雨女改め、嵐を呼ぶ女
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:河野裕美子(ライティング・ゼミ平日コース)
私は雨女である。
いや、もはや「アメフラシ」と言った方がいいかもしれない。
皆さんは、「アメフラシ」と聞いて、どんな女性を思い浮かべるだろうか。
貞子に近いような、陰気な女性を思い浮かべるのではないだろうか。
そう思われるのが嫌で、私は長い間自分の素性を隠して生きてきた。
自分が雨女だと自覚したのは、実は幼少の時分である。
親戚のみんなで旅行に行ったり、キャンプに行ったりすると、雨が降ることが多かった。
「誰か、雨男がいるんじゃないの~? 名前に「あ」がつく人とか~」といじられやすい私の兄が疑われていたのだが、調子に乗ってふざける兄を尻目に「本当は私なのでは……」となぜだか不安に感じていた。
雨女は、敬遠されがちだ。
聞いた感じもうっとうしいし、何より、楽しみなイベントが台無しになったりする。
自分が雨女だとは思いたくなかったし、そう思われるのはもっと嫌だった。
それに、自分が雨を降らしたい時には、ちっとも効かない。
運動神経が鈍い私は、毎年毎年、運動会が雨で中止になるようにと、てるてる坊主を逆さにつるしていたのだが、雨で流れたことは一度もない。
だからきっと、雨女じゃない。うん。
「運がいい人生なのかどうか、チェックシートで試してみましょう」。
雑誌でこんな記事を見た。
いくつかあるチェック項目の中に「晴れ男(女)である」という項目があった。
そうか、晴れるということは、運がいいってことなんだ。
雨女ってことは、天に見放されてるってことなのね……。
雑誌を見ながら、呆然と落ち込んだ。
「大丈夫よ。私は晴れ女だからー」。
イベント前にこんな会話を聞くと、ドキッとする。
その自信は一体どこから来るんだ。
その人は、太陽みたいにきらめいて見えた。
自他ともに認める晴れ男という人と、出張に同行した。
雨が降った……。
その男性も、首をかしげた。
仕事で海外出張することになった。
季節外れの台風が訪れ、飛行機の欠航が危ぶまれ、急きょ1日早く出発しなくてはならなくなった。
それでも飛行機は遅れに遅れ、カウンターは長蛇の列。
やっと飛んだと思ったら、到着先は真夜中。ホテルも取れず、空港に1泊する羽目になり、ベンチで眠って、トイレでスーツに着替えた。
さすがに周りの人間が気づき始めた。
あいつ、雨女なんじゃないかと……。
仕事でお客様を呼んだとき、季節外れの豪雨だった。
そのことを知った、そのお客様の知人が教えてくれた。
「やっぱりねー。彼女ね、雨女なの。神がついてるのよ」
神? 天に見放された雨女が?
「彼女と待ち合わせするとね、たいてい雨よ。それも土砂降り。
私はかなり晴れ女な方なんだけど、かなわないわね。
それで、彼女と別れると、からっと雨が上がったりするのよ! ほんと不思議。
彼女ね、実は巫女さんなのよ。
雨ってね、神様なの。
昔から、雨乞いってするでしょ。雨は神様に祈って降らせてもらうのよね。
晴れ乞いってしないじゃない。
だからね、雨女には神様がついてるのよ」
……私の目の前の雨がさーっと晴れて、後光が差したかのように見えた。
「私は雨女です。結構強いですよ」
自己紹介で堂々と言う。
晴れ女(男)だと言う人と外出するときは、勝負である。勝率8割である。
ちょっと行きたくない出張。これまで一度も天候不良で中止になったことはない。これを、台風を呼んで潰してやった。
自覚すればするほど、雨女威力は増す。
今では雨どころか、台風まで呼べるではないか!
でも、私が降らせる雨は、私に危害を及ぼさない。
豪雨で何かを失ったことはないし、前述の海外出張も、貴重な体験ができて、とても楽しかった。ネタが増えた。
さて、そんな私、今年は仕事で避難所待機職員に任命された。
避難所が開設されたら、いち早く駆けつけ、避難所を運営する係である。
今年は、台風当たり年だそうだ。
明日にも、私の住む九州へ、台風が向かって来る。
それを切り抜けたら、翌日にはもう一つ台風がやって来る。
避難所職員の私、とうとう台風にねじ伏せられるかと思いきや! 明日、私は出張でこの地を飛び立つ予定なのだ。
うまく台風の雨風をよけ、出張先にたどり着いたら、ちょうど台風が通り過ぎた頃に戻ってくる予定である。
嵐を呼ぶものの、嵐には巻かれない女。
もはや周囲は尊敬のまなざしで見る。
何事も、突出すれば、誇れるものになるのだ。
ちなみに、私の娘は、修学旅行先で豪雨に遭い、常に携帯電話が非常警報音を発していたそうだ。
今回の台風でも、キャンプの予定がかぶっている。
さて、この台風をかわしてキャンプに行けるかどうか、お手並み拝見だ。
「嵐を呼ぶ女2世」は、すくすくと成長中である。
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