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23歳の宣戦布告、‘誇り高き戦士’の遺伝子。今、母から娘へ《週刊READING LIFE Vol.358「誇り高き戦士」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:藤原 宏輝(READING LIFE編LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

第1章:逆算のライフプラン

「私、30歳までに子どもが3人欲しいんです。最近、周りのお友達もみんなそう言っています」

ご新婦様がそう嬉しそうに話し、その言葉に幸せそうに耳を傾けているご新郎様。

お2人の笑顔を見ながら、担当プランナーと私は温かい気持ちになった。

2025年夏。

来年2026年、秋挙式のお申し込み。

「自分たちの人生、しっかり計画しなきゃ! って、思ってて」

ご新婦様の言葉を聞いた時、私は思わず手に持っていたペンを止めた。カチリ、という小さな音が、午後の静かな打ち合わせサロンに不自然に響く。

目の前に座っているのは、白いブラウスに淡いベージュのカーディガン。ふわりとした柔らかな空気をまとった、どこにでもいる「おっとりした女の子」という印象だった。

第一印象からは想像もつかないような、強い意思の表れ。

そう、これは‘23歳の宣戦布告’だ。

 

その日から2ヶ月、お申し込みから1回目の打ち合わせの時。

「あれからずっと、考えていたんです。逆算して、人生をしっかり主人と歩んで行くには、どうしたらいいのか? を」

「逆算、ですか?」

私は問い返した。

「はい。私は今23歳で主人は25歳だから、私が49歳で主人が51歳になるまでには子どもを全員成人させたくて」

さらりと言った。来週のランチの予定を話すような、あまりにも自然な口調で。

私は一瞬、返すべき言葉を探した。すると少し誇らしげに、ご新婦様は

「実は妊娠したんです。いよいよこれで私たち家族の人生がスタートした! って感じで、なんだか嬉しくて」

ご新婦様は妊娠3ヶ月。まだ目立たないお腹を、壊れ物を扱うように優しく撫でながら、真っ直ぐ前を見ていた。その瞳は、おっとりした外見とは裏腹に、驚くほど澄んでいて、強い。

 

ブライダルプロデューサーとして26年。数えきれないほどのご新婦様に出会ってきた。

理想のドレス、映える演出を、ゲストへの感謝、サプライズなど……。

どれも素晴らしい願いだ。

けれど、23歳の彼女が見ている景色は結婚式という‘点’ではなく、その先の人生をしっかりと見据えた‘線’だった。

「なぜ、49歳なんですか?」

「私が50歳になった時には、主人と2人でその先の人生を、また仲良く楽しみたいんです」

ご新婦様は少しだけはにかんで、横に座るご新郎様を見た。

ご新郎様は少し圧倒されたような、それでいて誇らしげな顔でご新婦様を見つめた後、

「結婚式を来年の秋にしていましたが、できれば年明け早々に繰り上げられますか?」

と言った。そのひと言に慌てて、担当プランナーは対応する。

 

「旅行もしたいし、ゴルフもしたい。子どもたちが巣立ったあと、私たちは私たちの“第二の人生”を始めたい。そのためには、今からの時間をどう使うか? がとっても大事なんです」

23歳の女の子の口から、“第二の人生”なんて言葉が出ると思わなかった。

私は心の中で、小さく、けれど深く息を飲んだ。

「この子、強い」

可愛いとか、しっかりしているとか、そんなありふれた言葉では到底足りない。ご新婦様は今、自分の人生を誰の手にも委ねず、自分の足で“選びにいっている”のだ。

そして、2026年2月になんとか会場に空きがあり、ご新郎・ご新婦様のご希望通り結婚式を前倒しにできた。

 

「結婚って、幸せにしてもらうってことじゃないですよね。私は、家族みんなで一緒に戦うことだと思ってます。社会とも、生活とも、自分自身とも」

その瞬間だった。私は彼女の中に‘誇り高き戦士’の姿を見た。

そして、その瞳の奥に宿る光に私は見覚えがあった。

24年前のこと。

私がまだ若く、起業3年目に入ってすぐの頃に出会った、あの光だ。

 

 

第2章:24年前の種

私のキャリアは26年。

まだこの業界が「華やかさ」だけを追い求めていた時代に始まった。

当時の結婚式は、今よりもずっと形式的で、家同士の結びつきが強かった。「嫁ぐ・嫁入り」という言葉が重くのしかかり、結納や花嫁の荷入れなど女性たちは自分の希望よりも、婚家の意向や親の顔色を窺うことが美徳とされていた。

