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季節はずれの大掃除が教えたこと


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記事:縞隈 千代子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
この暑い夏の先週月曜日のこと。
 
「ああ、立派な肺炎だねぇ。じゃあ今から入院です」
 
「仕事と飲みとで、家に帰るのが午前」が続いていた夫は、珍しく体調の悪い日が続いていた。病院にいけと私が言ったところで「しごとがー」といって逃げるいつものパターンが目に見えていたので、夫を無理やり病院につれていった。そして医師からでてきた言葉は冒頭のセリフ。こちらが「え!?」という間もなく、淡々と医師は入院指示をだし、夫は「捕らえられた宇宙人」のように両脇を看護師二人にがっしり抱えられてさらなる検査へと連れさられた。
 
次の日に医師から告げられた言葉はさらに衝撃だった。「旦那さん、ハウスダストアレルギーもありますね。退院後気をつけてあげてくださいね」
 
ハウスダスト? 今までそんな様子も全然みえなかったのに。それとも、ほこりで苦しいと夫は私に言わなかっただけなのだろうか。いや、言えなかったのだろうか。
 
わたしたち夫婦は共働きで、どちらも仕事帰りが遅いのが定番だった。だから、掃除は主にルンバまかせ。「ほこりで死ぬことはない」が合言葉で、お互い気がついたら掃除するのがルール。年末の大掃除もするけれど、だいたい荷物を移動して拭き掃除ぐらいで終わっていた。
 
でも、ハウスダストアレルギーとなると、普段のルンバ掃除だけじゃだめってことじゃん。
 
私は気持ちが暗くなった。いくら今フリーランスだからといって、毎日掃除に何時間も手をかけることはできない。どうしたらいいんだろう。
 
いやいや、凹んでいるわけにはいかない。目の前にある事実は、「ハウスダストアレルギーの人がいる」と「掃除ができるのはわたしだけ」。さいわい、仕事も落ち着いた週だったので、私は一週間かけて季節はずれの大掃除をすることにした。
 
カーテン、網戸などの年末恒例大掃除だけでなく、かなり細かい部分まで大胆に掃除していく。
季節はずれの大掃除はすぐに乾くというメリットがある。だから、リビングからはじめた掃除は思いの外早く気持ちよくすすんだ。そして最後の関門である、寝室の和室にとりかかることになった。
 
この和室、6畳の広さがあるのだが、そのスペックをフルに活用できていない。なぜなら、2畳分のスペースを「わたしの巣」が占めているから。わたしの過去の仕事関連のスキル本と、過去の企画書、エクササイズ道具が山積みになっているスペースだ。
 
自分なりにはその理由はきちんとあった。本はいつか参考にすることがあるかもしれないからといって勢いよく買ったから。企画書は自分の過去の証だから。そして、エクササイズはたまーにやることもあるから。
 
それらが折り重なっているところをよく見ると、うっすらと白いホコリが。年末の大掃除のときに気がついていれば掃除したが、去年は、私は病気でなにもできていなかったのだ。その前の年は仕事で年末まで拘束されていて、その前も……。と、振り返ってみると、数年にわたってさわった様子もなく、大掃除も手抜きでやっている。
 
なんてこった。もうこれはいいチャンスだ。これに着手しよう。
 
私は急にひよこ鑑定士のようになった。
ひよこ鑑定士は、ひよこの性別を一瞬で見分ける。わたしも、巣のものを「つかっているもの」「つかっていないもの」にすばやく仕分ける。ひよこ鑑定士と違うのは「つかうかも」という第3の選択肢も「つかっていないもの」に分類したことだ。そうすることで、みるみるうちに、「つかっていないもの」の山がおおきくなっていく。
 
この作業をしながらふと気がついた。
あれ? 巣からわたしは気持ちが離れている? 
 
長年巣にあるものを捨てようと思ったことはなかった。私にとっては小学生のトロフィーと同じで「自分の功績」と「自分の未来」がそこに見えると思っていたからだ。
 
いわば、逃げ道を「自分の過去」と「もしできたら」にもとめていた。その逃げ道とは「いざとなったら、過去の経歴を生かしてキャリアアップ」。
 
経験を重ねた場合の転職・再就職活動には必須と言われる「経歴」と「新しいスキルを身につける」。それは、誰かから「できる人・できそうな人」と評価されるためのもの。
 
でも、その評価に振り回されて「本当に自分がやりたいこと」から離れたしごとを過去選んできてしまった。「自分が本当にやりたいこと」をあいまいなままにし、評価だけを求めた結果どうなったか? 方向の定まらないスキル本の山と、結果が目にみえない講座の受講が増える一方、前職ではとうとう体調を崩し、退職を余儀なくされてしまった。
 
でも、今は違う。
 
自分のやりたいことをはっきりと自覚している今は、魅力的な本や講座があってもすぐには飛びつかない。それは目的のために必要なものなのか? を考え、似たような講座と比較しながら、選んでいる。
 
フリーランスになったといっても、あまり大きな変化をじぶんでは感じていなかったけれど、
自分の巣を手放すことで、私が今までと違う道を歩んでいることがわかったのだ。
 
大変なはずだった大掃除がうれしい時間となったからか。あっという間に巣は解体され、そこは畳だけがある空間になった。
 
退院後の夫が見たら多分びっくりするだろう。そのびっくりする顔をみたいから、早く良くなるんだよ、とガランとなった和室を見てニヤニヤしているところだ。

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2018-08-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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