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世の中は、思いもよらないものから新しいものができている。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:島田智弓(26 年 9 月ライティングゼミ withAI)

 

 

グラスに鼻を近づけた瞬間、弾けるようなフレッシュな果実の香りが鼻を満たす。

口に含めば、フルーティな甘みが広がり、思わず心地よさを覚える。

だが、この極上の液体が何から作られているかを知れば、普通ならばグラスを置くことさえためらうに違いない。

 

世の中には思いもよらないものから新しいものができている。

 

名古屋でライターをする私が最近出会ったのも、そんな常識をひっくり返すストーリーだった。

目の前にあるのは、一見するとお洒落な水色のビンに湛えられた美しい液体。

 

その正体へと至る道は、はるか南アジア――カンボジアの巨大な湖で、水面を埋め尽くす水草の群れから始まっている。

 

実態は非常に繁殖力が強く、ひとたび条件が揃えば、たったの数か月で湖一面が緑に覆われるという。

増殖したその植物は魚の生態系に影響を与え、ボートのスクリューを破損させ、水上で暮らす人々の移動や生活の妨げになっている。網を引くことも難しくなり、現地の人々にとっては頭を悩ませる大きな課題だった。

 

水面を覆い尽くし、湖の環境や生活に負担をかける厄介な存在。

そんな植物を、人間が体内に取り入れるお酒の原料にするなどということが、果たして普通に思いつくだろうか。

 

ここまで読んだあなたは、きっと画面の向こうで「いくら何でもそんな水草からできた飲み物は……」と、少し身構えたかもしれない。正直に言おう。私も最初に聞いたときは、思わず聞き返してしまった。

だが、人間のクリエイティビティとは面白いもので、「厄介な障害」を前にしたとき、思いもよらない発想で価値を生み出す人たちがいる。

 

作り手たちが描いたのは、単なる環境配慮型のリサイクル商品ではなく、人々を魅了する「圧倒的な高級品」だった。

 

ただの産業用素材としてではなく、人が心から楽しむ「嗜好品」へと昇華させる。そうすることで、厄介者が桁違いの価値へと生まれ変わる。

 

手がけたのは、岐阜市を拠点に紙やアルミなどの資源を回収・再資源化するリサイクル事業者「サンウエスパ」だ。

もともとは「捨てられてしまうシュレッダー紙を液体燃料にできないか」という小さな試行錯誤から始まったプロジェクトだった。しかし、海外へと目を向けたことで、カンボジアの湖を覆い立つこの水草と出会うことになった。

 

とはいえ、道のりは平坦ではなかった。

 

「雑草から、高級なお酒なんて作れるのだろうか」

お酒造りの素人集団だった彼らに向けられる視線は決して楽観的なものではなく、試行錯誤を重ねる日々が続いた。

 

ここで彼らは、数ある酒類の中でも自由度が高く、素材の個性を表現しやすい「ジン」というジャンルに狙いを定める。

国産の銘柄をお手本にしつつ、「世界に通用するものを」と、カンボジア現地で採れるフルーツやスパイスを組み合わせて徹底的にクオリティを追求した。

 

ボタニカルとの組み合わせを何十通りもテストした。その結果、驚くほどクリアで華やかな香りを引き出すことに成功したのだという。現地に足を運び、スタッフとともに汗を流しながら試作を重ねたからこそ、ただの「珍しいお酒」ではなく、胸を張って美味しいと言える一杯に仕上がっていった。

 

やがて完成したその液体を口にした審査員たちは、その芳醇な香りと味わいに驚いたという。

結果、開発から一年足らずの2023年に、イギリスで開催された世界最高峰のジン品評会にて、アジア圏のブランドとして初となる世界最高賞を掴み取る。

 

しかも驚きなのは、この称号を目的に開発していたわけではないということだ。

「本当に美味しく、味わいたいと想起させるものを追求したい」

その一心で取り組み、だったらコンテストの舞台に挑んでみようと試した結果が、世界一の称号だった。

 

地域を悩ませていた厄介な水草。

その正体こそが、世界一の栄冠に輝いたクラフトジン、「MAWSIM(モウシム)」の原料だったのだ。

 

グラスに鼻を近づけたとき、あのフレッシュな果実の香りは、かつてカンボジアの湖に繁茂していた水草の命から生まれていた。

 

厄介者だった植物が、世界一のジンになった。その挑戦の物語は、今も次へと続いている。

 

 

 

 

 

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