「私……、本当はもっと自由な結婚式にしたかったんです」

打ち合わせの帰り際、エレベーターの前で、あるご新婦様が消え入りそうな声で漏らしたのを今でも覚えている。彼女は悔しそうに笑いながら、でも諦めたように目を伏せた。

そんな人たちが、少しずつ目立ってきた頃。

華やかさや家の繋がりに重きを置いていた時代の中で、一際異彩を放っていた一人の女性がいた。

24年前。目の前にいる23歳ご新婦様のお母様だ。

「私、妊娠してて。親は恥ずかしいって言うし、挙げ句の果てに結婚まで反対してきて。でも私は、この子が自慢出来るような逃げない母親になりたいんです。」

当時22歳だったお母様は、今の娘さんと瓜二つの顔で、けれど少しだけ不安を滲ませながら私に言った。

「仕事も続けたい。でも周りは『子どもができたら辞めるのが当たり前』と言う。夫も仕事で忙しい。育児も実家が遠くて頼れない、孤独になるかもしれない。でも、私はこの子が大きくなったとき、自慢できる背中を見せていたいんです」

あの時私はまだ駆け出しで、彼女の言葉にどう答えていいか分からなかった。ただ、震える手でメモを取りながら、

「一緒に作りましょう、その背中を見せるための結婚式を」

と精一杯答えることしかできなかった。

 

24年前、お母様が蒔いた‘覚悟’という名の種。

それは、決して楽な道のりではなかったはずだ。仕事と育児の板挟み、社会の冷たい視線、家庭内での葛藤。お母様は文字通り、戦ってきたのだろう。

そして今、その種が目の前の娘さんの中で、これ以上ないほど気高く花開いている。

「お母さん、ずっと働いてたんです」

ご新婦様が子供の頃をなぞるように話し始めた。

「父が仕事で家にいない夜も、お母さんは絶対に弱音を吐かなかった。私が熱を出して心細い時も、仕事から帰ってきたお母さんの手はいつも温かくて、強かった。私、そんなお母さんを見て育ったから、今度は私が戦う番だなって」

私はご新婦様の言葉に、胸が熱くなるのを抑えられなかった。

私が積み上げてきた26年という歳月。それは単に結婚式をプロデュースしてきた時間ではない。こうして、命と覚悟が繋がっていく瞬間を、一番近くで見守るための特等席にいる。

 

 

第3章:戦地としての結婚式

結婚式の10日前の深夜23時、スマホが震えた。画面には、23歳のご新婦様のお名前が表示された。

「私、もう無理かもしれない」

ご新婦様は泣いていた。妊娠中という事もあり、いつも以上に体調に異変があったり、些細な価値観のズレやご親族様からのプレッシャーで、心が揺れる。

積み重なったストレスが爆発したのだ。

ブライダルの現場は、外から見ればキラキラとした魔法の国かもしれない。けれど、その内側は感情の最前線、まさに‘戦地’のようなもの。

まずは、ご新婦様の話をゆっくり聞いた。そして、少し落ち着いたかな? と思った頃を見計らいながら、私は静かに聞いた。

「本当は、どうしたいのかな?」

「本当はこのまま、主人とお腹の赤ちゃんと家族仲良く生きていきたい」

「なら、逃げないで向き合おう。これはあなたがこれから戦士になるための最初の試練かもしれないよ」

私はどんな時も、こうして深夜までご新婦様たちの言葉を受け止め続けた。

なぜそこまでやるのか?

と聞かれれば、答えは1つしかない。迷い、泣き、それでも‘自分で決める’

その瞬間の女性たちが、あまりにも美しいからだ。

 

23歳のご新婦様との打ち合わせは、その後も決して平坦ではなかった。

‘49歳までのライフプラン’を現実にするためには、資金計画、キャリアの継続、親族への説明など、乗り越えるべき壁がいくつもあった。

「大変だよ? その計画を貫くのは」

私がわざと厳しく言うと、ご新婦様は「ふふ」と笑った。

「知ってます。お母さんをずっとそばで見てきたから。でも、戦わずに手に入る幸せなんてつまんないし、きっとすぐに指の間からこぼれちゃう感じだから」

その強さは、どこまでも潔かった。

 

 

