ギャルの生徒会長と出会った話。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:Misaki(ライティング・ゼミ 日曜コース)
「うっわーやばいわ、まじで!!」
やばいやばい、と大慌てで生徒会室へ走ってくる人影が見えた。
その新生徒会長は、だぼだぼの真白いルーズソックスを履いていた。
当時、平成22年。私ははじめて、ルーズソックス女子を見た。
この日、生徒会役員選挙が終わり、当選を果たした1年生の書記3人は、生徒会室の入口で立ちすくんでいた。そのうちの一人が、私だった。
私が入学した高校は、色々な噂が飛び交う学校だった。
偏差値がほかの学校に比べると低かったので、楽に入りやすいといわれていたようで、倍率は他校より2・3倍も高かった。
そのころ、私は第一志望校に落ちて、悩んでいた。
中学の先生には、私が入学する年から、高校の体制が変わるので、これから落ち着いていくと思うから大丈夫だろうと勧められた。
悩んだ末に、私は家から一番近いその高校を受けたのだった。
無事合格した私は、数カ月後には生徒会役員の書記になり、
そして、生徒会室の入口で呆然としていた。
初めて入った生徒会室は、壁、机、天井、どこもかしこも落書きだらけで、机はサインペンで真っ黒になっている。
信じられないほど、ほんとうに、汚かった。
生徒会室の状況に追い付けずにいると、新生徒会長の小田さんが入ってきた。
「おつかれー! テスト追試になったわー、やべー!」
小田さんと話すのは初めてだった。
くるくるカールした茶髪の長い髪の毛、バサッと盛られたつけまつげ、ミニスカート、だぼだぼの白ルーズソックス、かかとの潰れた上履き(落書きあり)。
小田生徒会長の第一印象は、地味グループに属してきた私にとっては、かなりインパクトがあった。
彼女は、いわゆるギャルと呼ばれるタイプの子になるのだろうか……などと考えていると視線が合った。
「よろしくねー!」
よ、よろしく! と咄嗟に返す。
ギャルは怖い……というイメージを浮かべていた矢先のことだった。
ニコニコしながら笑顔で話しかけられたことにさえ緊張して、一瞬面くらってしまう。
その流れでお互い自己紹介と挨拶をして、顔合わせを済ませた。
この日、小田生徒会長とほか7名の役員がそろい、新生徒会が発足したのだった。
生徒会の業務が始まると、決まった曜日に毎週集まることになった。
自然と、小田会長とも話す機会は増える。
見た目の印象から、私は会長に対してなんだかコワイイメージをもってしまっていた。
しかし、話していくにつれてそのイメージは変わっていった。
彼女は、私と同じ16才の少女で、いつも明るく元気で、遠くにいてもわかるくらい声の大きな子だった。
「なんかずっと目が腫れてていたいんだよねー」
「病院行った方がいいわよ。……あら、保険証は持っていないの?」
ある日、生徒会室へ行くと、顧問の先生と小田さんが話しているのが聞こえた。
「お疲れさまです。どうかしたんですか?」
話を聞くと、小田さんがここ数日、目がとても痛くて困っているのだが、保険証がないので病院にかかれないということだった。
そのときはじめて、小田さんの家庭には複雑な事情があるということを知った。
毎日、学校が終わってからバイトをがんばっていて、自分のお小遣いや食費を稼いでいることも聞いた。
そのとき、私は大きなショックを受けたのだった。
当時、私はバイトをしていなかったし、病院にかかれるのは当たり前だったし、毎日を不自由なく暮らしていた。特別裕福な家庭ではなかったけれど、お金に困っていると感じたこともなかった。
そうか……世の中にはいろんな家庭があるし、いろんな人がいるんだ……。
さまざまな事情の人がいるということ、それは当たり前のことだけど、私は分かっていなかった。
私はそれまで、小田さんやほかの生徒を見た目で判断して決めつけていた。
そして、私の方が真面目だ、ちゃんとやっている、と心の中で比べてしまっていた。
そんな考えでいっぱいになっていて、相手のことが見えていなかった自分が、すごく恥ずかしくなった。
私は、彼女との出会いがあって、人の見方が変わっていった。
それからの3年間で、私はいろんな人に出会った。
この高校で過ごしていく中で、みんなそれぞれが個性的であることに気が付いた。
ギャル生徒会長の小田さんに出会って、私は視野が広がったように感じた。
それは、虫眼鏡を手に入れたような気分だった。
普段見えにくいことが、すこし関心を向けてズームしてみると、良い面も悪い面もあると知った。
自分の思い込みを一旦置いて、拡大してみてみた世界は、自分の知らない世界ばかりだった。
そして、知れば知るほど自分について考える時間も増えていった。
高校入学前は、3年間やっていけるのかな……と不安でいっぱいだった。
でもこの学校に入って、生徒会で小田さんと接する機会があったことが、私にはとても必要なことだったと思うようになった。
彼女にもらった虫眼鏡は、今も私の胸の中にある。
そのレンズが、年を重ねるにつれて曇ってしまうことのないようにしたいと思った。
私は、できれば何事に対しても、本当はどんな形をしているんだろう? と知ろうとする「心の虫眼鏡」を大切にしたいと思っている。
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