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冷蔵庫に、レシピは入っていない


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:三上 浩紀(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

 

「これからの時代は、主体性が大切だ」

最近よく耳にする言葉だ。僕の会社も、この自主性/主体性を持つ人を増やし、組織を強くすることをミッションに掲げている。だから僕自身、この言葉をよく理解しているつもりだ。自分で考え、決め、動く。その力は確かに必要だ。

 

先日、元サッカー日本代表監督の岡田武史さんの動画を見ていて、こんな話に出会った。自主性は、決められた目的に自ら向かうこと。主体性は、その目的さえ自分で決めること。その違いを聞いて、主体性の重要性を改めて後押ししてもらえた気がした。やはり間違ってない。主体的な人が集まれば、チームはうまくいく。そう考えていたら、なぜか、ふと冷蔵庫が浮かんだ。

 

「今日は和食が食べたい。冷蔵庫にあるもので何かつくって」そう言われて、冷蔵庫の食材を見て、肉じゃがをつくる。誰かにレシピを指定されたわけではない。十分、自主的だ。でも、「今日は和食」という大枠は、すでに誰かが決めている。主体性が求められるのは、そのオーダーすらない時だ。冷蔵庫を開けて、「さて、何をつくろう」と自分で決める。答えやお手本がない時代、つまりレシピがないってことだ。オーダーすらない、でも、期待はされている。だから、自分で決めて、試して、また考える。なるほど。やっぱり、これからは主体性が大切だ。

 

だから、レシピがないなら、自分で決めればいい。一人なら、それでよかった。でも、答えがないからといって、何もかも一人で答えを出せるわけじゃない。仕事でも社会でも、僕たちは誰かと一緒に何かをつくっていく。そこで、冷蔵庫の前に5人を立たせてみる。全員、自分で考えられる。全員、自分の答えを持っている。

 

それなのに、夕飯はつくれなかった。

 

「カレーが食べたい」「私は魚」「辛いものは苦手」食べたいものが違う。それだけじゃない。包丁を握らせたら、手際のいい人がいる。盛り付けのセンスがいい人がいる。料理は苦手だけど、舌にうるさい人もいる。経験も、得意なこともバラバラ。そして全員が、自分の考えを持っている。誰も指示待ちではない。むしろ、主体性のある理想のチームに見える。なのに、僕らの夕飯が始まらない。主体的な人が集まれば、チームは自然とうまくいく。どうやら、そんなに簡単な話ではなさそうだ。

 

岡田さんの話は、ここで「それぞれの違い」と「一緒に目指すもの」へ展開していく。自分とは違う考えを、すぐに「間違い」とせず、「違い」を認めて受け止める。だったら、それぞれ好きなものをつくればいい。カレーが食べたい人はカレーをつくる。魚が食べたい人は魚を焼く。それなら揉めない。これも一つの答えだ。

 

でも、5人で料理をしているのに、それぞれが自分の皿だけをつくっている。なんだか、それも違う。違いを認めて別々につくることと、違いを持ったまま一緒につくることは、やっぱり違う。そこで、「何をつくるか」から少し離れてみる。そもそも、何のために5人で料理をしているのか。たとえば、みんなで楽しく食卓を囲むこと。そこへ戻れば、カレーか魚か、どちらかを勝たせなくてもいい。誰かが冷蔵庫を開ける。「じゃあ、これ使えるんじゃない?」別の誰かが包丁を握る。「それなら切るよ」「味、ちょっと見ていい?」気づけば、さっきまで自分の食べたいものを主張していた5人が、それぞれ動き始めている。誰かが役割を決めたわけじゃない。一緒に動くうちに、違いが役割になっていく。

 

しかも、最初から「得意」だと思っていたことだけが役に立つわけじゃない。料理が苦手だと思っていた人が、ふと「これ、入れてみない?」と言う。それが、最後の味を決めることもある。知らないからこそ、思いつけることがある。冷蔵庫の前に立った時には、誰が何をするのかも、何が出来上がるのかも決まっていなかった。一緒に動き始めてから、役割も料理も少しずつ決まっていった。

 

ここまで考えて、僕が見落としていたものに気づいた。主体性が大切なのは、やっぱり間違っていない。ただ僕はどこかで、「一人ひとりが主体的なら、きっとうまくいく」と思っていた。

 

でも、5人は動けなかった。誰かがわがままだったから? 誰かが自分の意見を曲げなかったから?違った。むしろ逆だった。

 

5人が動けなかったのは、全員が正しかったからだ。

 

5人に必要だったのは、誰かの正解を選ぶことではなく、「何をつくるか」から「何のために一緒につくるのか」へ戻ることだった。そこから一緒に動いてみる。すると、5つあった正解の間から、「これなら、みんなでいける」という答えが生まれてくる。それは、最初から誰かが持っていた答えではなく、5人がそれぞれの正解を持ち寄って、試して、混ぜて、動いたからこそ生まれた答えだ。

 

その成果は、出来上がった料理だけじゃない。料理が苦手だった人の一言が味を決めたり、切るのが得意だった人がいつの間にか全体を見ていたり……つくり終えた5人の関わり合いも、始める前とは少し違っている。

 

冷蔵庫に、レシピは入っていない。

それこそが、この時代の難しさなのだと思っていた。

 

でも、レシピがないからこそ、5人でしかつくれない料理があったんだ。

それに気づいた時、主体性って言葉が、前以上に、味わい深く感じた。

 

 

 

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