第4章:誇り高き戦士の凱旋

結婚式当日。チャペルには、2月の柔らかな光が降り注いでいた。

真っ白で綿菓子のようにフワフワのウエディングドレスを纏ったご新婦様。その横には、24年という歳月を駆け抜けてきた‘誇り高き戦士’お母様が立っていた。

ベールダウンの儀式。

お母様はベールを下ろす直前、娘のお腹に視線を落とした。

24年前の不安と覚悟を抱えながら、そこにいたご自身の記憶が一瞬で蘇ったのかもしれない。ベールを優しくゆっくり下ろす。

その目には涙をいっぱい溜めて、手が少しだけ震えていた。

「幸せになりなさい」

お母様が小さな声で言った。

「ううん、私がみんなを幸せにするよ。もちろん、自分もね」

ご新婦様が答えた。

お2人の間に流れた空気は、母娘という甘い関係を超えて、同じ戦場を生き抜いてきた、そしてこれから生き抜いていく、戦友のようにも見えた。

 

披露宴の終盤。花嫁の手紙。

彼女は便箋を広げ、深く息を吸った。

「お父さん、お母さん。今までありがとうございました。私を22歳の若さで産んでくれたお母さん、ここまで育ててくれて、どんな時も私の味方でいてくれて本当にありがとう」

会場のあちこちから、すすり泣きが漏れる。

「私はもうすぐ、お母さんと同じように母になります。これまで私に見せてくれたお母さんの背中はいつもカッコ良かったよ。私にとって戦士のようでした。

お父さんはいつも仕事が忙しくて、帰りが遅かった。けど、お母さん1人で私と弟を守ってくれた夜もあったね。どれだけ仕事で疲れていても、朝には笑ってお弁当を毎日作ってくれたね、私はそんなお母さんのようになりたいです。

産まれてくるこの子を主人と一緒に守り、周りや自分自身と戦い続けて、幸せになります」

愛する娘を会場の一番後ろのお席から、じーっと見つめるお母様の顔を見ると、涙を堪え、唇を噛み締めながら、でもどこか誇らしげに頷いている。

 

その瞬間、24年前のあの日と今日が一本の太い線で繋がった。

あの日、不安に震えながら「自慢出来るような、逃げない母親になりたいんです」と言った、22歳の少女は見事にその願いを叶えたのだ。

娘に戦士と呼ばれ、その背中を目標にされるという、最高の勲章を手にして。

 

 

第5章:戦い続けることは、愛し続けること

ご披露宴がおひらきになり、ゲストを送り出した後の静かなロビー。

お母様が私の元へ歩み寄ってきた。

「まさか、こうして娘の結婚式までお願いできる日が来るなんて。

24年前のあの日、『子供が自慢出来るような、逃げない母親になりたいんです』って言ったこと、今でも覚えてるんです。私は戦士になれていましたかね?」

私は涙が溢れるのを堪えて、満面の笑みで答えた。

「それ、さっきの娘さんの手紙が一番の答えじゃないですか。私こそ、24年前の答え合わせをさせてもらって、ありがとうございます」

お母様と2人で、思わずハグして泣きながら笑った。

 

母娘二代の花嫁。

‘誇り高き戦士’の遺伝子は確実に受け継がれていた。命と覚悟が繋がっていく瞬間を、今日も一番近くで見守り、未来に向けて送り出した。

私が、心から幸せだと感じる瞬間。これが、この仕事を辞められない理由。

 

26年間、たくさんのご新郎・ご新婦様を見送ってきた。

時代は変わり、結婚の形も変わった。けれど、本質は何も変わらない。

誰かを守りたいという想い。愛する人のために覚悟を決める強さ。そして、人生から逃げずに戦う姿。

今日もどこかで、女性たちは戦っている。

仕事、育児、家族、孤独、不安、社会、そして自分自身の弱さと。

その姿を「大変そう」と憐れむのは大きな間違いだ。

彼女たちは、自らの意志で戦場に立ち、誇りを持って生きているのだから。

 

結婚式はゴールではない。

戦士たちが、新しい人生というフィールドへ向かうための壮行会のようなものだ。

すべての、誇り高き戦士たちへ。

愛することは、守ること。

守ることは、戦うこと。

戦うということは、決して勝ち負けだけではなく、愛する人たちと共に勝つということ。

私はこれからも‘誇り高き戦士’たちの背中をそっと押し続ける。

 

 

 

【終わり】

 

❒ライタープロフィール

藤原宏輝(ふじわら こうき)『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』

愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年以上携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。思い立ったら世界中どこまでも行き、知らない事はどんどん知ってみたい。好奇心旺盛で、即行動をする。

何があっても、今を全力で生きる。切り替えが早く、とにかく前向き。

これまでのブライダル業務の経験を活かして、次の世代に、未来に何を繋げていけるのか? 

といつも模索しています。2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。

 

 

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