メディアグランプリ

まるで、森の中にいるみたいだ。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:末原 静二郎(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は、今、森の中を歩いているような気分だ。
 
うっそうとして太陽の光が届かない、なんとも暗い道のり。
なんとなく、けもの道を歩いているような感じだが、実際、この道がどこに通じているかわからない。
 
しきりに物音がして、体がびくっとなる。
 
とぐろを巻いた蛇がそばにいるのかもしれない。
ハチの巣が近くにあるのかもしれない。
もしかしたら、ヒルがあめのように降り注ぐのかもしれない。
 
なんて恐ろしいことだろう。
 
ただ、いまのところ、大した傷もなく、順調に歩みを進めている。
 
まだ、森に入ったばかりだからだ。
後ろを振り返ると、依然として明るい部分が見える。
 
トンネルの出口のように、まわりの暗さが明るい部分を際立たせている。
 
ただ、眼前に広がる森の奥は、暗くて暗くて、何も見えやしない。
 
それでも、今は歩みを止めないでいる。
 
私の学生生活は、今年の3月で終わりを告げた。
2浪1留した私は、義務教育が始まった小学1年生から数えて
19年間、学生生活を送ったことになる。
 
いやいや、ながすぎやろ。
 
そんなツッコみはさておき、ひとよりは少し遅れる形で社会人になった私だったが、
19年もの学生生活とお別れする日がきたら、どうなってしまうのだろうか、と少しだけ心配していた。
 
が、結局3月の最終日まで、サークルの後輩やらOB,OGたちに囲まれて、遊んで暮らしていたのだった。
 
なんとまあ能天気なことか。
 
先輩や彼女の家を転々としていたので、自宅にも帰っておらず、4月1日に日付が変わるか変わらないか、ぐらいまで外にいたのだった.
 
結局深夜2時くらいまで寝ることができず、教科書で取り上げられるくらい模範的な
「大学生を引きづった社会人1日目」を迎えることになった。
 
なんとなく待っていた。
 
パンパカパーン、パンパカパンパカパーン
 
という音がするのを。
 
記念式典を開いてほしかった。「これで大学生おわりだよ」という合図。
しっかり弔ってやりたかった、私の「学生生活」を。
あいつのために焼香してやりたかったし、弔辞を読み上げたかったし、
手を合わせたかったし、涙ながらにコメントもしたかった。
 
なんなら法事もする予定だった。
 
でも、現実は葬式すらあげなかったのだ。
 
19年間わたしのいつもそばにいてくれた「学生生活」君は、
焼くことも、埋められることも、鳥にくわれることもなかった。
 
哀れなことに、野ざらしにされ、腐ったままだった。
 
目も当てられなかった私は「学生生活」君を抱えて、歩きださなければならなかった。
その生活というのはなんとも過酷なものだった。
 
体は重い、研修中に居眠りをする(ちょっとかっこいいと思ってる)、「~っすねぇ」という語尾で上司としゃべる、会社の机にじっとしていられない、などなど。
 
しかし5月のゴールデンウィークを過ぎたあたりから、気がつき始めた。
 
「あれ、このままだとまずいんじゃね」
 
まじめな同期たちはしっかり前を見据えて自分のタスクをこなしていた。
すっごくタスクにアジャストして、ディレクションをコミットさせていた。
 
私はまだ、オンライン通信で学生と麻雀アプリ「MJ」をやっていた。
週末ごとに後輩と飲み、「大学生に戻りたい」と「カフェやりたい」を唱えていた。
 
ゴールデンウィーク、東京から帰ってきた同回生や先輩と話して気づいた。
自分が「社会人」という先の見えない森の中を歩いていることを。
 
ある人は、たのしそうに森を歩いていた。ある人は戻りたそうに森を歩いていた。
 
学生というのはどこまでも広がっているような平原だった。
将来何するか考えてもいいし、友達と遊びまくってもいい。
でも、社会人は違うのだ。
 
それはうっそうとした森だった。
そこには「仕事」「結婚」「生きる意味」「老い」「親」など
 
いろんな悩みがいくつもの葉っぱとなって重なり、明るい未来が見えにくい状況なのだ。
 
真剣に考える必要があった。そしてそれはもう無邪気なものではなくなっていた。
 
私は、ふと抱えている「学生生活」君を、そろそろ埋めなくては、と思った。
 
この森を進むには、かれは重たかった。
 
「ごめんね、学生生活。もうお別れだね。でも、いつか君を思い出すよ」
 
私はかれを手放した代わりに、道具を手に入れる必要があった。
 
不安で覆い尽くされた木々の枝や葉を切ることができる、ながい枝切ばさみだ。
そして、今、その枝切ばさみを手に入れた。
 
それが天狼院書店でひらかれているライティング・ゼミだ。
毎日記事を書く、という「修業」。
ちょっとでも、私の人生を明るくするために。
将来、やりたい仕事に没頭するために。
私は手に入れたこの枝切りばさめで、不安の葉っぱをパチン、パチンと
一枚ずつ切っていくのだ。
 
それが死んでいった、「学生生活」君の弔いにもなるだろう。
 
いつか、学生ばりの明るく開けた土地を目指して、
今日も、コツコツ、パチン、パチン。

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2018-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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