メディアグランプリ

自分が嫌で仕方なかったあの日、ほんのささいな出来事で前向きになれたお話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:戸田タマス(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「どうしてこんなにダメ人間なんだろう……」
 
私はため息をついた。
 
 
この日は朝から失敗ばかりだった。
まず朝は、玄関に燃えるゴミの袋を置いたままにしてしまった。帰宅したら、待ち構えていたマンションの管理人さんに怒られてしまった。
仕事中もたくさんミスをした。上司に報告を間違えたり、書類を準備し忘れたり……。不思議なことに、気をつけなければと思えば思うほどドツボにはまり、次も失敗した。
そして夜、スーパーで買う予定だったメインの肉を買い忘れ、晩ごはんがメインなしという微妙なものなった。極めつけは、一日中散々だったせいでイライラして、夫や子供に当たってしまい、夫と大ゲンカになった。
 
 
怒った夫が先に寝室に行ってしまい、誰もいなくなったリビングで1人、
 
「ほんまに自分が嫌やわ……」
 
と頭を抱えた。
 
 
 
 
私は、決してデキるタイプの人間ではないが、今の仕事はとても好きだし、職場の同僚にも恵まれているおかげで、なんとかやれている。
ただ、仕事も含めて今の自分の現状が、自分が理想とする自分とあまりに違いすぎて、苦しい時がある。
そして、どんどん自分を嫌いになるのだった。
 
新社会人だった10年前は、30代の先輩たちを見て、
「自分も30代になれば、かっこよく仕事で活躍できるようになっているんだ!」
と思っていたし、
子供が生まれる前は、仕事や家事をバリバリ頑張るママを見て、
「自分もママになったら、こんなかっこいいママになろう!」
と、ひそかに決心したりしていたのに。
 
 
私はスマホを取り出し、何気なしに
 
「自分 嫌い 好きになるには」
「理想の自分 なれない 苦しい」
 
などと検索してみた。たくさんのサイトがヒットし、いくつか見てみるが、心のモヤモヤは晴れない。
 
「こんな検索しても、意味なんかないねん……」
 
私はダイニングテーブルに突っ伏した。
 
 
仕事でかっこよく活躍していない自分、イライラして夫や子供に当たってしまう自分。
机に突っ伏したまま、ずぶずぶと沼に沈んでいくように、自分をどんどん嫌いになっていった、その時、
 
 
 
「ママ~……」
 
眠っていた娘が起きてしまったのか。寝室からか細く、泣き声が聞こえた。
続いて、夫が娘をあやす声も聞こえだした。
しかし、なかなか娘が泣き止まず、本格的な夜泣きになってしまった。
 
 
「ママ~~!!」
 
泣き声がだんだん大きくなる。
寝室に行くべきか悩んでいると、夫が寝室のドアから顔を出した。
 
「もう俺じゃあかんわ、ママお願い!」
 
 
 
 
寝室では、しゃくりあげて泣く娘がベッドの上にちょこんと座っていた。
私は、
 
「普段夜泣きなんてしないのに、今日はどうしたん?」
 
と言いながら、娘を抱き締めながら一緒に横になった。
私が来てからも、娘はしばらく泣いていたけれど、少しずつ声が小さくなり、最後は私の指をチューチュー吸いながら寝てしまった。
 
豆電球の明かりだけの薄暗い寝室の中で、夫が言った。
 
「目が覚めちゃった時ママがおらんくて不安になったみたいやわ。俺も頑張ったんだけどな。やっぱりママが一番好きなんやなあ~」
 
さっきまでケンカしていたせいもあってか、夫はすぐに私に背を向け、ベッドの上で丸くなった。
 
 
 
 
私はあどけなく眠る娘を見ながら、さっきまでのモヤモヤが軽くなったのを感じていた。
 
 
どれだけ自分が自分のことを嫌いでも、
「あなたが一番好き」だと思ってくれる存在がいる。
その事実が、こんなに気持ちを楽にさせるなんて。
 
 
まだ娘は一歳半。ママが大好きなのは当たり前。
この出来事も、世界中のママが経験する、本当によくあることだと思う。
自分がたくさん失敗をしてしまうことに対しての、根本的な解決策にはなっていないことも分かっている。
夫も、おそらくひがみの意味で「ママが一番なんやなあ」と言ったのだと思う。
 
 
 
しかし、さっきまでリビングで突っ伏していた時には、一切前向きなことは浮かばなかったのに、
 
「朝になったら、ちゃんと旦那と娘に謝ろう」
「失敗したことは、次はちゃんと気をつけて、二度としないようにするしかない!」
「明日の晩は、今日作れなかった分、ちょっと豪華なお肉料理にしようかな」
 
と、自然に思うことができたのだ。
 
 
 
寝付いてしまった娘と夫を残し、私は一旦リビングに戻った。
まだ片付けなければいけない家事もあるし、娘の保育園の準備もしていない。
私は、もうダイニングテーブルには座らず、スマホも手に取らなかった。
 
「さて、また明日から頑張らなくちゃ!」
 
そう思って、エプロンの紐を締めなおした。

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2018-10-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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