魚介濃厚つけ麺はツンデレ系嫁になりませんか?(ならない)
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:SB 関(26年9月ライティングゼミwithAI)
<本文>
「べ、別にあんたのためにこんなドロドロしてるわけじゃないから!」
「そんなこと言っちゃってさあ……こっちはもうツルッツルのテカテカだよ?」
こんな会話を脳内でしているわけではないが、私は魚介豚骨濃厚つけ麺が大好きだ。濃厚煮干しも好きである。
私くらい好きだと、脳内で「特製濃厚つけ麺」の味を再現できる。いや、本当に。
ドロッドロの大地かセメント色のスープ。黄金に輝く麺。虹色に油を輝かせるチャーシュー。割れば太陽のような煮卵。
やばい。書いているだけで食いたくなってきた。後で行く。
そんな、何年も連れ添った愛妻のようなつけ麺と、私は一度だけ喧嘩をした。永遠の別れかもしれないと思った。その時は本当に泣いた。38歳のおじが、自宅1Kの安いベッドで枕を濡らしたのだ。哀し過ぎる。
その日はよく晴れていた。雨模様が続いていたから、青空が余計に気持ちいい。最高のつけ麺日和だ。こんな日は腹にドスンとうまいものをぶち込みたい。読者の皆様がどんな感じだって思っても、そんな感じである。
私は都内某所にいた。土地勘のない場所では、Google御大に美味い愛妻がいないか聞くに限る。どんな文章だ。
しかし御大によれば、この近くに愛妻はいない。仕方なく、某有名剣豪の名を看板にした実力派チェーンへ向かった。都内各所に看板娘を立てるお気に入りの店だ。高田馬場店のコは最高だが、この日は上野店のコにした。
店には私と同じような者たちが並んでいた。少し同族嫌悪を覚えつつ、列の最後尾で順番を待つ。やがて私の番が来た。頼むのはやっぱり特製濃厚つけ麺。彼女が来るのを待つ。
来た。いつも通り麺はツヤツヤだ。スープに付けて、俺の胃に運んであげるね……。キモくてごめん。
私は麺を一気に啜った。ズズッ。麺はいつも通り気持ちよく、アルプスの清流のように私の喉を潤し、私のグツグツとした胃液に浸かる……はずだった。
ズキン。
心の音ではない。喉が……痛い?
気のせいか。今日は機嫌が悪いのかもしれない。二啜り目。痛い。最後までずっと痛かった。
つけ麺って病気持ってるっけ……? 周りの同族たちは何事もなくイチャイチャしていた。
帰宅するまで「ズキンちゃん」は消えなかった。夜には去っていたので、今日は俺の日じゃなかったのだと思い、眠った。
翌朝、頭に浮かんだことはただ一つ。
今日もつけ麺食お。
私は別の都内有名店へ向かった。着丼。緊張しながら、目の前の一杯を十秒ほど見つめる。いざ。
ズズッ‼️
ズキン‼️
……ええ、またあ??
結局その日も最後まで喉は痛かった。店を出た私は絶望の淵に立っていた。
私はしがないサラリーマンだ。人並みに忙しく、人並みに叱られる。そんな中、貴重なストレス処理班が解雇されようとしているのだ。
「え、俺はこんな些細な楽しみまで奪われるの? てか38歳で食物アレルギーとかなるの? なんで? 俺が何をした?」
そんなことを帰宅するまで繰り返していた。多分、少し泣いていた。近くにいた人には謝りたい。
その夜はまあまあ泣いた。会社でそこそこのミスをした時より泣いた。ミスは反省し、改善済みである。
泣き終えて冷静になると、「……まあ潮時か。俺ももう若くないし、健康に気を遣えってことかな。この先、つけ麺を失って正気を保てるのかな。禁断症状とか……」と考えているうちに朝が来た。
社会は、私がどれだけ辛くても待ってくれない。つけ麺を食べなくなって三か月が経った。禁断症状は特にない。案外食わなくてもいけるんじゃねえか、というツッコミは勘弁してほしい。
三か月後。都内某所、そこそこ晴れたある日。私は有名つけ麺店の前に立っていた。確かめたかったのだ。本当に関係は終わったのか。
一度、強めに別れを告げられた。復縁の可能性は低い。ただ……ワンチャンないか? 未練はタラタラである。
覚悟を決めた顔で店に入り、食券を買い、席にどかっと座った。周りのお客さん、本当にすいませんでした。
……来た。来てしまった。来なければいいのに、そんな気持ちもあった。店側としてはそうもいかない。商品を出さなければ、普通にそれは詐欺である。
久しぶりの対面。少し痩せたか? そんなわけない。言いがかりだ。箸でツヤツヤの麺を掴み、ドロスープにディップする。舞台は整った。普通につけ麺を食べているだけである。
ズルッ‼️
麺が喉を通った。
……チャポン。胃液に落ちる音がした。
「静けさや。蛙飛び込む水の音。」
芭蕉である。
これを挟みたいがために、聞こえるはずのない着水音を偽装した。
……ゑ?
麺が、喉を、気持ちよく、通った。清流みたいに。
痛さは、ない。
その後は拍子抜けするほどあっさり、普通に美味しくいただけた。
店を出ると、久しぶりに気持ちのよい感覚があった。心地よい風の中、聞き慣れた愛妻の声が聞こえた気がした。
「べ、別にあんたを可哀想と思ったわけじゃないから! ただ……いつも頑張ってるあんたを見ていて、やっぱり支えてあげるべきなんじゃ、とか……そんなんじゃないから! 勘違いしないでよね!」
幻聴である。
近々、人間ドックを受ける。なんだかんだ心配だし。オツムで引っかかる可能性は大。
そんな、私の日常。
(どっとはらい)
<終わり>
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