
「ナンニ~! (ありがとう)」
といって沸かせる。
これで、ワンセットである。
このパターンを確立したわたしは、インド人の輪を観察して
切り込むすきがあると判断すると突進して、これを行った。
中には、名前や職業を尋ねられたり、
「一緒に写真を撮ろう」と、囲まれて写真を撮ったりすることもあった。
そんな私に、娘はにやにやしながら「ママ、人気だねえ」と言った。
中には、
小さな子供に飴をあげたら、その子のお姉さんであろう少し大きな子が、
不審な顔をして返しに来たこともあったが、
それはそれで、危機管理のしっかりした子だと頷いて見送った。
また、知り合いに「この日本人が飴くれるよ」と、
呼び込みをしてくれる人も現れたりして、
気づけば、私のところには知らない人まで笑顔で近づいてくるようになっていた。
結果的に大盛況のうちに飴はソールドアウトとなった。
やりきった―――
わたしは、100人のインド人に、
「あの結婚式に、謎の日本人がいたな~」と、
印象を残せたのだ。
ちなみに、新郎新婦は、それを知らない。
それで、いい。
「今日はあなたの人生で一番大切なイベントの日です」
箇条書きにしていった英語をつぶやく。
わたしは、その中の小さな隠れキャラ。
ほくそ笑んで、そしてあらためて、新郎新婦に駆け寄って、言う。
「コングラッチュレイション!」
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