震えが止まらない
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:奥津光佳(ライティングゼミ・2026年5月開講/通信・4ヶ月コース)
2017年7月11日。今でも日付まで正確に思い出せる。その日、僕はある作品を前に立ち尽くしていた。
元々、「アート」というものにはまったく興味はなかった。いわゆる芸術というものに触れるのは学校の美術の時間くらい。その授業時間でも「綺麗な絵だな」「よくわからない彫像だな」「こんなのを眺めていて何が楽しいのだろう?」とありきたりな感想しか出てこない。
その程度の興味なので高校を卒業したら、アートに触れる時間なんて皆無。時々、骨董品の値付けをするテレビ番組で出てきた絵画を見ては「こんなものにこんなに高い値段がつくの!?」と金額を見て、驚く程度の感性しか持ち合わせていなかった。
そんなこんなでアートの楽しみ方など知らず、社会人となって働いていたある日、奇妙なものと出会う。知人が持っていたそれはある作品を模して作られた小さなフィギュアであった。なんでもそのフィギュアは手よりも小さいサイズながら、正確に元の芸術作品を模していて、少しポーズを変えているものであるそうだ。
それを見た時、とても不思議な感覚におそわれた。どうにもそのフィギュアから目が離せないのだ。なぜか、ジッと見てしまう。たまらず知人に頼み、自分の手のひらの上にのせてみる。あらゆる角度から眺めまわして、触ってみて、また眺めてみる。どうしてだろう? なぜか心を惹かれてしまって仕方がない。ずっと眺めていたい、そんな高揚感を感じることは今まで生きてきた中で滅多にない。ましてや芸術作品に心を動かされることなんて、未知の体験であった。
どうにもこうにも胸の高まりが収まらず、家に帰るとすぐにパソコンを開いて、その作品について調べてみる。どうやらそのフィギュアの元となった作品は、大阪に展示されているらしい。
休日になると我慢できずに、車に飛び乗り大阪へと向かう。普段は遠出などはしないのだけど、この日だけはただ衝動のままに片道2時間半の道をひた走った。道中、「自分は今何をしているのだろう」と考える。芸術作品とは言え、自分が見たものは小さいただのフィギュアだ。それを見ただけなのに、今一人で高速道路を走り大阪に向かっている。頭の中で考えていることと、実際に行動していることに変なチグハグさを感じながら休憩することなく運転をし続けた。
目的地に向かうために高速道のインターを降りると、下手に周囲を見ないように気を付ける。事前に調べた情報によるとどうやら高速道路から降りるとそこからでもその作品は見えてしまうらしい。どうせ見るのだったら中途半端なことをせず、作品の前で初めて目にしてみたい、そんな思いで運転に気をつけつつ、でも遠くをうっかり見ないようにと気を付ける。
目的地に近い駐車場に車を停める。作品はもう目の前だ。あとは入場ゲートを通って、その作品の前に立つだけ。作品を見てしまわないように、細心の注意を払いつつ、足元に目を落としゲートへと向かっていく。周囲から見たら一人下を向きながら歩くおかしな男だったろうと思う。ただ、その時の自分にはそんなことを気にしている余裕はない。なにがなんでも自分の衝動の正体を知りたいのだ。本物の作品と相対したら、何が自分は何を感じるのか、それを知りたい、味わいたい。いよいよ作品を前にする、そんな胸の高鳴りを感じつつ、勢いよくは歩けないので、トボトボと歩いていく。
「すみません、まだ開園前なのでお待ちください」とゲートで係員の人に止められる。目の前にあるのに見られないことが焦ったい。仕方がないので、ゲートの前でジリジリと時間が過ぎるのを待つ。
「どうぞー」と呼ばれて、急いで入場口へと向かう。入るないなや、小走りで作品の前へと向かっていく。
いよいよ作品の目の前に立つ。とうとうだ。顔を上げればもう見える。どうせなら一気に見てみたい。目をつむったまま顔を上げる。
いくぞ、見るぞ、3・2・1…
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。寒気と熱が全身を駆け巡るような、ゾワゾワする感覚を叩きつけられる。言葉にならない。ただただ呆然と立ち尽くしながら見る。
その作品は、まるで世界に自分の存在を知らせるかのように、巨大で、大きく腕を広げ、まっすぐにこちらを見ている。二つの顔に自分の目があい、射抜かれる。震えがくるような、恐怖のような、温かみのような、期待のような、そんな感情を同時に感じる。
たっぷり10分は過ぎただろうか。どうにも足が動かない。ちょっと動こうとしても、同じところに戻ってきてしまう。そして、気が付く「自分は感動している」のだと。何十年も前の人が作った芸術作品にこんなにも心揺さぶられることがあるだなんて思いもしなかった。
その作品は世界への挑戦状だった。作者は多くの人の反対を押し切り、作品を作り上げた。ある世界的なイベントの目玉であった大天井という建築物の屋根の突き破って、その作品は完成し、世界中から訪れる参加者の前に堂々と立っていたらしい。それは世界や世間に流されることを良しとしない、自分という生を最大限に燃え上がらせることの素晴らしさを込めて作り上げられた作品だった。
芸術作品は表現であり、メッセージなのだと初めて知った。作者の生命を賭けて、日本中、世界中を敵に回してでも作り上げられた作品は、人間らしく胸を張って堂々と生き抜けというメッセージが込められていたのだと思う。
全身全霊をかけた作品は、心を動かす。この作品を通して、自分は初めて感動を知った。
今では時々、太陽に向かって胸を張ってみる。世界に挑戦状を叩きつけて、戦い抜いた作者に負けぬよう、自分の生を懸命に生き抜いてみようと思う。
作品と対峙した時に感じた震えは、今も自分を突き動かしている。
≪終わり≫
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00







