「普通に働く」ことの立派さに気づくにも時間がかかる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:和田のりあき(ライティング・ゼミ日曜コース)
頑張ることが嫌いだ。
頑張ることが嫌いなのでより自分に向いた役割を探し続けていた。
その結果、傲慢になってしまった自分がいる。
15年前に会社を辞めて主夫になった。
仕事よりも子育ての方が自分には向いていると思ったことと、妻が稼いでくれることが理由だ。
楽勝でできると思った。働くよりもはるかに簡単で楽だと。
でも、始めて1週間で後悔した。
社会から切り離されて0歳の赤ちゃんと24時間一緒にいる生活は、想像以上にしんどかった。
娘が成長していっても、エンドレスな炊事・洗濯・掃除を繰り返す生活は大変だった。
「主婦のみなさん、主婦業ナメててごめんなさい」と思った。
主夫を始めたとき、普通の働いている父親たちからよく聞いた言葉がある。
「主夫やってて不安じゃないの?」と聞かれた。
「男ならやっぱり稼がなくちゃ」と言われた。
「妻に稼いでもらうって恥ずかしいよな」と断言された。
ムッとした。
「自分は稼ぐ代わりに家事育児という役割をやってる。
稼ぐつもりなら人並みには稼いでる。
自分は子育てをするために稼ぐという選択肢を選んでいないだけだ」
直接相手に反論はしないけど、そういう言葉を聞くたびに表面上はあいまいにうなづきながら心の中では思っていた。
いや、本心はもっと過激だ。
主夫業をしている自分は一般男性よりも難しく価値のある役割をしている。少数派の自分は普通に働いている多くの父親よりも上にいると考えていた。
今振り返れば、そう反発しないと主夫をやっているという自分のアイデンティティが持たなかったのだ。
直接反論しなかったのは、反論するだけの自信がなかったからかもしれない。
去年、13年の主夫生活にピリオドを打って正職に復帰することになった。
赤ちゃんだっだ娘たちも中学生と小学校高学年になり、子育てがひと段落したと感じていたいいタイミングで、新しく開園する保育園の園長を探しているという話をいただいた。
僕はその話に飛びついた。まず「園長」という響きがいい。主夫から園長に、なんて格好いいではないか。
部下になる職員は正職パート含めて7人。全員女性の予定だ。
主夫業をしながら保育士資格を取り、子育て支援のパートやNPO活動をしていた自分にピッタリ!
ほかの男性があまりしていない経験、主夫として女性の間でもまれてきた自分には楽勝でできると思った。
主夫業メインの生活から「普通の」勤め人にもどるために、家の家事分担を見直し、妻や娘たちと分け合った。
主夫としてずっと引き受けていたPTAの役や地域のボランティアを降りた。NPOの活動も制限した。
そんな準備を万端にして、張り切って復帰した会社員生活だった。
主夫業が「思ってたのと違った」ことをすっかり忘れていた去年のおめでたい自分を叱りに戻りたい。
現実は甘くなかった。
企業が運営する小規模保育園の園長。園長というと聞こえはいいが、立場は中間管理職である。
企業には企業の都合があり、現場職員には現場職員の想いがある。その間で引き裂かれた。
特定の部下から自分ではわからない理由で嫌われたりもした。
会社生活から13年間離れていた主夫がいきなり復帰して上手くやれるほど、園長という仕事は甘くなかった。
普通に稼ぐことも当然ながら「思ってたのと違った」のだ。
稼ぐということを甘く見ていた自分を後悔した。傲慢だった自分を恥じた。
「普通に働いて稼いでるパパさん、ナメててごめんなさい」である。
結局、その保育園は1年2ヶ月で辞めることになった。
ありがたいことにご縁があり、2ヶ月のブランクが空いただけで別の保育園で働けることになった。今度は園長ではない。
園長職の経験が活きているのか、去年ほど自分は傲慢でないと感じている。でも逆にちょっと謙虚になりすぎているのではないかと感じることもある。
探り探りだか、主夫経験や保育士資格を活かせる今の仕事。自分にできることを頑張るだけだ。
知人の父親に「最近仕事どう?」と聞かれた。
「普通にがんばってる」と答えると相手はびっくりした。
「和田くん、変わったな。去年は職場にいろいろ文句言うてたやん」
その言葉に僕はびっくりした。
文句を言ってた自覚は全くなかったから。
自分が言っていたのは文句ではなく、主夫という別の生き方をしてきた自分の立場からの今の職場への意見のつもりだった。
でもそれが普通に働いている父親からはただの文句に聞こえていたのだ。
自分がどんだけ傲慢だったかを知ったことに衝撃を受けた。
普通に働いて普通に稼ぐ、それだけで立派なことだとようやく気づけた自分。
ここからまた始めよう。
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