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チーズケーキがこれからの私の生存戦略の鍵《週刊READING LIFE Vol.365「私の生存戦略 」》


 

 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

 

 

記事:松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

 

「美味しいものを前にするとさ、本当にいい顔するよね」そう言いながら、高校時代の友人が私の笑顔を写真におさめた。

一緒に旅行に行ったときか、それとも「ごはんをしようよ」という話になり、どこかのレストランでのときのことか忘れてしまったが、運ばれてきた料理を見る私の顔を見ながら、友人が言った言葉だ。

「何をしているときが一番幸せ?」と聞かれたら、「食べているとき!」と答えるくらい、若い頃の私は食べることが大好きな食いしん坊だった。苦手な食材や料理が無いわけではないが、大半の料理を美味しく食べていた。始めて食べる料理にも興味津々で、見慣れないメニューを見ると、気になってしかたがなく、お腹が満たされていても注文するなんてことを、よくやっていた。

お酒が好きなひとであれば、嬉しいことがあれば「今日はお祝いだから」とお酒を楽しんだり、嫌なことがあれば「飲まないと、やってられないよ」と言ってお酒で憂さ晴らしをするところだろう。残念なことにアルコールに強くない私はお酒を飲みながら喜びを噛みしめることも、ストレス発散をすることもできない。私にとって、アルコールに代わるものが食べることだった。

大好きな料理を食べることはもちろんだが、甘い物に目がない私にとって、スイーツは嬉しいことがあったときのご褒美でもあり、ムシャクシャしたときの癒やしでもある。ちょっといいお値段のケーキを買って帰って夕食後に楽しむなんて最高だし、ハーゲンダッツのアイスも癒し効果抜群だ。なんならスーパーで買う100円のシュークリームだってご褒美になる。

「食べる」ことは命をつなぐための必要な行動であることはもちろん、食いしん坊の私にとって、「大好きな食べ物をどれだけ食べられるか」は大きなウエイトを占めていて、充実した人生を過ごす上で、欠かせない戦略なのだ。

それなのに、ここ数年、大切な「食」が私の中で揺らぐようになった。由々しき事態である。

 

食べることが大好きな私であるが、「食べることが好き」と公言できるようになったのは、大人になってからだ。それまでの私は、「食べることが好きっていうなんて、恥ずかしい……」と思っていた。理由は体型にコンプレックスを抱いていたからだ。

幼いころの私は下ぶくれの顔で、お腹がぽっこりと出ていた。赤ちゃんのころの写真を見ると、ムチムチのパンパンで、肉に目が埋もれ、口角が下がっていて、まるでお相撲さんのような顔をしている。今でも、幼少期の写真を見るのは苦手だ。

だから20代になり、友人や会社の同僚の結婚式に参列してびっくりした。結婚式といえば、生まれたときから新郎新婦が出会ったころ、そして現在の写真が映像で流れるのが常だが、幼少期の写真はみんな可愛く、まさに「赤ちゃんは天使」という言葉がピッタリなのだ。誰一人として、私のような、お相撲さん赤ちゃんはいなかった。「いつか結婚式を挙げる日が来ても、幼少期のころの写真は絶対に出さない」と心に誓ったのを、今でも覚えている。

母が口にするものにこだわる人だったこともあり、子供の頃に市販のお菓子を買ってもらう機会が少なかったことに加え、「太るから」という理由で、甘い物を食べる習慣がなかった。当時親から言われた「太るから」という言葉は、今思えば一般的な話しだったのだろうが、当時は「私が太っているから甘い物を食べられないんだ」と捉えていた。

甘い物に対して厳しい家庭ではあったものの、手作りのお菓子に対しては寛容だった。家族の誕生日とクリスマスには、母手製のショートケーキを夕食後に楽しむのが我が家の慣習だった。祖母が料理好きだったため、手作りの草餅やおはぎ、ドーナッツを送ってくれ、美味しくて「もう1個だけ食べたい」と言うと、母は笑いながら「いいわよ」と言ってくれた。

スーパーやコンビニで、気兼ねなくお菓子を買えるようになったのは、社会人になってからだ。自分のお金で買えるということに加え、痩せたことも影響している。ダイエットをしたわけではないが、社会に出て働くという適度な緊張感とストレスのある生活が、自然と体重の減少に繋がった。会社帰りに友人と飲んでご飯をした後、締めにスイーツというのが金曜の夜の定番になった。

学生時代のアルバイトとは違い、まとまった給料が入ることで行動範囲が広がるとともに交友関係も広がり、今まで行ったことのないお店で料理を楽しみ、甘い物は別腹とばかりに食後のデザートを頼むのが当たり前になった。

会社の先輩たちとの焼肉の会では、カルビを大量に食べた後に締めのわかめうどん一人前をペロリとたいらげたり、「もうお腹がはち切れそう……」と言いながらも注文した料理をみんなで完食して「今日もよく食べたねー。私達、まだまだいけるね」なんて笑いながら「今度はどのお店に行こうか」と話した。

20代の頃は本当によく食べた。食べることを通して誰かと一緒に過ごす時間を楽しみ、そして自分を癒やしていた。

 

