大事な試合前に入院することになったんだけど
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記事:山田 楓(ライティング・ゼミ木曜コース)
「あの頃が人生のピークだったよね」
この前高校のバレー部の友達に会ってそんなことを言い合った。
半年ぶりに会ったにもかかわらず、昨日までずっと一緒にいたかのように話して、急に高校生の頃に時間が戻される気がした。
いつも高校の部活の友達とする話は同じで「私たちいつもこの話をしてるね」と笑いあっていた。
何の話かというと、あの日のあの試合で勝ちをもぎとったことについてだ。
高校3年生の春。
3年生の私達にとって勝たなくてはいけない重要な試合があった。
その試合に勝って1位になるという目標を、自分たちの代になった時にみんなで話し合って決めていたからだ。
4チームでのリーグ戦で、すでに1試合目に負けていた。
2試合終えた段階で、1勝1敗だった私達のチームはまさに崖っぷちだった。
いつも励ます側の私がその時はすごく落ち込んでいて
チームのメンバーに背中をポンポンとたたかれたことを覚えている。
次の試合に絶対に勝たないといけない。
バレーボールは3セット中2セットを取れば勝ちなんだけれど、
4チームの中で1位になるためには1セットも落とせない状況だった。
しかも相手は私立高校で、格上で、いかにも強そうな感じで。
負ければその瞬間に1位にはなれない。目標が達成できなくなる。
いざ試合が始まると、なぜか体が軽かった。負ける気がしなかった。
最後の点数が決まった瞬間を、私は今でもしっかり覚えていて、キャプテンが打ったボールは相手の手に当たって、相手のコートに落ちた。
まるでその瞬間だけスローモーションのようだった。
最後の点数が決まって、チームのみんなで喜んだ。
みんなで泣いた。私は人生で初めての嬉し泣きを経験した。
嬉し泣きというものが人生に存在することは知っていたけれど
自分に起こったことはなかったから、後で冷静になってから驚いた。
私が泣いてしまうほど嬉しかったのには、きっと理由がある。
実は、私はこの大切な試合の2ヶ月前に1週間ほど入院していた。
体調が悪かったので病院に行くと、なんとそのままお医者さんに入院が必要だと言われたのだ。
いろいろな思いが頭の中をかけめぐって、でもどうしようもなくて、自分の身体はSOSを出していて、入院しなさいと言われている現状がそこにあった。
すごく大切な試合前というタイミングで、なぜ自分は入院しなければならないのか。
何でみんなが練習しているのに私だけは練習できないのか。
1週間も休んだらみんなより遅れてしまう。
みんなに迷惑をかけてしまう。
何よりもみんなにどうやって伝えたらいいんだろう。
ちょっと身体の調子が悪くなったから入院する、って?
伝えられるわけがない。言えるわけがない。
みんなに心配をかけられない。私なんかの事情でチームの和を乱したくない。
だから私はうそをつくことに決めた。
「ごめん、インフルエンザにかかった」
そう言った。本当のことを言うか直前まで迷ったけれど、幸いにも季節が冬だったこともあり、インフルエンザにかかったと言えばそれ以上追求されることはなかった。
頭で考えたらそりゃお医者さんに入院しなさいと言われているのだから、そうしなければならないのは分かる。
でも私は入院を告げられた時、泣いた。
入院は嫌だ、と泣いた。
自分の身体とかどうでもいいから部活に参加したい、と泣いた。
当時、高校2年生だった私にとって、引退が近づいていた自分にとって、部活は自分の全てだった。
チームのメンバーと共に、負けては泣いて、怒られて、練習して、
そしてやっと目標としてた試合が目の前に近づいていたのだ。
入院の1週間は正直とてもきつかったけれど、退院した私は何事もなかったかのようにチームに合流した。やっといつもの日常に戻ることができた。
今までの分を取り戻さないといけないと思い、今まで以上に練習をがんばった。
そんな経緯があったので、試合に勝った時、泣いて、泣いて、泣いた。
勝った後にコートに立っている私たちをマネージャーがスマホで写真に収めてくれていたのだけれど、みんながみんな抱き合って泣いているのが残っている。
あの頃毎日一緒だった私たちは、大学生になった今、毎日一緒にいることはできない。あの子はあの子で私とは違う環境でがんばっているし、私には私のいる環境がありやるべきことがある。
でも高校3年間、私に居場所を作ってくれた部活での経験を、私は一生覚えていると思うし、覚えていたい。
さすがに入院が決まった時は絶望を感じたと言っても過言じゃない。
テスト期間以外で部活からそんなに離れたことがなかったし、やっぱり自分を形成している大部分は部活だったのだ。
毎日当たり前のように高校に行って
毎日当たり前のように部活の時間があって
毎日みんなに会うことができる。
私はこの喜びに、高校生時代は気づいていなかった。
あとからそのかけがえのない大きな存在を知って、幸せだった自分に気がついた。
あの頃の自分たちは間違いなく輝いていて、でもその渦中にいた時は気づかなくて、終わってから気づく。
がむしゃらにした練習、突然の入院、嬉し泣きした勝利。
あの頃のキラキラした思い出を抱えて、私はこれからも生きていく。
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