健康と両親
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事: 美穂(ライティング・ゼミ名古屋会場)
「なんか頭が痛い」
そういって子どもが朝起きてきた。
おでこを触ると熱い……。急いで体温を測ると38度を超えていた。
急な発熱。子どものいる家庭にはあるあるな緊急事態だ。
学校に休みの連絡をし、夫とどちらが休めるか相談し、かかりつけの病院予約をして……など急にやること決めることが一気に押し寄せてくる。
そして私の頭のなかで今日やるはずだったタスクのパズルが一気に崩れた。
幸い子どもは熱があるにも関わらずとても元気で、翌日にはすっかり平熱に戻ってくれた。「早く外に行きたい!」という声を聴き、あっけないほど簡単にまた我が家はいつもの日常モードに戻った。
こんな時、ふと思う。「健康」と「両親」は似ているなと。
このふたつはどちらも、当たり前にそばにいすぎてその大切さに気付きにくい。
そして失いかけて初めてどれほど大切なものだったか、を痛感させられる存在だ。
今回も子どものたった一日の発熱ですら「いつもの日常」が崩れた。
多くの人は当たり前のように朝起きて支度をし、学校や職場へと向かう。今日のやるべきことをこなし、夕方には帰宅し夕食を食べお風呂に入り就寝する。そんな何気ない営みを当然の権利のように消費していく。でもそれは自分も家族も健康であるからこそ成り立つ奇跡のバランスなのだ。
もしも持病や慢性の体調不良を抱えていたら、一日を思い通りに過ごすことはとても大変なことになる。
思い通りに体が動かない、痛みなどの不調があれば予定していた家事や仕事は進まないしできない。結局、一日を寝て過ごすことにだってなるかもしれない。
そう考えると、一日を自分の予定通りに過ごせるのはとてつもない特権なのだと気づかされる。そして、健康でなければ先の予定を立てたり約束したりする気にもなれない。
その日に体調が良いかはわからないからだ。毎日がギャンブルのようなもので、体調が良ければ予定はいけるけれど悪ければキャンセル。という選択になれば最初から予定を作らないという選択をしてしまうのも理解できる。
また、ある本を読んだときに妙に納得した一節があった。それは人生において「時間」と「お金」と「健康」の3つが完璧にそろう時は滅多に訪れないという話だった。
人生の若いときには時間と健康はあるがお金がない。
中年期になると健康とお金はあるが時間がない。
老年期になるとお金と時間はあるが健康がない。
思い返せば私の若いころもそうだった。
健康のケアなんて言葉は頭の片隅にもなく、夜更かしをしても翌朝には当たり前のように動けた。毎日のタスクをがむしゃらにこなしていた。けれど自分で稼ぐ力はなく、せいぜいバイト代の範囲でいかに安く、楽しく遊ぶかを考える毎日だった。
しかし、社会に出て働き始めると今度は時間が砂時計のように消えていく。自由なお金は増え、少し贅沢な買い物もできるようになるけれど人生の大半の時間を仕事にそそぐことになる。人によっては「お金はあるのに、それを使う時間も気力もない」という状態になる。多少、肩こりや頭痛などの不調があっても、「まだ若いし、寝れば治る」となんとか身体をごまかし、やり過ごしている人がほとんどではないだろうか。
そしていよいよ老年期にはいると仕事から解放されて、時間もたっぷりある。今までためてきたお金を使う時! やりたかったことをさあやろう! となるのだが、その時になって今度は体が思うように動かない。すでにどこかの健康を損なっていたり、体力が衰えていたりして、かつて夢見たアクティブな旅や趣味を諦めざるを得なくなる。本に書かれていたのは、そんな皮肉な人生のフェーズの話だった。
もちろん、これは一般的なモデルケースに過ぎない。今の時代、若くして経済的な自由を得る人もいれば、中年期にライフスタイルを見直して、3つのバランスをうまくコントロールしながら人生を楽しんでいる人もたくさんいる。 ただ、「時間」や「お金」はある程度、自分の選択や努力でコントロールできる部分があるのに対し、「健康」だけは、私たちが日頃どれだけ意識を向けているかという、地道な積み重ねに左右される。それなのに、多くの人がその大切さを一番おろそかにしがちなのだ。
大きな病気をせず、健康に生まれて育ってきた人ほど、五満足でいられる状態が「初期設定」になってしまう。だからこそ、いざ検診で黄色信号が出たり、起き上がれないほどの不調に見舞われたりしたときに、初めて「何も痛くない身体って、それだけで幸せだったんだ」と、失ったものの大きさに気づくのだ。
そしてこの「失ってから気づく構造」は、そのまま「両親」という存在にも当てはまる。
両親も生まれた時から当たり前のようにそばにいて世話をしていてくれた。
もちろん、家族のカタチは人それぞれで、いろいろな境遇があるから一概には言えないけれど、私にとっての両親は、衣食住という安全基地を無条件で提供してくれる存在だった。
それがどれほど尊いものか、子どもの頃の私はこれっぽっちも分かっていなかった。なぜなら、生まれたときからそこにある「空気」のようなものだったからだ。
私がそのありがたみを痛感したのは、親元を離れて生活し始めた時だった。
洗濯、買い物、食事の準備、掃除など、これまで自動的にこなされていた家事のすべてを自分で行うことの大変さ。
実家にいたころ、両親はなにも言わずに毎日これらをやっていてくれていたのだ。その事実に気付いた時、感謝の気持ちが湧いた。
健康も両親も失ったときにそのありがたみに気づく。
どちらも人生を根底から支えてくれている大切な柱なのにあまりにも近くにありすぎるせいで、ついつい風景の一部になってしまう。
でも、気づけた今だからこそ、できることがあるはずだ。 健康を維持するために、毎日の食事や睡眠、適度な運動といった、生活の基本をもう一度見直してみようと思う。
現代はサプリメントや健康食品も溢れているけれど、私は仕事柄、東洋医学や漢方の知恵を日々の健康維持に取り入れている。
いつか失うその時が来てから泣くのではなく、当たり前が当たり前としてそこにある「今」のうちに。 私は大切な両親への「親孝行」と、私を生きるための「ご自愛」を、今日からまた、丁寧に始めていこうと思っている。
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