45歳からの習い事で、大切な事に気づく
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:あさのあきお(ライティング・ゼミ日曜コース)
「何事も、指示されたことを素直に聞いて黙ってやる! 口答えはもってのほか!」
今から30年ほど前に、父親が就職を前にした私にこんな言葉を贈ってくれた。
戦前生まれで、中学を卒業して丁稚奉公から始め、独立して小売業を営んでいる父の言葉は心に響いた。
工業高校を卒業し、右も左も判らないまま社会に出て、知らない事だらけ。
さすがに鉄拳制裁はなかったが、上司も先輩も怖かった。
指示されるが理由は教えてくれない。
とにかく言われた事をする。
言われた事出来ないと、目一杯怒られる。
毎日毎日そんな日が続いた。
思い通りに出来ない事で、悔し涙を流しながら帰った事もあったが、いま思えば、入社当時は基礎の基礎を、上司や先輩に叩きこまれた。
怒られても、怒られても、上司や先輩の言う事を素直聞く事が出来たのは、父が贈ってくれた言葉のお陰だと思う。
それから25年が経ち、
中間管理職になって、人に教える事はあっても、教わる機会は無くなってきていた。
それだけでは無い。上司からのアドバイスや、同僚や部下からの意見もなかなか素直に聞けなくなってきていた。
気が付いたら、父親の言葉もどこかに行ってしまっていた。
しかし、あるキッカケで、父親の言葉を思い出す機会が訪れ、自分が変わる機会を得る事になった。
「来月の第3土曜日に、ゴルフをするから!」
と、上司から、突然声を掛けられた。
新しく取引を始める取引先と懇親を深めるために、窓口の一人の私に声が掛かった。
あまりに突然の事で、15年ほど前にかじった程度で、転勤を機にクラブを握る事もなったクラブを、倉庫から出してきたが、さすがにこんな古いモノでは使い物にならない。
そこで、弟が使っていたクラブ一式を貰い道具は何とか用意した。
「さて、どうなることやら?」
自宅近くの練習場で15年ぶりに恐る恐るボール打ってみる。
ドン! とかドスン! とかと、鈍くて太い音が練習場で響き渡り、ボールは右へ左へと、まっすぐ飛んでいかない。
ゴルフ用語で「ダフる」って症状で、ボールに当たる前に、地面にクラブが当たって、それからボールに当たるから、ドンとかドスンって音がしてしまう。
15年ぶりとは言え、15年前も初心者に毛の生えたようなゴルファーだったから、こんな事になるだろうとは、想像していたが、想像通りの何球打ってもボールは右へ左へと行ってしまう。
「やばいなぁ これは相当迷惑を掛けるぞ……」
初心者の頃がフラッシュバックする。
「ここで降りて、上のほうにボールが行ったので探してきます!」
初めてのラウンドの事だった。
カートから一人下りて、クラブを3本抱え、山の上へ自分のボールを探して打つ。
ゴルフ練習場では平らな所で打つから、立っている場所が傾いていて、当然ボールも平のところでないから空振りはするわ、もっと山の奥のほうへボールが行ったりして、もう頭の中はパニック。
仲間からは「とにかく初心者はクラブを3本もって走れ!」と、忠告されていた。
同伴者に迷惑をかけないために、初心者や下手は急がなくてはいけない。
松山英樹や石川遼のように芝のカーペットを悠然と歩くなど夢のまた夢。
「何が悲しくて、お金を払ってまで走るし山登りしなくてはイケないのか!」
と言いながら、ボールがある方向に向かって山を登った事を思い出す。
初心者は、大なり小なりこんな経験を誰でもするのだが、45歳になって同じ轍を踏むのかと、冷や汗が出てきた。
その時、練習場に貼ってあった、ゴルフスクールのチラシが眼に入る。
「よし、スクールに入って習おう」
我流でやっていても全く上達しなかった反省を踏まえて、習う事にした。
それから、45歳からの習い事が始まった。
「言われている事は頭で理解できても、身体で表現できないですぅぅぅ」
一回りも年の離れた女性のインストラクターに、iPadで自分の無様なスイングを見せられ、ついつい泣き言が口から出てしまう。
なかなか身体が言う事を聞いてくれない。
自分の事だけど、自分では判らない。
だからこそ、客観的に自分を見てくれる人からのアドバイスは素直に聞けた。
スクールに通い始めて5年。
残念ながらゴルフの腕はなかなか上がっていない。
弟からも仲間からは「5年もスクールに通ってこのザマか!」と、なじられるが、
そんな事よりも、大切な事に気づく事が出来た。
「人の言う事を素直に聞く」
社会人になりたての頃、自分のダメさを素直に認めていたから、上司や先輩から怒られても、素直に聞けていたと思う。
しかし、時は経ち、知らず知らずのうちに、人からのアドバイスを素直に聞けない自分になっていた。
そんな頃に通い始めたゴルフスクール。
会社での過去や実績も、自信や自負も関係ないからこそ、自分のダメさを素直に認める事が出来て、素直にアドバイスが聞ける事が出来た。
これをキッカケに、父親からの言葉を思い出し、社内人になりたての頃の自分に出会えた。
「習い事」は、習いたい事を習得するだけじゃなく、まったく想定もしてない学びや気づきがある場だと体現する事が出来た。
だからこそ、いま天狼院のゼミを受講している。
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