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たくさんの分岐点のその先に《週刊READING LIFE Vol.359「あのとき、別の選択をしていたら」》


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:立野 亜美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

私は、今日も婚活会場にいた。

中心街にある、和テイストな居酒屋さん。下戸な私は、夜にこのお店を訪れたことはない。昼間の営業していない時間帯、この店は婚活会場となる。

店に入る前にふう、と深呼吸。

慣れてきた頃とはいえ、これから初めて会う人と最低でも10分は会話をしなければいけない。どうしたって緊張はしてしまう。

良い人と出会えるといいな、という期待と、出会えなかった時のガッカリ感を想像してしまい、ネガティブイメージを払拭させる。

自己紹介カードを書きながら待っていると、いつも通りスタッフの人から始まりの挨拶があった。

そして、目の前には男性が、かわるがわるやってきては、仕事や趣味、好きな食べ物、自己紹介カードで目に入ってきて気になった情報、など、差しさわりのない会話をしていく。

公務員、営業職、事務、工事監督、造船業、当たり前だけど世の中にはいろんな仕事をしている人がいるんだなぁと感じた。

この時間で会っただけで、すぐに好きになる人はいない。

なんかいいなと思った人と、その先も会う回数を重ねて判断していかなければならない。

この人と、結婚を考えられるか、どうか。

話しやすかったとか、食事や音楽の趣味が一緒、とか、顔や清潔感とか選ぶ基準はたくさんあるが、マッチングできるのはいつも一人。

一通り全員と話し終え、一番好印象だった人の番号をカードに書き、スタッフに渡すと、マッチング成立したカップルの番号を読み上げられる。

成立した男女は、男性が女性の元へ行き、そこから連絡先の交換となる。

運よく、私はそこに座っていて、お相手の方がいそいそとこちらにやってきた。

どうも~なんて軽く挨拶をしながら、また少し話し込み、連絡先を交換して一緒に店を出ていく。

相手の方には申し訳ないが、私はいつも感じていた。

私の選択は、これで正しかったのか、と。

 

婚活に意識が向いたのは、30代前半、コロナ禍のときだった。

友人や同僚が結婚、出産で順調にライフステージを進めていく中、私は20代前半に母を亡くし、家事をはじめとする家の仕事のことで手いっぱいになっていた。

周りとは逆のライフステージで進んでいるようだった。

それに加え、一人時間が好きで、買い物も映画も外食なども、一人で楽しめてしまう性格だった。

そもそも、学生時代からそんなに恋愛経験を重ねてきたタイプではなかった。

いつかは結婚したいという気持ちはあったものの、そういう性格もあって

「まあいい人に出会えたら」なんて気楽に考えていた。

それに、生きている時代もよかったのかもしれない。

結婚する、しないの選択の自由が数年前よりどんどん自由になっていた。

それでも親戚に会えば「結婚しないの?」と聞かれるのはお決まりだった。

「結婚しても幸せとは限らないんで」なんて答えては、ほとんど既婚者である親戚たちを黙らせてしまうくらい、その件に関してはなぜか強気メンタルを発揮し、叔母からは「いい人がいたらって答えておけばいいの」と窘められた。

今考えると幼稚だったのだが、田舎の保守的なオヤジたちに結婚がすべてと思うなよ、という反骨精神も、あった……のかもしれない。

独身で肩身が狭い気持ちもあったけれど、持ち前のマイペースさでのほほんと生きていた。

けれど、コロナはそんな私にも焦りをもたらした。

外出が規制され、家にいることを余儀なくされてしまった。

これでは、「いい人に出会う」きっかけすら、作れなくなる。

これは、マズイ。

このまま、のほほんと生きていたら一生出会いはないし、その出会うきっかけすら、未知なるウィルスに妨害されてしまう。

でも、結婚相談所やマッチングアプリ、婚活会場に足を運んで出会いを求めることには抵抗があった。

特にマッチングアプリは、ネットで知り合って出会うことに危険なイメージもあった。

自然に、たとえば職場とかで出会ってそのまま結婚するのが理想なんだけどな、と考えていたくらいなので、結局は私も保守的な考えに支配されていたのだ。

考えが変わったきっかけは、婚活コンサルに申し込んでからだった。

婚活について調べていくうちにたどり着いたその方は、同じ市内に住んでいたし実績もあった。

学ぶ金額は決して安くはなかったが、わたしは「えいやー‼」と清水の舞台から飛び降りる覚悟で(当時、清水寺に行ったこともなかったけど)そのコンサルの方のもとへ飛び込んだ。

その日から私は、毎週土日には出会いを求めて婚活会場へ足を運ぶ、という生活がはじまった。

コンサルは月一回の対面形式と、月一回のZOOMでやりとりがあった。

他にも婚活をしている受講者さんたちとも話をして、情報交換をしていく。

あんなに躊躇していた私がの婚活会場に行けたのもマッチングアプリを始められたのも、ここで一緒に活動してきた仲間たちがいたからだと思っている。

ただ、正直な話、このコンサルの先生には違和感もあった。

騙されたとか詐欺だったとかいう話ではなく、ただ人間として、私との相性の話。

話の仕方、言葉の選び方、仕草、そんなの言ってしまえばキリがないし完璧な人間はいないけれど、やっぱり、どこか空気間というか、受け付けない気持ちが私の中に芽生えていた。

