3人目の寂しがり屋
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:コバヤシミズキ(チーム天狼院)
「一人になると、寂しくて」
いつだったか見た映画のワンシーン。
色っぽい女が青年にしなだれかかるのを、黙ってじっと見てた。
確か6月。丁度このくらいの時期。
窓の外は土砂降りで、向こうの山が姿をくらませたことを覚えてる。
まるで、この部屋だけ世界に切り離されたみたいで。
「一人になると、寂しくて」
テレビの中の女優と、同じセリフを呟いてみる。
どうもしっくりこない。
もう一度画面を見やるけど、既に女は青年と見つめ合っていた。
「一人になると、寂しい?」
そう問いかけるも、誰も答えることは無く、雨の音に消えた。
だから、私が答えたのだ。
「一人だけど、寂しくないよ」
でも、それも納得いかなくて。
そのまま私は、ソファにしなだれかかった。
“一人が寂しい”と感じる人は、一体どのくらいいるのか。
頻繁に聞くこのフレーズに、疑念を抱くのは結構早かったと思う。
昔から、“寂しい”にそこまで執着が無かった。
一人で留守番をするとき、幼稚園に着いて母と手を離すとき。
「瑞季は全然泣かない子だった」
親戚間で私の話が出るとき、決まってこれを言われる。
確かに、周りの小さな友人たちに比べて、私は泣かない子だった。
遊んで別れるたびに涙を見せる従姉妹や、一緒に留守番をしていると泣きわめく弟。
「なんで、泣いてるの」
幼い頃感じていた疑問は、それでも“聞いてはいけない”と心の中に仕舞ったままだった。
でも、それも今なら分かる。
「寂しかったんだね」
なるほど! 誰かと別れると一人になるから寂しいのか!
いやはや、これは世紀の大発見だ!
「そんなわけあるか」
従姉妹も、友人も、弟も。
誰かと別れた先には、必ず誰かがいるはず。
それでもなお、“寂しい”と言うのか。
「だめだ、全然分かんない」
“寂しい”の方程式が未完成の私に、寂しいと思える日は来るのだろうか。
「一人になると、寂しくて」
一人から二人になった、あの女の言葉の真意がつかみきれない。
それが何だか仲間はずれにされてるみたいで、死ぬほど嫌だった。
“寂しいが身を滅ぼす”?
「執着の間違いだろ」
何かのセリフに、正論をぶつけていたあの日が懐かしい。
“寂しい”に“執着”する私は、確実に身をむしばまれ始めていた。
「だって、仲間はずれは嫌だし」
小説を読んでも、音楽を聴いても、映画を見ても。
隣の席で涙を拭う人を見たとき、不思議な気持ちになる。
「私だって、寂しくなりたい」
それなのに、私だけが“寂しい”に取り残されていく。
「一人になると、寂しくて」
違う映画を見てるはずなのに、何故かあの映画のセリフがよぎった。
「寂しいんじゃない?」
目の前の彼女から飛び出た言葉に、思わず手を止める。
昼ご飯をつつくための、何の気も無い話だったと思う。
だから、そんな言葉がでるとは思わなくて、タブーなのも忘れて問いかけた。
「なんで?」
高校時代の、ちょっとした話だったはずだ。
……私がいろんな人の間をフラフラしていた、そんな話。
たいした話じゃ無い。
高校3年間、毎年所属していたグループが違ったってだけ。
しかも、グループの人数が増える度に、小さいグループへと細かい転勤を繰り返していたのだ。
これが男女関係だったら、とんだ浮気者である。
しかし、浮気者なら“寂しい”の納得がいくが、私のコレに“寂しい”は果たしてふさわしいのか。
「なんで、私が“寂しかった”なんてことになるの?」
なるべく動揺を顔に出さないように、慎重に訪ねたつもりだった。
そんな私の内心を知っているのかいないのか、食えない顔で彼女は言う。
「だって、仲間はずれは嫌なんでしょ」
してやったりと言った風に、彼女は再び昼ご飯をつつき始めた。
それに、思わずポカンとする。
“仲間はずれ”、確かに彼女はそう言った。
「随分、幼稚な言葉だな」
だけど、ああ、これが“言い得て妙”ってやつか。
謎解きがバチッと当たった時みたいに、やっと未完の方程式の穴が埋まった気がした。
「一人になると、寂しくて」
長いこと私の中に棲み着いたこの女は、きっと私だったのだ。
「一人になると、寂しくて」
人間が“寂しさ”を覚えるのって、何人からだろうか。
映画の中のあの女のような“2”か。
それを黙ってみていた、あの日の私の“1”か。
はたまた、“己の存在などこの世にない”なんて。そんな虚無感の“0”か。
「いや、“3”だ」
「“3”になって、初めて人は“寂しさ”を知るんだ」
……高校時代、初めは3人グループだった。
くだらない話も、とりとめの無い話も、真剣な悩みだって。
いつでも3人で、皆で話していたのだ。
でも、いつの間にか2人の世界の話になって、遠慮してたら更に人数が増えて。
勝手に疎外感を感じた私は、それから色々な人の間をフラフラするようになったのだ。
「だって、仲間はずれは嫌だし」
誰かに話を聞いて欲しい。私も話に入りたい。
「私も見て!」
幼稚だと、そう思って蓋をしていたものが、まさか自分が執着していたものだったなんて。
「なんだ、私めっちゃ寂しがり屋じゃん」
「一人になると、寂しい?」
そう問いかけても、返してくれなかった映画の女は、今日も色っぽい顔で笑うだけ。
そのすかした態度が気にくわなくて、苛立っていた。
しかし、答えが出た今、きっと私はあの女より“幸せ”に違いない!
「一人じゃないから、寂しいよ」
そうやって、私もすかした態度で答えた後、こう言うのだ。
「私の方が、もっと友達いるもんね!」
幼稚だなんて笑うやつは、寂しがり屋にしてしまえ!
3人目の寂しがり屋は、ようやくあの女に答えを叩きつけることが出来たのだ。
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