ぼくのヤバいTシャツ
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記事:千葉美紀(ライティング・ゼミ平日コース)
「あはは、あそこだよ~」
「何あれ?」
その日、外から大爆笑する声が聞こえてきて、待っていた友人達が到着したことがわかった。相変わらず賑やかな人達だ。それにしても、何を笑っているんだろう。
当時、結婚したばかりで、引越し先のアパートに友人たちが訪ねてきた。晴れた日で、洗濯物をベランダに干していたのだが、その中のあるTシャツを見て、笑いが起きていた。白地にブッチャーのイラストが描いてあるものだった。ブッチャーというのは、昭和の有名なプロレスラーで、漫画風のイラストだが、特徴をよくとらえていた。同世代の友人たちは「ブッチャーだ」と口々に言って、笑っていた。プロレス好きの夫が気に入ってよく着ていたTシャツ。わたしは見慣れていたので、何とも思っていなかったが、その辺の店では見掛けない珍しいTシャツだ。部屋番号は知らせていたが、友人たちはTシャツを目印に、たどり着いた。私は恥ずかしかったが、夫は嬉しそうだった。「この額の傷跡がポイントなんだよ」とイラストについて説明していた。
夫は服装に無頓着だ。パンツや靴下は、洗濯して干してあるものを取って使うので、2セットあれば足りる。職場では決まった作業服に着替えるので、Yシャツやスーツも必要最低限。でも、Tシャツだけはたくさん持っていて、着まわしている。Tシャツの種類はだいたい3パターンある。プロレスラーの写真やイラストのもの、好きなミュージシャンのライブなどで購入したもの、ゲームやアニメのキャラクターが描かれたものだ。おしゃれにあまり自信が無いわたしでも、夫のファッションセンスは微妙だと思う。絶妙と言えれば、良かったんだけど。
そして、夫は自分の服装だけではなく、他人のファッションにも無頓着だ。今日会った人が、どんな服を着ていたかも、まるでわからない。赤とかピンクとか、目立つ色の服を着ていたことくらいは、覚えているようだ。服だけではなく、髪型やメイクもよく分からないので、ノーメイクや手抜きメイクで、あれこれ言ってくることがなく、その点は助かっている。
最近、わたしは、新しいTシャツをプレゼントした。白地に漫画の主人公のイラストが描いてある。太い眉毛の破天荒な警察官、「両さん」のイラストだ。ネットショップの送料対策で、ちょっとした遊び心で買ってみたのだ。夫はその警察官が登場する漫画、通称「こち亀」が大好きなので、絶対に喜ぶだろうと思っていた。でも、意外な反応だった。
「これ、いつどこで着るの?」
その日も微妙なTシャツを着ていたのに、そんなことを言うのだった。
「さすがに部長には見せられなかったよ」
結局は、職場にも着ていくようになったが、作業服の下のこち亀Tシャツを、上司に見られないよう、帰りの着替えのタイミングをずらしたらしい。いい年齢のおじさんが、漫画キャラのTシャツを着るわけにはいかないと思っているのかな?
もう一枚、よく着ているキャラクター系のTシャツがある。黒地に「キングボンビー」が描かれている。「桃太郎電鉄」というゲームに登場する悪役キャラだ。ゲームの目的の駅へ到着するのが、ビリだった人にくっつき、持っている財産を奪いとる貧乏神が「ボンビー」で、中でも「キングボンビー」は、とりついた人に、何百億円もの借金を背負わせる威力を持っている。随分前に購入したTシャツだ。着ていると貧乏になってしまいそうで、嫌だなと思うのだが、夫は平気で着ている。キングボンビーの方が他人に見られたくない、とわたしは思うが、自分で選んだものは、やはり気に入っているようだ。
おしゃれな旦那さまがうらやましいな。旦那さまをおしゃれに演出するために、奮闘する奥さまも多いと思う。人間は中身だと言うけれど、外見の印象は強いから。着ている服や小物が、身に着けている人の人柄を物語る。服装の力を借りて、偽ることもできる。多少、ルーズな人物でも、就職の面接なんかで、ビシッとスーツを着ていたら、きちんとした人に見える。
ファッション改造してみたいけど、うちは無理そうだ。絶対、喧嘩になる。
服装で人となりを判断するという点では、夫はとても分かりやすい。なにしろいつも、自分の好きなもののTシャツを着ている。ブッチャーやスタン・ハンセン、キングボンビー。ボンビーはもうやめてほしいけど……。
みんな、センスはそれぞれ違う。おしゃれが無理なら、個性で笑いをとる方向に行くしかないか。自由に、好きな服を楽しんで。
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