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泣かず、飛ばずの営業マンだった私が会社にまだいる理由《週刊READING LIFE Vol.360「本当は“神様”だったのかも」》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:まるこめ (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

 

気がつけば、15年という年月が経ってしまった。

 

リーマンショックの名残が残る中

 

「ここしか受けてなくて……落ちたら後がないんで、採ってもらえないですかね?」

 

と、半笑いで面接に臨んだのはついこの間のはずだったのに。

新卒から15年、自動車販売会社に勤めてあっという間に時間が過ぎてしまった。

 

自動車を売る営業マン、として入社した私は「絶対に売ったる! やったるぞ」と鼻息をフンフン鳴らしていた。近しい業種で好成績を納める父がいて、営業の仕事をしていた時にバリバリやっていた母がいた。そんなD N Aを受け継ぐ私だ。いける、絶対いける。

 

とりあえず、4〜5年くらいバリバリ働いて成績を残して、貯まったお金でワーホリなんかに行っちゃって、30歳くらいまでにサクッと良い人に出会えたらまぁ、いいか。結婚できなくても、経験をもとに起業とかして、コンサルとかしながら、日本中を駆け回るキャリアウーマンに、私はなりたい。なんて、ことを想像しては、酒を飲みながらニヤニヤしていた。

しかも、配属されたお店は、歴史のある、いわゆる名だたるトップセールスマンと呼ばれる方が多いところだった。配属された時こそ「これは、来たばい。やれる、やったるぞ」と思った。

 

けれども、そんな風船のように膨らんだ妄想は、一瞬でパチンと割れてしまった。

 

自分の持っている、実際の能力を私は見誤っていた。D N Aがあろうとも、環境がすごいところであろうとも……それを活かすことが全くできなかった。

どれだけ頑張っても車は売れず、売れたとしても納車の間に様々なトラブルに見舞われた。

期待してくれていたはずの人は、徐々に「あいつはダメだ」と言い始め、「コイツには任せられない」と上司には新規の仕事をさせてもらえなくなった。

 

 

営業成績が良くない状況が続くと受ける研修も受けた。

後輩が入ってくるまでが長いこともあって「車は売らんで良いけん、気を遣え」と、新人の時に言ってもらっていた言葉だけが救いだった。車は売れないけれど、どうにか存在できる理由を求めて、雑務や、自分の仕事以外の業務も少しかじってみた。それでも、ウンともスンとも車は売れなかった。

 

やさぐれて、酒を飲みながらFacebookにアツい思いを吐き出しては、売れない理由を何か見えないもののせいにして、自暴自棄になっていた。定期的に神社に立ち寄っては、どうか売れますようにと祈った。けれども、神様なんてどこにもいないかのようで、私の切実な願いは誰も叶えてはくれなかった。別に、目の前の仕事に対して一切手は抜いてなかったし、どんな雑務でも愚痴をこぼすことはあったものの、精一杯こなしていた。けれども、やる気はあるのに上手くいかない状態が続くと、人間ってのはやはり腐りやすいもので、例に違わず私も日に日に疲弊していた。

 

そんな中、私に「ご飯に行こう」と連絡が入った。

当時、人事の上の方にいた上司だった。

 

たまたま住んでいるところが近いこともあって、近所の居酒屋で食事をしながら、仕事のことや、プライベートの話をした。緊張で何を食べたのか、どんな味だったのかは全く覚えていないけれど、最後の方で上司がポツリ、と切り出した言葉だけは未だに覚えている。

 

「いやー良かった。まるくんはもう営業ダメなんじゃないかと言われていたんだけど、ずっと Facebookの投稿を見ていて俺は違う、そうじゃないって思っていたから、今日話を聞きにいかせてくれって言ったんだ」

 

その時だったと思う。

自分の中でずっと噛み合わなかった歯車が、ゆっくりとだけど確実に、動来始めたような実感が、あった。

 

