キーボードが近いうちになくなるとわかっていてもタイピングを練習すべき理由
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記事:山内英治(ライティング・ゼミ特講)
なぜか「キーボード」がなくならない。
おそらく何十年も前から、おそらくはキーボードを使ったほとんどのヒトが、こういうものは近いうちに技術が進化してなくなるものだろうと思っていたに違いない。
なんと言っても無骨でスマートじゃないしかっこ悪い。そもそもボタンを100個もスキマなく並べて、自由自在に押し分けろとは、人間無視もいいところだ。不思議な鳥のポーズでずっと立っていたり、針のベッドに寝ていたりするヨガ行者に近いような気さえもしてくる。でもみんながやっていて必要だからと言われると、訓練によって適応できてしまうところが、「ヒトは社会的動物」と言われる理由なのかもしれない。
私自身もそうやって素直に訓練してきた。あるときソフトウェア専門の道に進学することを決めたから、当時手元にあったMSXというパソコンと、インターネットがなかったので本屋で買ってきたブラインドタッチの教則本を並べて、自主的に練習した。当時は独学でピアノを練習したりしていたから、それに比べたら訓練としてはとても楽なほうだった。
学生時代には、かな文字も覚えていたがローマ字でも十分速いのでかな文字のタイピングは使わなくなり忘れてしまった。そもそも、タイピングのスピードよりは、見たり考えたりするほうが時間が長くかかるので、実際上そこまでスピード追求しなくても実害はない。だが、何も考えずにただひたすら打ち込むような仕事も当時は普通にあったから、かな文字タイピングも多少有利に思えた。
当時の職場には、一本指で両手でバシバシバシバシと打つヒトも普通にいた。一本指打法も伝統的なブラインドタッチも、一定のスピードまではあまり変わらないので、一本指打法のほうが訓練期間がなくていいように思えた。しかし、一本指打法にはあきらかに限界が来る。一定以上にスピードが伸びなくなるのだ。これに対して、ブラインドタッチのほうは、習熟度が上がっていくにつれて加速度的にタイピングスピードが伸びていく。ネットの仕事について毎日毎日打っていたら、文字通り「目にもとまらぬ速さ」で打てるようになった。
ネットの仕事をしていると、テクノロジーの発展や変化のスピードを、他の業界よりも身近に超リアルに感じることができる。だから、この手元にある旧態依然とした無骨なキーボードというものは、まっさきに駆逐されて消えていくもののように見えるのだ。実際に、キーボードをおきかえるためにいろいろなデバイスが生まれては消えていったし、ガラケーで打つほうが速いという人種が現れたり、スマホではフリック入力なるものが現れ、これでいいんじゃないかという風潮も少し出た。
しかし、なくならない。いまのところ、キーボード以上に効率よく速く入力できる方法がない。
ここ数年でディープラーニングが大ブレイクし、AI(人工知能)が音声をとらえて文字に変換してくれる機能が出てきた。実はいまは、WindowsでもMacでも最初から普通に使える。でも遅いのだ。音声入力して修正している間に、つまり機械の相手をしている間に、AI抜きで自分でタイピングしてしまったほうがずっと速い。効率がよい。そもそも「話して書き起こしてもらう」という作業に普通のヒトは慣れていない。たとえば、1時間しゃべってそれが正確に適度に校正されて書き起こされたとして、読めるものになるのだろうか。普通の頭脳では、読むに耐えるものにはならない。
そして、キーボードでの入力スピード向上が、仕事のスピードを押し上げる。
私が見てきた現場では、プログラマ、エンジニアと呼ばれる職種で特にその差が激しい。実は最近のソフトウェアでは入力を予測し補完してくれる機能がどんどん充実して、十分なスピードが出るようになった。しかしこれもAI音声入力と似て、出てきた選択肢から適切なものを選ぶよりは、自分で打ったほうが速い感じがする。エンジニアはいまでも機械を動かすための命令(コマンド)をキーボードから文字で入力するが、このスピードも作業スピードに直結する。
もちろん、文章を書くためのライター職やディレクター職、企画書を書くプランナーでも、キーボードの入力スピードは仕事のスピードにかなり重なる。手書きの資料は、変わった芸風として話題になるぐらいめずらしいものになった。
さらに深刻なのは、チャットツールの流行だ。
何人かのグループでチャットする機能は今も昔もたくさんあったし、ビジネス用SNSが流行したことも合った。しかしここ数年で、グループでのチャットをビジネスに使うマーケットができてきたのだ。「Slack」「ChatWork」というサービスが代表的だ。
こうなると、「タイピングスピード=発言量」になることは間違いがない。発言量はだいたいの場合「発言力」に変わる。口数が多いほうが発言力を増してグループをリードしていく様子は、学校でも職場でも誰もが数限りなく見てきただろう。それが、タイピングスピードに依存するようになったことに、数十年単位の変化の波を感じるのだ。
だから、キーボードがいつか近いうちになくなるとわかりきっていても、仕事のスピードが上がり、発言力が上がって、大人として社会の役に立つために、タイピングスピードを上げる訓練をすべきなのだ。
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