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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さわみ(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
私の母は、今年77歳。
不屈の精神を持つ、最強のFighterだ。
 
カーン!
最初の闘いが始まったのは、約10年前。
咳と痰に違和感を覚えた母が、かかりつけの医師に訴えたのが始まり。
「多分違うと思いますよ」
そう言う医師の言葉を遮り「はっきりさせたいから」と総合病院を受診。
「違う可能性の方が高いですが、本当に良いですか?」
そう確認する総合病院の医師の言葉にも「構いません。手術して、しっかり確認して下さい」
周りの反対を押し切り、母の強い意志で手術は決行された。
 
結果、下った診断が『初期の肺腺がん』
「思い切って手術をして正解でした。本当に小指の爪先ほどの小さな癌でした。全てきれいに取り切りましたので安心して下さい」
医師からの言葉は、母の癌の告知だった。
母の決断は正しかったのだ。
この手術で、母は左肺の3分の2を失った。
 
肺がんの再発率は、手術から5年を過ぎると一気に下がる。
手術後、母は2ヶ月に1度の受診を欠かさず、毎回血液検査とCT検査を行っていた。
受診の度に再発の不安を感じていたが、毎回結果は『異常なし』
いつしか、家族の誰もが癌のことを忘れ始めていた。
父や友人と旅行に行き、休んでいた水泳にも通い始め、2ヶ月に1度の受診と検査以外は、以前と変わらない母の日常が戻っていた。
当たり前に、もう癌は完治したものだと思っていた。
 
「もしかしたら、再発しているかもしれん」
突然の母からの連絡。
手術から4年目のことだった。
 
「レントゲンに再発らしきものが見られるので、もう一度取り除く手術を行います」
医師からの説明と二度目の手術。
「大丈夫やろ。全部取ってもらったらスッキリするやん」
「そうやな~。ちょっとがっかりやけど、もう一回頑張るわ」
そんな、手術前の母との会話。そして、予定時間よりもかなり早く終わった手術。
手術室から出て来た医師の説明は、耳を疑うものだった。
「予想以上に転移が進んでいました。非常に難しい場所で、このまま手術を進めるのは危険と判断した結果、手術は中止しました」
母は、もう手術で癌を取り除くことができなくなってしまった。
 
「治す為に、できる限りの治療をして下さい」
手術の経過や自分の病状を聞いて、母が出した決断。
こうして、母の2度目の闘いが始まった。
かなり強い抗がん剤治療の副作用で髪の毛は抜け落ち、白血球値が下がり、感染予防のためのマスクが手放せなくなってしまった。しばらくすると放射線治療も始まった。
度重なる入退院と通院による治療。
それでも癌と向き合って前向きに治療を続ける母の姿は、気持ちの上では決して負けていなかった。
 
だが次第に、母の身体が長引く治療に悲鳴を上げ始めた。
なかなか効果が現れないことも追い打ちを掛け、気丈な母の気持ちが弱り始めてきた。
このままで本当にいいのか? 他にもっと良い方法はないのか?
セカンドオピニオンを受け、家族で話し合った結果、母が決断した。
「他の病院で、もう一度頑張ってみようと思う」
 
「既に末期の状態です。治療を行っても完治することはありません。ただ幸いなことに、他に類を見ないぐらい進行の遅い癌だと思われます。現状維持、もしくは進行を遅らせることを目標に治療をしていくことになります」
今から4年前、転院した病院で最初に医師から言われた言葉。
もう治らない。末期の状態。
気づかないふりをしていた現実が、言葉で突きつけられる。
 
周りの反対を押し切ってまで手術を受けた母。
ずっと、辛い治療を休まず続けてきた母。
治ることを目標に癌と闘ってきた母。
 
何も間違っていなかったはず。
一体どこで、こうなってしまった?
 
「できることがあるうちは、どんなことでもやってみようと思います」
『生』への強い意志を感じる、母の言葉。
私が後ろを向いている場合じゃない、一緒に前を向かなくては。
 
病院での治療は、少しでも効くと思われることは母の意志を尊重して全て行われた。
それでも劇的な効果の見られないまま、ゆっくりと母の病状は悪くなっていく。
 
痛みを口にしない母が「痛い」と言うようになった。
1人で通院していた母が、付き添い無しには歩けなくなってしまった。
太っていることを気にしていた母が、痩せて小さくなってしまった。
旅行が好きだった母が、一歩も家から出なくなってしまった。
 
このまま治療を続けることは、幸せなのか?
辛い時間を長引かせているだけじゃないのか?
そんな迷いの中、医師からの通告。
「できる限りの治療は行いました。もう治験を行った新薬の認可を待つ以外、新たな治療はありません」
ああ、そうか……。
もう、じゅうぶん頑張った。これからはゆっくり痛みを和らげて過ごしたらいい。
納得しようとするけれど、心のどこかでは納得できない母の姿。
 
もう、緩和ケアに移ろうか。
そんなことを考え始めた今年の3月、ついに新薬の認可が下りた。
「この新薬に該当するのは、肺腺がん患者の約2%しかいません。極めて希なケースです。症例はまだほとんどありませんが、効果が出れば起死回生の一発が狙えると思っています」
医師からの説明。
もう、母の身体は治療を行えるギリギリの体力しか残っていない。
どうする?
「そうやな~。せっかく待ってた薬やし、最後にもう一回頑張るわ」
そう言うと思った! きっと大丈夫! 頑張れ!
 
昨年、「これが見納めやし、しっかり目に焼き付けておくわ」と言いながら、五山送り火をじっと最後まで見つめていた母。
今年は並んで一緒に見ながら、11月の母の誕生日の話をしている。
「今年の誕生日は、私が喜寿で、お父さんが傘寿なんや。しかも結婚50年目の金婚式なんやで。それまでは、頑張らんとあかんな~」
ほんまやな。誕生日の日は、家族全員で盛大にお祝いやな。
 
起死回生の一発は、きっと効いている。
だって、私の母は不屈の精神を持つ最強のFighterなのだから!

 
 
***

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2018-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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