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心が折れたときの救世主M

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

記事:美枝花(26 年 9 月ライティングゼミ with AI)

 

心が折れたときの救世主M。

Mと出会ったのは10年ほど前のこと。

今日は私とMの出会いについて話そう。

 

 

あ~あ、また1日がはじまってしまった。

AM6:05、目覚ましのアラームに軽い絶望感を覚えつつ、「うううう……」と女子力マイナス100点のうめき声を上げながら重い体を起こす。

今日もやること満載だ。

 

大企業で働き、都心のオフィスへの通勤時間は片道約1時間45分。

残業が日常化していて、昨晩帰宅したのは22時を回っていた。遅い夕食を済ませ、ベッドに入ったのは午前1時頃だったか。

そりゃ体も重いはずだ。

 

4か月前に新しい部署に異動した。100名を超える大所帯の営業部門。

私はスタッフとして主に営業のスケジュール管理、書類の取りまとめ、関連部署との調整、備品手配、トラブル処理も担当する。

日々、マルチタスクが求められる。

 

今日は営業担当者から回収する報告書の締め切り日だ。

集めた書類をまとめ、全体の報告書を作成し、上司の承認を得て、関係部門へ通知する。

ふと書類をチェックする手が止まった。

 

あ、またKYか! 嫌だな……。

KYというのは、1人の営業マンのあだ名で、本人はそう呼ばれているとは知らない。

私たちスタッフの間での隠語のようになっている。

 

KYは声も態度も大きく、気に入らないことがあるとすぐに怒鳴る。苦手なタイプだ。

以前、私がこの部署に異動してきて間もない日のこと、KYの書類に不明な箇所があったので確認を求めるために声をかけた途端、怒鳴られたのだ。

「なんだよ! そんなのそっちで上手くやってくれよ! こっちは忙しいんだよ!」

面食らって固まってしまった。

「え? あの、でも……」動揺して何も言い返すことができない。

結局、「すみません。こちらで確認します」と言って、逃げるようにその場から立ち去った。書類を持つ手は震えていた。

そして数分後に急に怒りがこみ上げてくる。

なんで私があんなこと言われなきゃならないのー!

 

案の定、今日も同じようなやり取りが繰り返されたのだった……。

 

あーー! 疲れたーーー!

いつもよりさらに遅い時間に帰宅し、テレビをつけ、ソファーに倒れ込んだ。

今日の嫌な出来事がよみがえってくる。

あ~あ、何やってるんだろう、わたし。

言いたいことが言えず、いつも損ばっかり。

そういえばあの時も、あ~、あの時も……。

連想ゲームのように次から次へと嫌な記憶がよみがえってくる。

私の人生ってなんなのーーーー!!

もういやーーーーーーーーーーーーーーー!!!

そのままソファーから床に倒れ込み、突っ伏した。

 

どのくらい時間がたっただろう。

つけっぱなしのテレビから懐かしい声が聞こえてきた。

 

「そうか、そうか、よーしよしよし」

 

ん? と顔を上げる。

画面の中にいたのは、懐かしい人。 

動物王国のムツゴロウさんだった。

 

昔の番組の名場面を辿る番組だったか。

ムツゴロウさんは「そうか、そうか、よーしよしよし」と言いながら自分より大きな動物に抱きついて撫で回していた。満面の笑顔で、天真爛漫に。 

はじめは警戒していた動物も、数秒後にはゴロニャンと脱力してムツゴロウさんにじゃれはじめた。

 

その無防備なシーンに、ムツゴロウさんの解説の声が重なる。

「面白いですね~」

そう言って、動物の特性や心理、行動について愛情を込めて語り出す。

 

なんかいいなあ。

こんな風にまるごと肯定されたら、どんな動物も安心しちゃうかもね。

 

ふと、可笑しなことを思いついた。

これ、自分にやってみたらどうだろうか?

ムツゴロウさんが動物にしてあげるように、自分自身を抱きしめて「そうか、そうか、よーしよしよし」って言って撫でてみたらどうなるか?

 

早速やってみる私。

せっかくだからムツゴロウさんの顔真似をして満面の笑顔で。

 

やりながら笑ってしまった。力が抜けた。

今ここにいる自分、弱い自分、ダメな自分、そのままの私でいいんじゃない?

なんだかそんな風に思えてきて不思議な安心感を覚えた。

 

これ、いいかも! 習慣にしてみようかな。

 

その日から気持ちが落ちた時、不安になった時、自分を責め始めた時、ことあるごとに、

ムツゴロウさんを思い出して、自分を抱きしめながら満面の笑顔を作って言ってみた。

「そうか、そうか、よーしよしよし」

 

 

そんなある日、またしてもKYの書類不備を見つけた。

あちゃー! またか! 嫌だな……。

と思ったが、(そうだ! こんな時こそムツゴロウさんだ!)と思い直し

オフィスの陰でこっそりやってみた。

「そうか、そうか、よーしよしよし」

 

そして、いざ出陣!

「あのう、この書類の件だけど……」

ドキドキしながらKYに声をかけた。

「はあ? なんだよ! 忙しいんだよ!」と、いつものKY。

「そうか、忙しいんだ~。大変だね」

私の口から自然にこんな言葉が出た。

 

するとKY。しばらくの沈黙の後、「そうなんだよ~。忙しくてさ。今週ずっと徹夜だよ~」と泣きが入った声で言ったのだ。

 

「そうか、徹夜なんだ~。それは大変だね。私も大変だけどね」

 

するとKY。「そうだよな。そっちも大変だよな~。」と言い

「で、何? 書類? ああ、やっとくよ」と。

 

え? えーーー? 急に言うこと聞いてくれちゃった!

あっさり解決!

 

何が起きたの?

私は何も変わっていない。特別、強くなったわけでも有能になったわけでもない。

 

ただ自分をまるごと肯定しただけ。

弱い自分も。ダメな自分も。自分を責めてしまう自分も。ことごとく。

「そうか、そうか、よーしよしよし」を繰り返しただけ。

 

そうか、私の在り方が変わったのかもしれない。

 

ムツゴロウさんのお陰だ!

 

もうお気づきかもしれないが、冒頭の心が折れたときの救世主M。

それは、ムツゴロウさんでした。

 

よーしよしよし!

≪終わり≫

 

 

 

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