メディアグランプリ

もっと高いものを売ってくれ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:藤崎 香奈子(ライティング・ゼミ木曜コース)

旅行したらその土地の名産を食べるのは欠かせない。私も含め、多少高くても財布の紐が緩む方は多いだろう。

「活イカが食べたい、透明なイカが!」

普段スーパーで目にしているイカの刺身は白い。でもさばいたばかりのイカは透明に透き通っていると言う。ああ、活イカ食べたい。コリコリとしているのだろうか、甘いのだろうか。

そんな妄想で頭をいっぱいにしながら羽田を飛び立つ。向かったのは長崎県佐世保だ。

残念ながら旅行ではなく、研修で向かう。自由に食事を楽しめるのは到着の夜のみ。一食入魂。店選びに気合いがはいる。

夜なのでせっかくだから一杯やりたい。そうするとチャンポンや佐世保バーガーではダメだ。長崎と言えば海鮮。新鮮な海の幸をゆっくり食べながらチビチビ呑むのだ。

というわけで活イカである。

インターネットで検索したところ、ホテルの近くに人気の居酒屋さんがあるらしい。そしてそこの名物は活イカ。これだ、ドンピシャだ。店はほぼそこに決めつつ、現地の人の意見も聞こうと思う。タクシーの運ちゃんにその店の評判とオススメの店をリサーチ。

「ああ、その店ならそこ曲がった所にあるよ。でも混んでるからなあ。並ぶかもしれないよ」

「そうなんですかー。他に美味しい海鮮が食べられて、女性がひとりで飲める店あります?」

「そんならホテルの近くに俺の行きつけがあるよ。もうすぐ閉まるから、電話して開けとくように言ってあげる」

そう言うなり大通りの交差点で右折しながら電話をかけるタクシーの運ちゃん。あ、待って。もう閉まるという事はゆっくり飲めないのでは〜、と言う間もなく予約されてしまう。

嫌な予感は的中した。そこは安くて量が多い海鮮どんぶりの店だったのだ。ムッとくるタバコのにおい。ダメだ、せっかくの夜をここで済ますわけにはいかない。

この店、確かにタクシーの運ちゃんにはいい店だろうと思う。サッと食べられ、ボリューム満点。メニューは650円からでお財布にも優しいし、タバコも吸える。運ちゃんのとっておきの店を紹介してくれたのだろう。ありがとう、気持ちだけいただいておくね。

待ってくれていた大将に、ゆっくり飲みたいので、とお詫びをし店を辞する。そして狙っていた居酒屋へ。

ラッキーな事に雨だったので並ばず入店できた。よっしゃー食べるぞ。活イカちゃん。

店は地元のサラリーマンでごった返していて大賑わいだ。この中で一人は少々寂しいか? と思っていたら店の奥にはカウンターが。しかも目の前は生簀である。ひとりで飲むには完璧だ。

当店の人気メニュー10選の文字が目にとまる。ナンバーワンはもちろん活イカ2000円だ。

「すみませーん、ビールと活イカお願いします」

お店のおばちゃんの顔がちょっと曇る。

「活イカ、女性には多いかも、それにちょっと高いし、後造りもあるし」

そうか、活イカと言えばイカを丸々一杯食べるという事。確かに多いかもしれない。残すのは嫌だし、他のものも食べたいしな。日和った私はイカ刺しとハーブ鯖に変更する。

そして届けられたイカ刺しは……。

「白い! 透明じゃない!」

ショックである。透明なイカ刺しはどこへ行ったんだ。美味しいけど普通、普通のイカ刺しだよ!

その後、生簀に入っていた不思議な形のエビ(ウチワエビと言うそうだ) を頼もうとしても、あれも高いなどと止めるおばちゃん。

ムムー、今日は少々高くてもいいのだ。どうか止めないでくれたまえ。

そこで私は別の戦略を取ることにした。おばちゃんがいない隙に外国人バイトのおにいちゃんに天使の海老(3匹で850円)や、海鮮茶漬け(1200円)など高めの料理を頼む。

おばちゃんが来た時には、すり身揚げ(400円)などリーズナブルな人気料理を頼む。ふふふ、おばちゃんよ、あなたの知らない間にちょっと高いものも食べていますよ。

結果として天使の海老とすり身揚げは抜群に美味しかった。たいへんに満足だ。そして最終的にはなかなかのお値段になった。

タクシーの運ちゃんもお店のおばちゃんも、なぜか私の懐具合を心配してくれてリーズナブルなものを勧めてくれた。確かに、普段だったら2000円の刺身を一人で食べたりはしないと思う。でも今回は一食入魂の夜。はじめての長崎なのだ。

旅行だったり、臨時収入があったり、何かのお祝いの時だったり。いつもよりリッチに食事したい時がある。タクシーの運ちゃんだって、居酒屋のおばちゃんだってそういう時があるだろう。だから高いかどうかは私に決めさせてくれ。

結局おばちゃんのストップが入り、活イカとウチワエビを食べ損ねた。それをこうしてこんな文章に書いてしまうくらい未練が残っている。食べ物への執着とは恐ろしいものだ。

また必ず長崎に行こう。そして今度こそ何を言われようとも活イカを食べてみせる。でも本音を言うと、もう一度食べたいのはすり身揚げだなあ。あれは美味しかったですよ。
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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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