こんな、底辺でもがいている自分でも、必死にやっていたら手を差し伸べようとしてくれる人って、いるんだ。トップセールスマンはもちろん、モブにすらなれない私だけど、ここにまだ存在して良いんだ。もう少し、後もう少しだけ頑張っても良いんだって、思った。

初めて、心の底から「仕事、辞めたくない。今、辞めるわけにはいかないだろ」って思いが、心の奥底から沸々と湧き上がった。

 

車は相変わらず売れなかった。少し、売れるようになったかな? という時に妊娠がわかり、私の営業人生は「泣かず飛ばずの営業マン」で幕を下ろすことになった。

 

育児休業を経て、いざ復帰を目前とする面談にも、例の上司は同席をしていた。

複数人の面談で、私の希望は「甘えだ」という言葉が出た。そりゃそうだ、クルマもろくに売れなくて、自分の意見を通そうとするなんて、それは確かに「甘え」と捉えられてもおかしくはない。それなのに、例の上司は「いや、それはね」と反論の口火を切ってくれた。モブにそこまでしてくれなくとも……と思いながらも、嬉しかった。めちゃくちゃ、嬉しかった。

 

配属先が決まり、営業職とは違う職種になった。

私は、まずモブの私をずっと見てくれていた上司に恩返しがしたかった。ついでに、これまで、馬鹿にしてきたり「アイツはダメだ」って言っていた奴ら全員ギャフンと言わせてやると心から誓った。

 

経験は、嘘をつかなかった。売れなかった営業時代、何も仕事をしていなかったわけじゃなかった。いろんな職種の仕事を浅く広く見ていたし、ありがたいことに、させてもらえる機会がきっと、他の人よりも多かった。それが功を奏したのか、花形をサポートをする業務では大いに力を発揮した。整備士側の事務をしていたけれど、本職でも難しい資格にも挑戦して、営業時代に夢見た、全社員が集まる大会の表彰台に立つこともできた。

 

件の上司に恩返しがしたいばかりに、家庭を少々犠牲にしつつも「車が売れないモブ」からの脱却はできたけれど、夢半ばに上司は定年退職してしまった。

最後の最後まで、私がサックスを吹いていることも知っていて、会社の音楽好きな人に引き合わせてくれたり、音楽サークルを立ち上げる土台を作ってくれたりと、退職する時までとにかくその上司には、何ひとつ返すことができず、絶えずお世話になりっぱなしだった。

 

今その上司はというと、趣味のバイクやウクレレに勤しんでいる姿を Facebookにあげていて、それを見るたびに「ああ、本当にこんなふうに歳を重ねたい」といつも思わされる。

 

たまに、あの上司は「本当は“神様”だったのかもしれない」とさえ思う時がある。

 

上司のおかげで、腐らず、ひたむきに、目の前の仕事に没頭できて15年経ってようやく「車は売れない」けれども、会社の役には立てる人間にはなれるようになってきた。

上司が私の熱意を見てくれなかったら、周りに諦められていた中、見捨てずに話を聞いてくれていなかったら、今日の私はきっと、人知れずいなくなっていたに違いない。

気づけば15年、入社してから15年も辞めずにここにいる。

二人の娘を抱えて転職なんてことは、さすがにもう考えてはいない。

 

今、私にできることは私があの上司に救われたように、私の仕事で一人でも多くの人が助かったり、救われたりすれば良いなと思う。

私は、神様になんてなろうとは思わないけれど、きっと上司もそうだったと思う。当たり前のことをして、その延長線上に救われる人が入れば、その時に、モブだった自分自身のことも私が救ってあげられる、そんな気がしてやまないのだ。

 

だから、まだまだ仕事は当分辞められそうにもないようだ。

 

 

 

【終わり】

 

❏ライタープロフィール

まるこめ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

日常のあれやこれやに思いを馳せながら、ある時はペンを握り、ある時は包丁を握り、ある時はマウスを握る。自動車販売会社に勤める傍ら、9歳差の姉妹を育てる兼業主婦リーマン。今日も夕飯の献立が浮かばない。

 

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