新人さんは、俺のドッペルゲンガー
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記事:藤野終夜(ライティング・ゼミ日曜コース)
「じゃあ次の仕事に行きましょうか」
そう言って俺は、新人の加藤さん(仮名)と一緒に次の仕事に取り掛かった。今俺の見習いについている加藤さんは最近俺が働いている介護施設に新しく入ってきた新人さんだ。年は俺より上の50代くらいの男性だ。介護の仕事は初めてだけど、それでも加藤さんなりに介護の仕事を覚えて、自分のものにしようと頑張っている。今はまだ見習いだけど、この見習い期間が終われば加藤さんも独り立ちして、自分一人で仕事をしていかないといけない。だから先輩である俺は責任を持って古賀さんに仕事を教えないといけないから、そのプレッシャーがハンパない。俺がもし間違った仕事の仕方を教えてしまったら、間違ったままの仕事を加藤さんが覚えてしまい、いざ独り立ちして仕事をしようとして、周りの職員達から「加藤さん、そこは違うよ」なんて注意されたら、それは間違った仕事を教えた俺のせいって事になる。そうなると、後で怒られるのは俺だ。後で怒られるのは嫌だ。だからこそ新人の見習いがついた時は、責任を持って仕事を教えないといけない。新人の為に、俺自身の為に。そう気を引き締めて、俺と加藤さんは仕事に取り掛かった。
人に仕事を教える事がこんなにも難しい事だとは、今の職場である介護施設で働くまで思いもしなかった。何しろ今まで働いてきて、周りの先輩達から仕事を「教えて」もらってばっかりだったので、自分から人に仕事を「教える」事が無かった。だから、俺がいつか新人や後輩に仕事を教えていかないといけない、なんて全然考えもしなかった。俺が仕事を教えることなんてないだろう、とタカをくくっていたかもしれない。そんな風に甘い考えを持っていたら、ある日そのツケが回ってきた。俺が独り立ちして、職場に新しく入って来た新人に、先輩としていざ仕事を教えようとした時に、その難しさに直面した。
先輩達から教わった通りに仕事を教えようと頭の中では思ってるのに、言葉にしようとしたら中々伝わらない。伝えたとしても、これでいいのか不安になる。間違って無いか、これで合ってるのか、言い忘れた事はないか。頭の中でモヤモヤしながら教えていたら、肝心なところで口がごもったり、教え忘れがあって後から上司に怒られた事もあった。そんな自分自身に情けない、といつも思っていた。自分がちゃんと責任を持って新人に仕事を教えないといけないのに、全然出来ていない。他の先輩達はちゃんと教えているのに、なんで俺は出来ないんだろう。先輩達と俺とじゃ何が違うんだ。考えても分からない。どうみても俺に原因があるのは分かっているんだけど……。見習いについた新人にその日の仕事を教え終わった後は、体の疲れに加えて、精神的に落ち込む事もあった。そして次第に新人に仕事を教える事に対して、憂鬱になり、「もう嫌だ」なんてネガティヴに考える様になった。
でも、いつまでもこのままじゃいけない。どうしたらいいのか。頭の中であれこれ考えていたある日、ある考えが頭の中にパッと閃いた。「あ! そうだ! ドッペルゲンガーだ! これならいける!」と。パッと閃いただけだから根拠は無かった。けど、その後も色々と考えていたら、ある方法を思いついた。
今まで上手く仕事を教える事が出来なかったのは、俺自身が他人とのコミュニケーションに対して苦手意識があったからだ。誰かと会話しようとする時、特に初めてあった人と話そうとすると変に緊張してしまう事がある。嫌われたくない、失敗したくない、と頭の中で強く思っていると、体が緊張して、上手く話せなくなる。今ではそれが癖になっている。だから新人に仕事を教える時も、いつもの癖で緊張して、上手く話せずに、仕事を教える事が出来なかった。新人を一人の人間、他人として意識するからダメなんだ、とこの時ようやく分かった。
だったら、これからは新人を一人の人間と意識せずに、ドッペルゲンガー、つまりもう一人の自分なんだ、と頭の中で意識すればいいんだ、と結論を出した。新人を新人と思わずに、新人をドッペルゲンガーであるもう一人の自分と思えば、緊張する事も無いと思う。何しろ目の前にいるのは自分自身。それも目の前にいる新人と同じ様に、これから仕事を覚えようとしている昔の自分だ。自分対自分なら緊張する事も無い。自分に気を使う必要はないので落ち着いて仕事を教えられる。これならいける、と思った。頭の中で相手をドッペルゲンガーに置き換えたらいいだけだから。それに、本当の都市伝説みたいに頭の中でドッペルゲンガーを見ても、俺自身に何か起こるわけじゃ無いから大丈夫だ。良し! これからはこの方法でいこう、と決めた。
今までは見習いについた新人に仕事を教える事が苦手だった。でも、もう大丈夫だと思う。自分なりの方法で苦手を克服した今なら、ちゃんと仕事を教えられる。これからは先輩として自身を持っていこう、と心の中で決意した。
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