同じ顔で歩いていこう
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記事:よくばりママ(ライティング・ゼミ日曜コース)
どういうわけか、似ているのだ。
まずは、夫と息子がとてもよく似ている。
おおらかな性格で忘れ物が多く、得意げな感じのする「そうやで」の言い回しがそっくりだ。
そして、何より顔が似ている。口を開けて寝ている姿は大小のマトリョーシカのようだ。
そして、そんな夫と似ているのだ、わたしが。
二人の家族観やお金の使い方、仕事に対する考え方といったいわゆる“価値観”がとてもよく似ているのはわたし自身知っている。だが、気になるのはそこではない。どういったわけか“顔”が似ていると知人に言われるのだ。
さらに不思議なことに、そんなわたしと夫の母も似ているのだ。
“顔”だけでなく“雰囲気”までもが。
これは一体どうしたことだろう?
イヤなわけではない。ただ、なぜこうなってしまったのか、思わず首をかしげてしまうのだ。
夫と息子が似ているのはわかる。彼の中に流れる遺伝子の2分の1は、間違いなく夫のそれと同じだからだ。
だから、夫と息子が似ているのは理解できる。よくあることだと。
では、なぜわたしは夫と似ているのだろうか。一昨年、一緒に購入した黒い太めの眼鏡フレームが大きな原因だろうか。眼鏡は顔の印象を決める大きな要素だ。ならば、一見して同じような眼鏡をかけているわたしと夫の顔が似ているというのも頷くことができる。うん。眼鏡の仕業なのだなと。
ならば最後、なぜわたしは一緒に暮らしてもいない義母と同じ空気を醸し出しているのだろうか?
遺伝のチカラはない。眼鏡のチカラもない、にもかかわらずだ。
『朱に交われば赤くなる』
有名なことわざだ。
夫のもとに嫁いだわたしは知らず知らずのうちに赤くなってしまったのだろうか。はたまた、もともとわたしも赤かったのだろうか? ぐるぐると疑問が頭のなかを旋回する。
大きくひとつ息を吐き、ゆっくりとこれまでの事を思い返してみる。
我が家では息子と娘が保育園に通っており、朝の送りは夫が、夕方のお迎えはわたしが、と役割分担をしている。仕事や用事で対応が難しいときには、近所に住む義母にもときどきこどもたちの送迎を手伝ってもらっている。
つい先日のこと。朝いつものように保育園へこどもを連れて行った夫が、夜遅く仕事から帰ってくるなり聞いて聞いて! と心の声が聞こえてきそうなテンションでわたしに話かけてくる。こんなことを先生に言われた! と。
「え! おばあちゃんはママのお母さんじゃないんですか? そっくりですよ!」
保育園の先生の目には、わたしと義母が実の親子に見えていたらしい。むしろ、義理の関係と考える余地すらなかったようだ。そういえば、七年前に長男を産んだときも、昨年に娘を出産したときも、お世話をしてくれた看護師さんにまったく同じことを言われていたことも思い出した。
結論からいうと、客観的にみてわたしと義母はそっくりらしい。
ただ、よくよく観察してみると、どうやら似ているのは顔だけではないようだ。
たれ目がかったたぬき顔
一見無害そうなほわっとした雰囲気
動物全般が好きで、特に大の猫好き
食べ物全般の好み
国内外問わない旅行好き
部屋に小さなごみが落ちていたら拾うような几帳面な性格
よそはよそ、と他者に干渉しないところ
化粧品っけがないところ……
そんな風に指折り数えていくにつれ、だんだんとわたしの中にある仮説が浮かび上がってくる。
それを確かめようとおそるおそる義母に質問を投げかけると、想定以上の回答が斜め上から返ってきた。
「せやねん。わたしも昔よくそう言われてん。親子そろって母親と同じタイプの人を相手に選ぶねんなあ」
仮説は正しかった。
夫は母親に似ているわたしを選び、義父も母親に似ている義母を選んでいたのだ。
色んなことが一挙に腑に落ちた瞬間だった。
と同時に、一瞬の脳裏によぎるのはこれからのことだ。
将来、わたしは、わたしに似た人を息子に紹介される可能性が極めて高いのかもしれない。
紹介されたとき、わたしは一体どんな顔をしているだろうか。笑っている? それともあきれているのだろうか。
とはいえ、実はわたしは義母ととても仲が良い。
嫁姑の争いなんてものとはまったく無縁の状態で、これまでイヤな思いをしたことは一度もない。また、わたし自身、義母のことを疎んじたり、悪く言ったことも一度もない。世の嫁姑の憤懣を耳にするたび、どこか居心地の悪さを覚えるほどだ。
夫と息子が似ている。
わたしと夫が似ている。
そして、わたしと義母が似ている。
結局は、みんな似ているのだ。
でも、イヤなわけではない。
幸せの伝播と考えると何やらくすぐったくもあるが、イヤではないのだ。
もしも似てくることが幸せのバロメーターとでもいうのであれば、それも面白い。
どんどん似ていってやろうとすら思える。
だから、将来、新しく似ている家族が増えるのであれば、それも楽しみの一つなのかもしれない。
あなたの家族、みんな同じ顔だね。
最上級の褒め言葉を胸に、さて、今日も同じ顔で歩いていこうか。
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