煙草の煙と夏の空
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:北川涼子(ライティング・ゼミ平日コース)
「なんで、空気のきれいなところをわざわざ汚すんだろね」
屋外で一服している人達を横目で見ながら、知人が私につぶやいた。もちろんあなたもそう思うでしょ? と続く気配を漂わせる口調で。
彼女は私が喫煙者であることを知らない。別に隠しているわけではなく、単に知り合ってまだ日が浅いから知らないだけなんだけど。私はこんな風に喫煙者を忌み嫌うタイプの女性が本当に苦手だ。その人がが忌み嫌う何かを全部「喫煙者」に乗っけているように感じてしまうから。
「あなたがきれいだと思ってるものの、醜さに耐えられないからじゃないですかね」
心の中でそんなことを思いながら、私はあいまいにふふ、なんでですかね、と返事をした。
なんで私は煙草を吸っているのだろう?と考えたことがある。
肌のためにはよろしくないとか、金銭的にもいくらか別のことに使ったほうが有意義だろうとか、色々「やめたほうがいい理由」はもちろん知ってるし、そのとおりだとも思う。
でも今まで一度も「やめよう」と思ったことがない。
ニコチン中毒だからやめられないのかもしれないけど、それ以前に、禁煙してみようと思ったこと自体がない。むしろ「細々でも吸い続けてやる」と決めているような気もする。
嗜好品だからどちらでもいいっちゃいいのだけど、喫煙することで何か私にメリットがあるのだろう。じゃあそれは何? と思った時、ふと箱に書いてある文章が目に入った。
”人により程度は異なりますが……喫煙への依存が生じます”
「依存が生じているのか~。確かに、何も言わず依存を受け入れてくれるのって、煙草だけなのかもしれないな」
そのことに気づいた瞬間、どうしようもないやるせなさに包まれた。
社会人として生きていると、思ったことをぜんぶそのまま口にするわけにはいかない場面が多々ある。それは時には相手への優しさではあるが、大半は「折れる」って事である。
私がそのまま言ってしまうと調和が崩れるから。空気が乱れるから。
だから、言葉にする代わりに、煙草に火をつけて煙にして吐き出しているのだ。
この方法なら、きっと、誰も傷つけない。
分煙上等、迷惑をかけたくないからという大義名分の元に、少しの間だけその空気から離れていられる。みんながうまく調和しているはずの、きれいな空気から。
そうして自分の何かを煙にまいたところで、また気を取り直して、整った空気の中へと戻るのだ。
でも、この方法はベストではない。
自覚はなかったけれど、この方法は、緩やかに自分自身を傷つけていると気がついた。
もう時効だろうと思うから書くが、私が煙草を吸い始めたのは高3の進路を決めている頃だった。大学に行かせたい親と、成績は満たしていても、大学に行く意味が見出せず行きたくないと考えていた私と。その頃の私には、自分の考えを的確に言葉にする技術がなかった。このまま親の言うとおりに進むわけには行かない、でもその理由は自分でも説明ができない。そんなもやもやした気持ちのときに、一服する時間は私にとてもフィットした。
でもそれから何年経っている?
自分の考えを的確に言葉にすること。そのために私は多大な時間を費やして、下手ながらに多くの人と意思疎通を図ってきた。少なくともあの頃よりは確実に、自分の考えを言葉にする事ができるようになっているというのに、それを言葉で伝える代わりに、相変わらず煙に巻いてごまかしているですって?
自分自身と、この20数年間の努力を馬鹿にし過ぎてやいない?
はみ出したものは排除する。その上で成り立つキレイな空気なんかクソくらえ。
そう思っているのに、安易に折れることで空気に迎合してしまっていたのかもしれないな。
自分を保つより、流されてしまったほうが簡単なのかもしれないけど、自分をちゃんと保ちながら全体的に調和する術、を探求し続けるほうが、難しくても気持ちは楽だし、そうできるための色んな力は身につけてきたはずだ。
だからこれからは、自分を煙に巻くための喫煙はしない。考えを言葉にすることで、ぶつかったりすることもあるだろうけど、それはそれで煙草じゃなくて人に助けてもらおうと思う。
そう決めた後で青空を見ながらする一服のうまいことよ!ご安心あれ、空気は汚していませんよ。だってこれ煙が出ない電子タバコなんだもの。煙草が進化する時代なんだから、私も進化できるはず。タバコを吸う理由は「うまいから」だけでいいと思うんだ。
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