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小さな店の物語


 

 

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:鐵谷知会子(2026年8月開講 ライティング・ゼミ福岡)

 

 

気分の良い5月の土曜日、お気に入りの店へと向かう。車で5分の距離にあるコンビニエンスストアの脇の、細い道向かいにある小さなコーヒースタンド。オーナーの彼は、オーストラリアでオーストラリア式のコーヒースタンドに出会い、そのまま修行。帰国すると自らコーヒースタンドを経営する事に決めたらしい。コロンビアに豆を買付に行くこだわりようだから当然に美味しいコーヒーを淹れてくれる。まだ若いオーナーは、ちょっとしたイケメン風で話も面白い。残念ながら忙しいらしく、近頃はアルバイト君にオーダーする時のほうが多くなっている。味も美味しいが、1階の小さなカウンターとベンチだけのスペースも心地いい。さて、今日のアルバイト君、顔なじみの名古屋の男の子だろうか。ドリップから落ちる雫の形を模した看板が風に揺れている。店に入ると、おや、普通に美しいイケメンが居る。

「こんにちわ」

イケメンを見て益々、上機嫌になる単純な私は、声がオクターブ高い。

「いらっしゃいませ」

「初めて会うよね。いつからアルバイトしているの?」

「そうですね。初めてですね。結構前から、シフトに入っているんすけど。宜しくお願いします。えーっと、それで今日のお勧めは、その棚にあります。右の豆はフルーティなイメージ、真ん中はいかにもコーヒーらしい苦みのあるタイプ。左側は酸味の強いタイプです。どれにしましょう?」

「そうだね。今日は酸味の強いタイプを貰おうかな」

「オーケーです。テイクアウトしますか?」

普段、猫としか喋ってないから、このコーヒースタンドに来たのである。

「ここで喋っていくよ」

「オーケーです。650円になります。有難うございます。しばらくお待ちください」

そう言う彼の、男にしては細い手首に、これまた華奢なデザインのブレスレッドを付けている。確かに彼は、男性と言うより女性の様な雰囲気で髪型も肩まであるセミロング。

「そのブレスレッド、どこで買ったか教えてくれない?」

「いやー、よく聞かれるんすよね。これ、アンティークなんすよ」

小さな三角形が連なったシルバーのブレスレッドは女性にも良く似合うだろう。

「センスいいんだね」

「あーざす」

彼から話を聞くと彼は、料理が得意で彼女に振舞うのが趣味だという。

「だから、俺、野菜とかを畑で作って、その材料で料理したいんすよ」

時代は変わったのだとしみじみするのは、こういう瞬間である。彼女に料理をふるまう為に畑から作りたいという男性が現れるのだから。酸味のあるコーヒーを飲みながら感心して頷く私。

 

コーヒースタンドを出ると、今度は並びにある隣の花屋へとハシゴ。コーヒースタンドとは、壁一枚挟んでいるだけ。店の中に入ると女性オーナーが揃えた、こだわりの花と看板猫が出迎えてくれる。花の種類は少ないのにメインの花を決めると、オーナーはスルスルと花束をこしらえてゆくアーティスト系。今日は出かける予定がないから、自分の部屋に飾る花を買う事にする。看板猫がスンスンと私の足元に執着しているのは、うちの猫達の匂いを嗅いでいるからなのだろう。珍しい変わりテッセンの花を選ぶと添える為の緑にユーカリをオーナーが選んでくれる。いつもと違って2階が賑やかなのは、リースの教室を開いているからと分かった。丁度、2階から親子連れが降りて来る。保育園に通うような小さな女の子が嬉しそうに出来上がったリースを眺めながら帰っていく。後ろ姿を見送りながら、こちらも幸せな気分だ。出来上がった私の花束もクラフト紙に包まれて一層魅力的である。変わりテッセンの花とユーカリの葉の小さな花束は、1,100円とお手頃。それを抱えて、今度は、又すぐ隣の小さなおやつ屋へとハシゴ。ここも花屋とは壁一枚挟んでいるだけ。

この、おやつ屋、東区ではなかなかの評判のお店。クルミドーナッツや、きなこのドーナッツ。それからチョコレートマフィン等、私の好きな味が沢山ある。おやつ屋の閉められた小さな窓をいつもの様に軽くノックすると、小さな窓をはみ出すような背の高いお兄さんが、小さなエプロンをして立っている。少し前までは、この小さな窓に丁度いい背丈の愛想のいい女性が居たのだが、お店の人が変わった模様。この背の高いお兄さん、嘘のように無表情である。笑い出しそうになるのを堪えて、一番のお気に入り、くるみのドーナッツを2個貰うと770円。

 

最初のコーヒーは、値段が上がって1杯650円。ドリップで入れてくれるから、これもお手頃。だが、おおよそ30分間でトータル2,520円の出費。無駄遣いだと私に指導するファイナンシャルプランナーが居るのかもしれない。でも、こんな風に過ごせる一人時間は2,520円以上の豊かな気持ちを私にくれる。

 

 

この3つの小さな店、実は、古いアパート1棟なのだが、アパートのオーナーさんは、若い人に頑張って欲しいからと安い金額で貸しているらしい。心の綺麗なオーナーさんなのだろう。小さな店は、オーナーさんの大きな愛に支えられている。他の人に教えたい様な、内緒にしておきたい様な、とっても大切な小さなお店の話。

 

 

 

 

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