様子が少し変わったのは、30代になってからだ。会社の先輩から「40代になると揚げ物が食べられなくなるから、今のうちに食べておいたほうがいいよ」とアドバイスをもらい、「そうなのか」と思っていた頃だ。食欲がガクッと落ちた。そして、胃もたれがどういうものなのかを知った。周囲から「痩せたね」と心配されることもあったが、むしろ体か軽くなって気分は良かった。

前のように食べられなくなり、胃が疲れることを実感するようになったことを友人に告げたら、「私も……」と返ってきた。「私達、あんなにも食べていたのにね」と笑いながら、「これからはさ、量より質だね。20代のころに比べればゆとりがあるし、これからはいいものを適量食べて満足できるようになれたらいいよね」と話した。

食べることに後ろめたさを抱いていた10代を終え、食べたいものを食べたいだけ食べる20代を過ぎて迎えた30代。これからの10年間は、自分のお腹と相談しながら食べたいものを選び、たまには奮発して食事をご褒美として楽しむ。好きなことを我慢することなく、そして自分で稼いだお金で楽しむことで、より彩り豊かな人生を歩むことが、私の30代の戦略だった。

30代半ばにもなると、結婚や出産をする友人が増え、20代の頃のように頻繁に友人と会うことがなくなった。私自身、以前であれば一番元気だった金曜の夜が、一週間の疲れで一番グッタリする時間になった。ご飯を作る気力すらないけれど、何か自分を癒すものが欲しい。そんなときは、仕事帰りにスタバに寄ることがご褒美になった。コーヒーとスイーツを注文する。スイーツの定番はニューヨークチーズケーキかシュガードーナッツで、落ち着いた店内でコーヒーと一緒に楽しめば、夜ご飯はもうお腹に入らない。スイーツが夕食だなんて体に悪いかなと思いつつ、今自分が食べたいものを食べているという満足感が最高の癒やしになる。10代のころであれば罪悪感満載だし、20代のころであれば「これじゃ足りない!」と思っただろう。年齢や環境によって、自分が自分らしくいるために必要なことは変わってくる。

気の置けない友人達とおしゃべりをしながらごはんをするのは、変わらず楽しい。加えて30代の私にとって、一人でコーヒーとスイーツを楽しむ時間は、至福の時だった。

 

40代半ばになった今、スタバでスイーツを頼むか悩むようになった。というのも、スイーツを食べ終わった後、満足感を超えて「食べ過ぎちゃったな……」と後悔することが多くなったからだ。だからといって甘い物が好きなことに変わりはなく、食べたい気持ちはいつもある。ただ食べ終わった後に後悔するのが寂しいのだ。好きなものを食べたのに、後悔するなんて寂しすぎる。少しの時間葛藤し、飲み物だけ注文するようになった。

甘い物が楽しめなくなるなんて、食べることを躊躇するなんて、若かりし頃の私であったら考えられないことだ。食べることで自分を癒やしてきたのに、これからは何で自分を癒せばいいのだろう……

そう思っていたところ、「これで解決できるのでは」と思いついたことがあった。それは、お菓子作りだ。先日、料理好きな知人の家に遊びに行った時、手作りのチーズケーキを振る舞ってくれた。「簡単だから家で作ってみたら」と、レシピを教えてくれた。それ以降何回か作っている。甘さを控えめにしたくて、教えてもらったレシピから砂糖の量を減らし、焼き色をつけるために焼き時間を調整して、自分好みのケーキになるよう改良しているところだ。

つい先日も作ったところだ。最近は仕事から帰る時間が遅いので、朝ご飯の後に食べている。朝にチーズケーキを食べるなんて、胃もたれしそうと思われるかもしれないが、もたれることはない。そして、朝から大好きなスイーツが食べられることで、満足感が増す。

そういえば子供の頃に母が作ってくれたショートケーキや、祖母の作ってくれたスイーツはいくら食べても心地のよい満足感が残るものの、「食べ過ぎちゃったな……」と後悔することはなかった。これぞ、手作りのマジックなのかもしれない。

そんなことを思っていたら、気がついた。今までは誰かが作ってくれるもので自分を癒してきた。これからは自分で自分を癒せばいいじゃないか。癒やしが欲しいと思ったときに、自分好みのスイーツを作る。面倒くさがりな性格のため、作ることに億劫さを感じることもあるが、作っている過程の先に癒やしが待っていると思えば、その時間も楽しめる。

気がつけば、そろそろ人生の折り返し地点が見えてきた年齢だ。私もいつのまにかいい年齢になった。誰かに癒してもらうのも悪くないが、自分でできることであれば自分でやればいいのだ。これからは、自分で自分の癒しを作り出す戦略に路線変更してみよう。そんなことを考えながら頬張るチーズケーキは、今日も美味しい。

 

 

ライタープロフィール

松本萌(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。東京都在住。

2023年6月より天狼院書店のライティング講座を受講中。

「行きたいところに行く・会いたい人に会いに行く・食べたいものを食べる」がモットー。趣味は通算20年以上続けている弓道。弓道と同じくらい、ライティングも長く続けたいと思い、奮闘中。

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