メディアグランプリ

海外赴任中に仕事を辞め、ど田舎への移住を決めた話


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記事:林峻平(ライティング・ゼミ日曜コース )

 
 
祖母の一周忌という理由で休暇をもらい、赴任先のベトナムから福岡行きの飛行機に乗り込んだ。理由に嘘はないけれど、検討中の転職候補地を見に行く、というもうひとつの理由があった。
 
その募集を見つけたのは、昨年末のこと。今年の秋頃には日本に戻ることが決まり、戻ってからのことをなんとなく考えるようになっていた。今の会社に残り続けていいのか……。このままいけば、東南アジアへの出店事業に関わることができる。これは入社時からの目標でもあった。でも、あの時やりたかったことが今も本当にやりたいことなのだろうか。残る理由を探して、無理に自分を納得させようとしている気もしていた。自分のような若手に海外経験を積むチャンスをくれた会社。尊敬する人や、お世話になった方、会社に入ってからの様々な出会い。中学から寮に入り、ずっと離れて暮らしてきた家族のこと。海外にいて、死去の際に立ち会えなかった大好きだった祖母のこと。色々なことが頭の中を巡っていた。
 
その募集というのは、鹿児島県伊佐市の「地域おこし協力隊」の募集だった。地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を受け入れ、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とした総務省の制度のこと。国から補助金が出て、一部が隊員の給与となる。もうスタートから10年になる制度だったが、僕は今回初めて知った制度で、伊佐市も初めて募集するということだった。
 
鹿児島は社会人になって最初の勤務地で、2年ちょっと住む中で大好きになり、いつかは戻って来たいと思っていた場所だった。ただ、伊佐市には行ったことがなかったし、恥ずかしながら、どこにあるかさえ知らなかった。
 
そんな感じだったが、募集ページを見る中で、「鹿児島の北海道」と呼ばれるくらいに冬は寒いということ、マイナースポーツであるカヌーの振興に力を入れている、ということで興味が湧いた。こんな募集、九州出身だけど大学は北海道までいくようなモノ好きで、しかもカヌー部だったまさに自分に向けた募集だなぁ、と妙な縁を感じた。募集締め切りは約2週間後。どんなところか見てみたい。気づいたら航空券を買ってしまっていた。
 
行ってみると、そこは北海道を凌ぐ寒さだった。外気はマイナス7℃ほど、北海道のように建物が寒冷地仕様になっていないので、室内にいても寒い。雪もどっさり積もっている。電車もなければ、高速もない、山に囲まれた陸の孤島。ネット予約できる宿も全然ない。観光情報もほとんど出てこない。なんだここ……。その代わり、会う人会う人みな温かった。名産の焼酎は「500円でここにある焼酎みんな飲んでいいよ」といった感じだし、気づいたら店の人も一緒に飲んでいるし、距離感が近くて、人と人が面白いように繋がっていく。寒暖差で甘味が増したお米は感動ものだし、100円とか200円とかで入れる温泉も町中で湧いているし、なんだここ! ちなみに、漫画「スラムダンク」の作者の出身地でもあるらしい。
 
全然知らなかった場所が、どんどん身近なものになっていった。町を盛り上げようとしている人や危機感を持って動いている人、思いっきりここでの生活を楽しんでいる人……。滞在中たくさんの人に出会えた。熱い想いを持った人がたくさんいた。気づくと、そんな人たちを応援したいとか、そのために何ができるかとか、何して楽しもうかなーとか考えている自分がいた。熱に当てられたらしい。この町はこれからきっともっと面白くなっていくと感じた。そして自分もそこに加わりたいと思った。地域おこし協力隊、応募してみよう。自分がこの町を変えるんだとかそんなたいそうな気持ちではなく、働き方や生き方が多様になったこの時代で、この制度を利用して、新しいことにチャレンジしてみよう、そう思った。
 
伊佐市よりもアクセスがいいとか、美しい景色があるとか、気候がいいとか、もっといい場所はきっとあると思う。インターネットが発達して、他の人の考えや経験、自分が知らないことに気軽に触れることができるようになった。でもそのせいで、いつも隣の芝生が青く見えて、何が正しいのか、このままでいいのか常に迷うようになった。だからこそ、理屈じゃない自分の感情や縁を大切にしたいと思った。
 
正直、すごく甘いような気もした。年収は下がるし、任期だってある。自分がやりたいことをやって生きていきたいとか、社会人になってから封印していた考え方だったし、そんなことを言う人を少し軽く見ていたような気もする。でも、理由なんてよくわかんないけど好きなことがやっぱり好きなわけで、なんのかんの言ってやっていて楽しいわけで、苦にならないわけで、一番やる気が出るわけだ。
 
ベトナムに戻って、上司に退職の意思を伝えた。
「寂しい」と言ってもらえたことが、本当に嬉しかった。
 
この先、大変なこともたくさんあると思う。でも、自分の目で見て感じて決めたことだから後悔はしないと思う。それよりもどう楽しむか、その方が大きい。

 
 
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2018-06-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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