仲間たちが次々に結果を出していく中、私は2年もいて、なかなか成果に結びつかない日々。

毎月のコンサルで会うたびに、またこの時間か、と嫌な気持ちが芽生えてくる。

次第に、結婚したいという純粋な気持ちから

「早く成果をだして、このコンサルからやめたい」という気持ちに変わっていった。

その本音にも気付かずに毎週土日には婚活会場に出向き、運よくお付き合いまで発展した男性がいた。

その方と出会ったとき、頭に雷が落ちたような衝撃があった。

年齢も職業も趣味も、性格も、それこそ今までであってきた人の中で一番、合うかもと感じていた。

デートを重ね、お互いを理解していく。

もともと婚活会場で出会っているので、この先に結婚があるのは共通認識だった。

けれど、日を重ねるごとに、ほんのちょっとしたその人のクセが、どうしても、嫌だった。

コンサルの人に相談しても理解は得られない。というか、私も自分でもそんなことに気にしていては、という気持ちもあった。

完璧な人なんて、この世にいないのだから。

そういったものと、折り合いをつけていかなければ。

そして、早く結婚して、このコンサルから辞めなければ。

 

あ。

 

私は、ようやく、自分の本音に気付いた。

不思議なことに、自分の本音に気付いてから、お相手の方から「別れたい」と連絡があった。

きっと、向こうもどことなく違和感をもっていたのだろうと思う。

私は彼の申し出を受け入れた。

相手の方の時間を奪ってしまった。私がもっと早く本音に気付いていたら、もしかしてもっと違う関係性を築けていたのかもしれない。

後悔と罪悪感で押しつぶされそうだった。

 

こうして私は、2年に及ぶ婚活とコンサルを、辞めた。

 

意外にも辞めたあとは清々しい、やりきった、という気持ちが強かった。

これで一生独身でも、私は婚活を経験してダメだったという実績がある。

それに、コロナによる規制もどんどんと緩くなっているときだった。

良い出会いがあれば、それでいいかとまたのほほんと考えていた。

そんなある日、これまで特に意識していなかった、職場の先輩がいた。

少し怖い印象のあったその先輩と、ふとした会話の時に、笑顔をこちらに向けてくれた。

その笑顔をみた瞬間、

ドスッッッと、深く私の心に矢が刺さった。

本当に、それくらいの衝撃でわたしはその人のことを好きになってしまったのだ。

よく漫画でありそうな、恋愛表現で見る、ハートの矢。

あれが刺さることが本当にあるとは思わなかった。

ただ、好きになってしまったと言っても向こうは私のことをただの同僚としてしか見ていない。

婚活に参加していたとはいえ、過去の恋愛でも、私は安全なところしかいかなかった。

安全な、というのは、なんとなく相手もこちらに好意があるかも。という状態。

そうじゃないと、付き合えなかった。

相手を落とすテクニックなんてもってない。

こんなことになるくらいなら、もっと学生の内から相手を落とすテクニックを磨くんだった。

と考えていた時、ふと、思い出した。

辞めた婚活コンサルの教えだ。

まず、磨くのは自分自身。

自分本位な考え方から、相手を喜ばせることを考える。

ネガティブに考えたら、ポジティブに捉えるクセをつける。

綺麗になれば、女性は自信がつく。自分を最高にするためにメイクやファッションを学ぶ。

私はもうコンサルは辞めたしその間に結婚も出来なかったけれど、あの2年間は無駄ではなかった。

それに、婚活で出会って人たちとはこんな風に好きになる人に出会えなかった。

というより、大人になってこんな恋愛に出会えたのが奇跡だ。

うまくいってもいかなかったとしても、この片思い期間を楽しめばいいか。

そんな考え方にシフトできた。

そこから、特に進展することもなく年度末になった。その先輩の人事異動が決まった。

もう会わなくなるかもしれない。それならば、ありったけの勇気を振り絞り、たまたま階段で二人になれたときに、私はその先輩に声をかけた。

「今度、ご飯一緒にいきませんか」

声がどんどん小さくなってしまった私に、先輩は耳を寄せてくれた。

「じゃああとで連絡先交換する?」

「ハイッ」

なぜか体育会系の元気のいい返事を返してしまった。

そこで、お互いにそれぞれの席へ別れてしまった。

でも、私は自席へ戻り、今までのやりとりを反芻しにやける顔を抑えるのに必死だった。

マスクがあってよかった。ほんとに。

冷静になり、ふと、気になった。

あとでって、いつだ?

私より業務量が多く忙しい先輩のことだ。

あとで、となっているうちにそのまま連絡先がわからないままになってしまうのでは?

いや、そもそも、食事自体断りにくいからあとで連絡先を交換する体で、そのまま流されるのでは?

私の不安予想はとまらない。

でも、どうせ全部ダメもとだったのだ。

今の私に怖いものはない。退勤時間5分前に自分のスマホを握りしめ、先輩のもとへ突撃した。

連絡先を無事に交換した。

その1年後には、婚姻届けを書いている。

いろんな人生の選択を積み上げてきた。けれど、もし私があの時声をかけずにいたら?

いや、そもそも、婚活を始めてなかったら。

あのとき、別の選択をしていたら。

私はもしかして……。

≪終わり≫

 

 

 

 

 

 

□ライタープロフィール

立野 亜美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

新潟在住。
日々の暮らしの中で感じたことや、心が少し動いた瞬間を文章にしています。

好きなものは、紅茶、かき氷、カフェ巡り、手帳時間。
最近は「自分らしく生きること」や「小さな行動が人生を変える瞬間」に興味があります。

不器用ながらも、日常の中にある感情や気づきを、等身大の言葉で書いていきたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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